24 もう一人のソロ探索者
また長くなってしまいました…。
長いと読むの疲れるかもしれませんが、ゆっくり読んでいただけると幸いです。
ズンズンという効果音が聞こえてきそうな勢いで近づいてきた男は、俺の数メートル手前でようやく足を止めた。
「いや~~~~ようやく会えたわ。会いたかったで~」
両手を広げて嬉しそうに言うが、この男について全く心当たりがない。なんで俺に会いたかったんだ?
「えーと、誰?」
「おっとすまんな。ワイは東雲迅っちゅーもんや。関西で活動してて、あんたと同じソロ探索者をやっとる。よろしゅうな。」
その自己紹介の声と方言を聞いて、ダンジョンに入る前に職員と揉めていた人物のことを思い出す。この東雲が騒いでいたのか。
というか、ソロ探索者?
:関西の探索者か
:そこ関東のダンジョンだよな?なんで関西の探索者が来たんだ?
:え?ソロでこの階層にいるの?
そう、ここは61階層だ。日本では最前線と言っていいし、以前調べた時は天譚九曜というチームしか到達していないという情報だった。
「...ソロでこの階層に来れるのか?」
「いや、そこは自分も自己紹介するところちゃうんかい!まぁええわ、押しかけたのはワイやからな。そう!あんたに会って言いたかったのはそこやねん!あんたのせいでワイの計画はパーや!」
東雲は俺を指さして大げさっぽくそう言う。話が読めないな。なんだ計画って。
「今言った通り、ワイはソロでこの階層まで突破しとる。ええか?ワイの到達階層は63階層や!」
63階層...まさか俺以外にソロでそこまで深く潜っている人がいるとは...
:ソロで63?すげーじゃん
:1人で天譚九曜と同レベルってことか
:主以外にもそういう人いたんだ
「かーーー!やっぱそないな反応なるよな!!そこは『63!?とんでもないですね!?』みたいな反応になるところやろがい!!」
東雲は俺のドローンから投影されているコメント欄を見て頭を抱えながらそう言った。
「いや、すごいと思うぞ?あまりの驚きに声が出なかっただけだ。」
「あんたはそう言うても、コメントさん的にはそうでもないらしいねん...」
:ソロで80階層とか85階層の人がいるからな...
:あれを見た後だとね...
:たしかにとんでもないことではあるんだけど、ちょっとタイミングが...
そういわれてコメント欄を見ると、みんな「80階層と比べるとそんなに...」といった反応だった。
「まあ周りの評価はそこまで気にする必要ないんじゃないか?」
「名誉欲がなさそうなあんた的にはそれでええかもしれんけど、ワイとしてはそれじゃあかんのや。」
東雲は肩を落として溜息をつきながら話を続ける。
「ワイはな、ソロで天譚九曜の到達階層を超えてから、『突如現れた日本一を更新したソロ探索者!』として名乗り出るつもりやったんや。そんなん話題になってチヤホヤされるにきまっとるやろ?」
なんだ?身の上話か?
でも...なんか話が読めてきた気がする
「ところがや。あともう少しで目標が達成できると思ったところに、とんでもない情報がとんできたんや。『ソロで80階層まで行ってる探索者がおる』ってな。」
「...俺のことだな」
「そうや。ワイは『フェイクに決まっとる』って思った。ソロの厳しさはよう知っとるからな。でもあんたが突然配信でほんまに80階層を映したことによって、その情報は嘘じゃないことが確定した。」
それによって、東雲が人気になろうとしていた計画が台無しになったってことか...
「それはまあ、ご愁傷様ですというか...。悪かったな。意図してないとはいえ邪魔したみたいで。」
「いや、まあそれはええねん。よくはないけどええねん。」
どっちやねん。
「それを知ったワイは、どうしてもそいつと会って話したかったんや。調べたところ、そいつはダンジョンで彩風三花と会ったことがある。彩風三花の拠点は関東ダンジョンや。だから遠路はるばる関東まで来たんや。」
:それ付きまといじゃね?
:普通にマナー違反だよな
:一般人じゃなくて探索者同士だったとしても良くないぞ
「マナー違反なのはわかっとる。それでも勢いは止められんかったんや。ただ、あんたに会おうとすると妙~~~~に邪魔が入るねん。そら付きまといっぽい行動はしてたかもしれんけど、それにしてもや。ダンジョン周辺をうろついてたらすぐに警備とか職員に声かけられるねん。」
...多分ダンジョン省、というか佐藤さんの指示か?「他からの表立った接触は避ける」といった約束。そのせいかもしれない。
「ダンジョンの入り口やと会うことはできなさそう。ほなどうするかと思ったところで、いつの間にかあんたがダンジョンに入って配信を始めてた。それを見ると、60階層の攻略をするって言うてたんや。それを聞いて、ワイも行ける階層や!先に61階層に行って待っといたろ!って思って、こうして待ってたわけや」
「なるほどな。」
すごい執念だな…
「転移石はどのダンジョンも共通で使えるからな。持っといてよかったわ。」
「それでこうして俺に会えたってわけか。まぁ誰でも来れる1階層で待ち伏せじゃなく、この階層まで来たのなら...いいんじゃないか?」
:いやよくはないぞ
:配信のってるし、戻ったら厳重注意されるだろうな
:そもそも1階層で待ち伏せしても、配信に映ったらすぐに職員とか警備が駆けつける
「それで、会いたかった、話したかったっていうのは?今の話のためか?」
「今のは前提の話しや。本題を言うとやな、ワイと手合わせしてほしいねん。」
手合わせ?いきなりだな。
「なんで?」
「80階層越えは事実で、その実力も映像見た限りは本物や。でもな、見るだけで何もせーへんで格付けが決まるのは納得いかんねん。直接手合わせして負けたなら納得できる。もし勝てたのなら、それはそれで『噂の探索者に勝った』って言う箔もつく。そういう寸法や。だから頼む!この勝負受けてくれ!」
そう言って東雲は頭を下げる...どころか土下座をしだした。
ちょっと急展開すぎるけど...どうしようか。
:受けなくていいぞ
:受けてあげなよ
:見てみたい
:ほっといていい
:マナー違反なんだし無視していい
:そもそも手合わせってしていいの?
コメント欄を見ても、賛否両論と言ったところだった。受ける義理は全くないんだが、このままほっといてまた変な行動をされるのも困るな。
「なんやったらワイの情報を教える!スキルとか!」
「それ聞いて得あるか?」
「ほんなら、アイテムはどうや!50~63階層のアイテムは売らずにとってるんや!日本一になって名乗り出てから売ろうと思ってたからな!」
「...自分で取れはするけど、ちょっと興味はあるな」
50階層以降はまだそこまで開拓が進んでいない。海外を含めればそれなりに到達しているチームはいるが、有益な素材なんかは見つけても秘匿している可能性がある。
かくいう俺も、一通り探索はしているが東雲の言う50~63階層をくまなく探索したというわけではない。もしかしたら俺の知らない素材があるかもしれない。
「よっしゃ!ほんなら見せたるわ!」
そう言って東雲はマジックバッグから素材を出していくが...
「...全部知ってるな」
残念ながら出された素材は全部知っているものだった。現状特にほしいと思えるものもない。
「くっ...。ほなワイの覚悟を見せる!スキル教えたるわ!ワイの固定スキルは『スキル上限拡張』いうてな!『スキル保有数を増やすスキル』やねん!これによって、今は自由スキルを合計10個取れるようになっとる!どうや!?」
俺が渋っていると、聞いてもいないのに唐突にカミングアウトをしだした。どうや!?って言われてもな。
さっきも言ったけど聞いたところで何の得もないし。というかそんな軽々しく言っていいものなのか?
:え、何そのスキル
:ズルくね?スキル10個も持てんの?
:普通に化け物みたいな能力で草
しかしスキル10個か...。今の俺が創造スキルで作り出せる数と同じだな。日ごとにスキルを創りなおして切り替えることができる分、俺の方が使い勝手はよさそうだが。
だが単純にスキルの数や能力という点では、俺に近いものがあるかもしれない。
「今持ってる自由スキルはな...」
「いや、いいよそこまで言わなくて。わかった、やろう。」
「ほんまか!?」
「その代わり、この素材1つだけもらうぞ。」
そう言って俺は出された素材から、61~63階層で採れる素材を一つ拾い上げる。
さっきも考えたが、東雲はこの階層までくるようなやつだ。断ってもまた何か別の行動を起こす可能性が高いだろう。それならさっさと勝負を受けてしまったほうがいい。
ただ、そうすると「俺は勝負を受けてくれる」って話が広まって、手合わせに来るやつが増えるかもしれない。だからここで条件を言っておこう。
「配信にのってしまってるけど、別に俺は誰でも勝負を受けるわけじゃないからな。条件としては東雲のやったように、『固定スキルの開示』と、『61階層以降の素材を出すこと』を条件としよう。」
:ほとんどできるやつおらんやん
:まあそう言っとかないと無暗に申し込んでくるやつとか文句言うやつ出てくるからな
:実質「これ以降誰も申し込んでくるなよ」ってことだな
「ほんまありがとうな!!ほな早速準備してやろうや!」
「ちょっと待て。勝負の条件はどうする?剣を使うと事故もありえるぞ?」
「それなら心配いらん!木の剣と盾持ってきたからそれ使えばええ!ちゃんとダンジョン産の木を持って帰って加工してもらって、『頑丈』の付与もしてもろてる!」
「準備万端だな...」
相当な手間がかかっただろうに...それだけ手合わせしたかったのか。
ダンジョン産とは言え、木を加工した程度では付与は一つが限界だ。つまり武器技は使えない。まあ手合わせならそれでいいだろう。
東雲から装備を受け取り素振りなどをして準備をしている間、『鑑定』スキルを創り東雲を見てみる。
レベル:77
スキル:スキル上限拡張・俊足・集中『・スタミナ増加・俯瞰視点・渾身・重撃・毒軽減・部分硬化・認識強化・戦闘の心得』
※『』内は拡張分
(...強いな)
魔法系は斬り捨てているようだが、ソロで63階層まで来てるだけあって大体のことはできそうだ。
今回の戦いでは無意味なスキルもあるが、それでも戦闘で使えるスキルがほとんどなので注意しないといけない。
(警戒すべきは、『重撃』と『渾身』だな)
どちらも魔力を消費して威力を上げるスキルだ。その一撃をくらえば、下手したら粉砕骨折もありえるかもしれない。
「よーし、ワイは準備できたで。そっちはどうや?」
「...ああ、俺も大丈夫。」
戦略を考えているうちに、東雲の準備は終わったようだ。
まぁ命をかけた戦闘でもないので、そこまでじっくりと考えなくていいだろう。
もちろん、負けるつもりはないが。
俺たちは距離を取り向かい合う。そして開始は東雲の声と共に始まった。
「ほな、開始や!行かせてもらうで!」
その声と同時に、東雲は猛スピードで近づいてきて木剣を横に振るってきた。
くしくも先ほどのカマキリと同じような攻撃を、俺は一歩下がることで避ける。
空振りをした東雲はそのまま一回転をし、今度は突きを繰り出す。
その突きは木剣を添えて横に逸らしたが、次は突きの勢いのまま接近してきて盾で殴ろうとしてくる。
が、俺はそれを同じく盾で受け止める。
一瞬近距離の睨み合いとなるが、東雲は死角となる足元での攻撃、足払いをしてくる。
それを足を浮かせて回避し、そのまま飛び退いて距離を取る。
「…ようかわせたな」
「まぁな」
カマキリの早い攻撃用に『反射神経強化』を創っていたが、それが上手く作用した。
足払いに関しては、俯瞰視点に対抗して創った『視界拡張』が役に立ったな。
「まだまだこれからやでえ!」
東雲は再び接近してきて攻撃をしてくる。
俊足による素早い移動に、俯瞰視点を使ったいやらしい位置取り、戦闘の心得の効果で足捌きや体の使い方も上手い。
:防戦一方だ
:大丈夫かこれ?
:でも防ぎきれてるな
:反撃できそう?
俺はその攻撃を防ぎ、躱していく。一度早さ重視で木剣を腕に当ててみたが、部分硬化を使われたのか手ごたえは全くなかった。なので再び防御に専念する。
防いでいくうちに東雲の額に汗が見え始める。スタミナ増加があるとはいえ、それだけ猛スピードで動き続けていればさすがに疲労するだろう。
それに、全力を出しているのに決定打が与えられないというのは精神的にも疲れてくるものだ。
数十合と打ち合った後、今度は東雲が距離を取る。
「...わかったわ。このままじゃ埒があかん。決めに行かせてもらうで。」
東雲の雰囲気が変わり、姿勢が低くなる。
...でかい一撃が来るな。
初撃のように猛スピードからの攻撃。同じように一歩引いて避けようとするが、その一撃はフェイントだった。
攻撃を途中で止め、さらにもう一歩踏み込んで盾をぶつけてくる。
そして盾がぶつかり動きが止まった俺めがけて全力の一撃を振るってきた。
「おらあああああ!!!」
「...っ!」
その攻撃を木剣で受け止めるが、おそらく渾身と重撃をのせたその一撃は受け止めきれるものではなかった。
木剣が押され体にぶつかり、そのまま後方へと吹き飛ばされる。
:ぎゃあああああああ!
:くらったあああああ!
:結構吹き飛んだぞ!?
:いや、意外と大丈夫そう?
だが押し切られる瞬間に自分から後ろへと飛んだことにより、大ダメージは防げた。...とは言っても内出血してるかもしれないくらいの傷は負ったが...。
吹き飛ばされたが素早く立ち上がり木剣と盾を構えた俺を見て、少し息を荒くしてる東雲は、深呼吸しながら構えを解いた。
「はーーーーーー.........ワイの負けや。」
その言葉を聞き、俺はピタッと動きが止まる。降参?
:え?
:負けって言った?
:なんで?押してたじゃん
「何て言った?」
「だから、ワイの負けやって言うてん。実力差はようわかった。」
「...」
「あんたさん、わざとワイの攻撃全部受け切ったやろ?反撃も小手調べ程度にしかしとらん。ワイを倒すつもりならもっと激しくしてたはずや。」
:マジで?
:そうなの?
:防御で精いっぱいに見えたけど、わざとだったのか
「気づいていたのか。」
「さすがに気づくわ。そら最初はワイが押してるおもたけどな。途中から違和感しかなかったわ。」
「いっとくけど、全部受け切った後に反撃するつもりだったぞ。最後の攻撃も、正直かなり効いたし。」
そう言いながら俺は腰をおろしその場に座り込む。
胴体を見てみると、やはり痣ができていた。
それを見たところで、思い出したかのように体がじわじわと痛み出す。
「ほれ、これワイのポーションや。申し込んだのワイやからな、飲んでくれ。」
「...ああ、ありがとう。」
「それにな、あんたさんは60階層主との戦いを終えた後でもある。それなりに疲労してる状態で、ワイの本気は通じひんかった。さすがに負けを認めるしかないで。」
:たしかに、階層主終えた後だもんな
:普通はそれだけで満身創痍なってもおかしくないのに
:その状態で手合わせして全部受け切るのは、たしかにすごい
「まあ気づいてくれてよかった。あのまま長引くとどうなってたかわからんし。」
「あのままやって、もし何かの偶然で勝ったとしても、とても勝ったと思われへんわ。」
「そうか。」
俺はポーションを飲みながら適当に相槌をかえす。
すると東雲は近づいてきて、手を差し出してきた。
「そういやあんた、歳はいくつや?20代言うてたけど、前半か?」
「...前半だけど?」
「...ワイは26歳、年上や。敬語使わんかい。」
東雲はニヤリとしながらそう言う。
俺は東雲の差し出された手を受け取りながら、笑いながら返した。
「やなこった。」
次回は2月12日(木)更新です。
東雲、喋りすぎやねん。長くなってもうたわ(汗)




