23 60階層主と、謎の接触者
いつもの1.5倍くらい長くなりました。
「いらっしゃいませ。お久しぶりですね。」
「ああ。ちょっと色々あって来れなかった。素材の売却がしたい。」
久しぶりに感じる、いつもアイテムの売却や購入をしていたお店。
店内は以前と変わらず静かで、どこか落ち着く空気があった。
佐藤さんに確認したところ、この店はダンジョン省が経営に関わっているらしいので、約束の「素材の優先売却」に関してはこの店を利用すればいいとのことだった。
俺からしたらこれまでと変わらないのでありがたい。
「ご活躍は聞いておりますよ。薄々わかってはいましたが、やはり持ち込まれていたのは深層の素材でしたか。」
素材を出すスペースに案内されながら、店員がそう言う。
まぁ浅層では滅多に手に入らないような素材やアイテムをいくつも売却していたので、さすがに気づくだろう。守秘義務がちゃんとしている店員なので騒ぎになることはなかったようだが。
「まあな。というか、ここのお店ダンジョン省が経営にかかわっていたんだな。」
「ええ。ダンジョン周辺の施設はダンジョン省が関わっているところが多いですよ。最近は一般の企業がダンジョン関連の事業に手を出して、展開しているものもありますが。」
そんな話をしつつ、素材をいくつか出していく。80階層主の魔石に、81階層で採れるポーション素材、付与素材などだ。
「これらは、配信で採取をしていた81階層の素材ですか?」
「知っているのか?その通りだが、その中でも少し質が低いやつだな。高品質のものは自分で持っておきたい。」
「ええ、私も時々見ていますので。しかし、これで質が低いですか...」
店員は素材をゆっくりと手に持ち眺める。
あくまで81階層の中では質が低いだけで、浅層~中層の基準で考えると高品質と言えるだろう。
「これを使った付与もポーションも、ソロの深層では通じないだろうな。チームでじっくりと戦えるならまた違ってくるかもしれないが。」
「ソロの深層基準ではイマイチということですね。つまりチームで、40階層や50階層で使用する分には使い物になると?」
「充分使えるだろうな。」
「ではそのように記載しておきます。ポーション類の素材は議員や役員用に回されるでしょうが、付与素材については一般に売りに出されるでしょう。」
そう言って店員は端末に入力をしていく。
議員や役員用か。ポーションは傷だけでなく、種類によっては病気などにも効く。お偉いさんは自分のポーション確保に必死なんだろう。
「あとは一階層の転移石を購入したい。」
「かしこまりました。」
そうして雑談をしながら売却と購入を終えた俺は、そのまま店を後にした。
なんだかんだで気の知れたこの店をそのまま使い続けられるというのは、意外と気分的に助かるな。
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売買を済まして店を出た俺は、そのままダンジョンの入り口へと向かう。
ダンジョン周辺には多くの施設や店が並び、それを利用する人たちで賑わっている。
最近は「ダンジョンで採れた食べ物を食べてみたい」といった理由で一般人の利用も増えているようだ。
だが人が多くなれば、当然トラブルが起きる時もある。
「せやから!ちゃんと目的があってここにおるねんて!」
「そうは言いましても、先ほどから何時間もこのあたりを行き来していますので。こちらとしても、探索者の付きまといなどを考慮して声をかける必要がありまして──」
「そんな怪しいもんちゃう!ワイも探索者や!」
少し離れたところから、客と職員の声が聞こえてくる。
時々だが、ダンジョン周辺を訪れる一般人の中に、有名な探索者と接触しようという目的の人がいることがある。
探索者は必ずダンジョンの魔法陣を利用するため、そこを見張られていると見つけられてしまう。
一時期そういった付きまといが問題になり、さらには事件にも発展したため、現在そのあたりの警備は厳しくなっている。とはいえ、それでもまだ時々は出てくるようだ。
(今の人も誰かが目当てだったのかな。...いや、自分も探索者って言ってるし違うのか?)
そんなことを考えながら魔法陣に入り、1階層へと転移する。
今日は少し考えがあるので、まずはそれを話すつもりだ。
:こんにちはー
:いつも通り唐突に始まったな
:今日は来れたぜ
言いたいことを頭の中でまとめた後、配信開始のボタンを押してコメントを投影する。
ドローンを起動するのも最初は手間取ったが、何度もやれば慣れるものだな。
「前回みんなと話して、みんなの意見を聞いて、ちょっと考えてみた。それで、これからは少し方針を変えていこうと思う」
:いきなり本題
:そういや始まりの挨拶とか決めないの?
:ここはそういう挨拶する配信じゃないだろw
:どんな方針にするんですか?
「前回で気になったコメントがあってさ。それが『深層の情報を見ても、深層に行けなきゃ意味ないよな』ってコメント。」
至極当然の意見だった。これまでは「みんなが深層に来た時にスムーズに探索できるように、深層の情報を見せる」というものだったが、そもそも深層に来れなければその情報も使えない。
「ということで、これからは『深層に行くための配信』もやろうと思う。今日本のトップが65階層だっけ?それで、その次は50階層台にいくつかチームがあるみたいだから、60階層あたりからの配信もやっていこうと思う。」
:たしかに60階層より先は情報少ないもんな
:今の日本のトップはあなたですけどね
:天譚九曜の話だよな
:深層配信はしばらくなし?
「いや、80階層以降の配信もやっていく。60階層台と80階層台、交互にやるかはわからないけど、半分ずつくらいでやっていくつもり。」
具体的には、俺が大学の日は60階層台、大学が無い日は80階層台を探索するつもりだ。
「そういう方針で行こうと思うんだけど、まずは60階層主と戦うところを見せるか、61階層からの探索を見せるか、どっちがいいと思う?多分日本のトップとか海外の映像で、60階層主の情報はあるよな?」
:60階層主が見たいな
:情報あるって言っても、まだ数は少ないから60階層主がいい
:軽いノリでソロで60階層主やろうとしてんの怖すぎるだろ
:60階層主。今の前線組はそこ超えなきゃいけないだろうし
:50階層台の中ボスは?
「50階層台の中ボスは、ランダムな徘徊型で会えるかわからないし一旦無しの方向で。皆の反応的に、60階層主と戦おうか。ただ念を押すけど、俺の戦い方は『ソロの戦い方』だからな。戦法は鵜呑みにせずに、相手の情報を分析して自分たちに合った戦い方をすること。」
:了解
:あの人の戦い方を真似したら失敗した!とか言われても困るもんな
:階層主の戦い見せてくれるだけでありがたいよ
「よし、じゃあ行こうか」
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ダンジョン60階層、ボスの間の前
「到着。すまん、59階層の転移石しかなかったから時間かかった。」
60階層の転移石を持ってると思ったけど、勘違いだったらしい。
59階層を急いで突破して、そのまま60階層のボスの間までくる羽目になってしまった。
:いや全然時間かかってねーよ
:むしろ早すぎるだろ
:半日とか1日かけて攻略するところを、2時間くらいで突破したぞ
時間がかかったと思ったが、コメントを見るにどうやらかなり早い方だったらしい。
「早いのか。60階層主やるって言って2時間待たせたから、怒りのコメントでもあるかと思ったけど」
:普通に見てて楽しかったわ
:あんなスピードで59階層と60階層突破する人なんて見たことないからな
「まあ問題ないならよかった。それじゃ本命に行こうか。60階層主だな。」
そう言って俺はドローンをボスの間に向ける。
そこに映し出されるのは、緑褐色の巨体。
全長3メートルほどで、細長い胴体に異様に発達した二本の鎌。
その鎌は淡く紫色に光っている。
「60階層主は、見ての通りでかいカマキリだな。早さと攻撃力に優れているやつだ。」
:気味悪いなあ
:虫系はちょっと抵抗あるよね
:でか。キモ
:あの無機質な眼が怖い
「基本は鎌による攻撃で、距離があると斬撃魔法を飛ばしてくる。20階層のボス狼と同じ感じだな。そして、こいつの鎌には毒があるから、かすり傷でも負うと長引けば不利になる。斬撃魔法も毒付きだ。」
:見るからに毒ある色してるもんな
:鎌が紫でわかりやすい
:どう戦うのがいいの?
「こいつは素早いから、攻撃全部避けるっていうのは現実的じゃない。かといって剣や盾で防いでも、鎌の切れ味が鋭すぎるから何度か受けると装備も切断される。だから俺は短期決戦推奨だ。」
:短期決戦か
:聞くだけでも長期戦は不利だもんな
:弱点はある?
「弱点っていうか、攻撃が通りやすいのは鎌の根本と胴体、特に腹部分だな。逆に鎌は攻防一体だから、防御力も高い。鎌を壊すんじゃなくて、根元から切り取るイメージだ。」
:ハイリスクハイリターンか
:毒があるのが怖いよな
:近づくの難しそう
「毒があるって言っても即死するものでもないし、すぐに動きが悪くなるわけでもない。だから過剰に恐れずに、短期決戦のつもりなら多少の被弾は覚悟するべきだ。チームなら、被弾しつつ攻撃を当てた後に別のメンバーと交代して毒を治してもいい。50階層台後半で採れる『灰紋苔』ってやつをポーションに混ぜると状態異常回復効果が加わるから、それを用意しておくのがいいかな。」
ある程度の説明が済んだところで、俺はボスの間に入っていく。
ボスの間に入り俺を敵と認識した大カマキリは、視界から消えたと思うほどの速度で接近してきて鎌を振るう。
:はっや
:ほとんど見えんかったが
:なんで防げるんだそれを
初撃を盾で防いだ俺は、少し距離を取りながら話し始める。
「初動はほとんどの確率であの猛スピード攻撃をしてくる。でも軌道は振り下ろしか横なぎの2択だから、最悪武器と盾を両方に構えて置けば防げはする。それにあれは特殊な技っぽくて、以降の攻撃は初撃よりも遅い。」
:そうは言いましてもね
:防げても吹き飛ばされたりしそう
:急に目の前に来て鎌振るわれるのは恐怖だな
話しているうちに再びカマキリは近づいてきて鎌を振るうが、言った通り初撃よりも遅い。だが初撃に比べればという話であって、それでも全てを見切るのは難しい。
「悪い、あんま長引かせたくないから、ひとまず実演する。」
参考のため装備は深層用ではなく50階層台で入手できるものだが、だからと言って長引いて装備が壊れるのも嫌なので、俺は説明もほどほどにカマキリに突撃する。
鎌を受け、弾かれ、毒を覚悟で目の前まで踏み込む。
頭や首などの急所は守りつつ、カマキリが鎌を振り下ろしたタイミング。
少し切り傷を負いながらも、伸びきった鎌の根本を剣で斬りつける。
:当てた!
:ほんとに被弾覚悟か
:さすがに一撃で切断はできないか
カマキリは至近距離の俺めがけて鎌を振ってくるが、俺はそれを剣や盾で防ぐ。こいつの鎌は先端が鋭く、根元に行くほど切れ味は悪くなる。危険なように見えて、至近距離の戦闘はこちらが有利だ。
切れ味が悪いので何度か当たっても致命傷にはならないし、毒をくらう覚悟もある。
つまり防御ではなく攻撃に専念できるので、俺は至近距離を保ったまま鎌の根元を、胴体を、斬り続けていく。
最初は少し解説をするために距離を取ったが、本来はこの近距離のほうが逆に安全だ。...あ、肝心のそのことを解説してなかったな。まあ終わってから言おう。
:動きが止まらねえ!
:逆にカマキリが距離取ろうとしてないかこれ?w
:ずっと密着したまま斬り続けてる
そのまま攻撃を続けたところで、カマキリの動きが鈍ってくる。...そろそろ俺も毒の症状が出てくるだろうし、ここで決め切ろう。
俺は一歩下がり、剣を握る手に力を込める。カマキリとしては距離ができて絶好のチャンスのはずだが、何度も斬られたことにより動き出しが遅くなっている。
「踏破斬」
踏み込む動作が必要となるが、その分速度がのり威力は高い技。俺がこのあたりの階層でよく使っていた技だ。
視聴者にわかりやすいようにあえて技名を口に出しながら、カマキリを正面から斬りつける。
:おおおおおおおおお
:勝った!!
:踏破斬!踏破斬じゃないか!
:深層では見たことない技ばっかりだけど、ここにきて知ってる技だ!
踏破斬をくらったカマキリは粒子となって消えていき、それを見ながら俺は急いでポーションを飲んで毒を回復させる。
「こんな感じかな。説明し忘れてたけど、あいつの鎌は先端が鋭くて根元に行くほど切れ味が悪くなる。だから、毒を治す手段があるなら怖がらずに近距離で戦う方が実は安全だったりする。」
:ほーなるほど
:だからずっと近くで戦ってたのか
:バーサーカーにでもなったのかと思った
「まあ俺はソロだから短期決戦でずっと戦い続けたけど、チームならローテーション前提で戦ってもいいと思う。あと、ちゃんと首とか頭は守るようにな。防具は装備すれば体全体の防御力が上がるけど、頭部は防御を貫通しやすいらしいから。」
:たまに聞く話だよな、頭部貫通
:胴体装備なのに足元まで防御力上がってる不思議
:それでも頭部は致命傷になりやすいという
「まあ有名な話だし今更か。今回は50階層台の装備を使ったから、多少は参考になると思う。ただし何度も言うけど、参考だからな。俺の場合はレベルも高いから、俺と同じ動きをして同じことができるとは限らないぞ。」
:参考にして、自分の動きに落とし込みます
:大事なことなので何度でも言いましょう
:今日はこれで終わり?
「あとは61階層に行って、転移石だけ入手して終わろうか。持ってるか忘れたし、また今回みたいに転移石がないってなるのも嫌だから。」
家にいくつかマジックバッグがあるが、その中に61階層の転移石があったかどうか覚えていない。だから今のうちに入手してしまおう。
階層主のドロップアイテムの魔石を拾った俺は、そのまま魔法陣に入り61階層へと移動する。
「61階層については、また今度説明する。今回は魔物何匹か倒して転移石だけ入手したら終わりだ。その前にちょっと装備点検だけさせてくれ。」
:把握
:ゆっくり点検しなよ
:何度も攻撃受けると破損するって言ってたもんね
先ほどの装備を確認すると、盾が少し欠けていた。まあこの程度なら、装備を修復するアイテムを使えば直るだろう。真っ二つになったり原形をとどめてないほど崩れたりしていたら無理だが。
50階層台の盾だから使うかどうかは未定だが、今回みたいなことがまたあるかもしれないからな。修復しといていいだろう。
修復のオーブを使い盾が直ったことを確認した俺は、魔物を探そうと気配感知を広げたところで、あることに気づいた。
(...何か近づいてくる?)
気配感知で何かが接近してくるのがわかる。転移付近は魔物があまり来ないとは言え、絶対というわけでもない。だが魔物の足取りとも違うように感じたのでそちらを振り向くと...
「見つけたで~~~~~!噂のソロ探索者~~~~!!」
一人の男が、大声を出しながら近づいてきていた。
:え?
:誰?
:誰か来たぞ?
:誰ですか?
俺もみんなと同意見だ。
......誰?
次回は2月9日(月)更新です




