22 コメントと会話・スキルとレベルの開示
コメントで宝箱のことを思い出したので、マジックバッグから取り出して地面に置く。
黒に近い濃紺の宝箱で、表面には鱗のような模様が浮かび、光を当てるとゆっくりと色合いが変わる。
:綺麗な宝箱だな
:豪華だねえ
:これで中身しょぼかったら詐欺だな
一つ深呼吸をして、緊張しながらも宝箱を開ける。
中に入っていたのは、一枚の布だった。色は定まらず、角度や背景によって周囲に溶け込むように変化している。
取り出して広げてみると、どうやらマントのようなものだった。
:布?
:マントか
:装備か?防御力なさそうだけど。
マントを広げて『鑑定』をすると、頭の中に情報が入ってくる。
《深淵擬態の外套》
周囲の環境に同化し、装備者の気配を大きく低下させる。
※音は消せず、急激な動作をすると効果が薄れる
※常時魔力消費あり
(これは...あの中ボスの擬態をモチーフにしたマントか)
装備中は景色と同化し、気配も消える。ただし音は出るし、激しい動きをすると効果が切れる。魔力も常時消費する。
そういった効果だな。
:どんな効果なんだろうな
:何かしら能力ついてるとは思うけど
:持ち帰って鑑定に出す?
コメント欄はどんな効果か気になっているが、ここで俺が鑑定結果を言うと、何故鑑定できるのかという疑問が出てくるだろう。
別にスキルを絶対に隠したい、というわけではないが、わざわざ暴露するつもりもない。ひとまず装備して効果を目に見せるのがいいだろう。
:お?消えた!?
:いきなりいなくなったな。
:透明マント?
俺がマントを羽織った途端、コメント欄は「消えた」という反応をしだした。自分の手足を見てみると、景色と同化してはいるがうっすらと確認はできる。
自分では見えるが周りからは完全に姿が消えている、ということなのだろう。
そのまま少し歩いたり剣を抜いたりしてみる。
:音はするな
:透明だけど音は出る、って感じ?
:それでも相当強いな
今度は跳んだり走ったりしてみたところで、自分の体がはっきりと認識できるようになる。
:あ、見えた
:走るとダメな感じ?
:ジャンプしても見えたから、激しい動きはダメとか?
それらの検証を終えたところで、俺はマントを外しドローンに近づいていく。
「装備中は姿を隠す。でも音までは消せない。激しい動きは効果が切れる。ってところかな。あと魔力も消費するみたい。」
:なるほどなー
:姿を隠したまま戦闘はできないか
:戦闘用じゃなく、隠密用かな?
:魔力使うなら、ずっとつけてるわけにもいかないな
「多分素材集めとかに使う用かな。もしくは、気づかれてない時にこっそり後ろに回って、いきなり不意打ちから戦闘スタートとかできるかも。」
:それできたら強いな
:後ろからの先制攻撃できたら大分戦闘楽になりそう
:それこそボスを斬ったあの技とか使えば、不意打ちだけで終わるんじゃない?
「技は魔力使うからな。多分このマント、魔力は隠せないと思う。だから技使おうとしたら魔力でバレるだろうな。」
:普通に斬りつけるだけか
:それでも充分よ
:有利な立ち位置から始められるだけで相当違う
「これの使い道は追々考えていこう。使ってみないとわからないこともあるだろうし。今日はさすがにもう探索はやらないから、次回以降だな。」
:さすがにね
:疲れたって言ってたもんね
:じゃあ今回はこれで終わり?
「どうせなら少しコメントと話してから終わろうか。他の人が深層に来るためには、どんな情報を見せたり話したりすればいいと思う?」
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『どうせなら少しコメントと話してから』
その言葉を聞いて、花歌さんぽは思わず体を前のめりにしてしまった
(この人のこと、知れるかも...!)
配信主のその言葉と共に、コメントが一気に質問で埋まる。
さんぽもコメントしようとしたところで手が止まる。自分が聞きたいようなことも、すでに他の人がたくさん書き込みをしていたからだ。
それに己惚れているわけではないが、自分が少しは有名だという自覚もある。先ほどはコメント投影のやり方をコメントしたが、これ以上自分が積極的にコメントするのも、なんだか場の空気を乱してしまいそうで気が引けてしまった。
『えーと...プライベートな質問には答えるつもりないぞ。どこ住み?とか、彼女いる?とかは、ダンジョン攻略に関係ないし』
配信主は少し困りながらそんなことを言った。どこにでもプライベートを探る視聴者というのはいるものだ。自分も身に覚えがある。
『年齢は、20代とだけ言っておこうかな。まだ体が動くから多少の無茶はできるけど、たとえば40代の探索者が深層まで来れるのか、とかはわからないな。』
年齢は、一応探索に関わることと判断したのかもしれない。たしかに有名な探索者は概ね20代と30代だ。やはりそこを超えると体も動きにくくなるのだろうか。
『レベルが上がれば老化の減少も遅くなる研究がある、って、ほんとに言ってる?もし本当ならおじさん深層探索者も出てくるかもしれないのか。でもまあ、おじさんだけどどういう動きすればいいですか?とかは聞かれても答えられないかな。俺もわかんないし』
その情報は別の意味で興味があった。
(レベルが上がれば、私も若い状態を長く保てるってこと?)
後でその研究データを調べてみよう。そう思ってメモしつつ、配信の続きを聞く。
『なんでソロなんですか?ソロの方が有利なんですか?これについての回答だけど、チームの方が有利だと思う。カバーもできるし、撤退もしやすい。だからもし俺を見て、【ソロでやろう!】って考えてる人はやめた方がいいと思う。ダンジョン探索するならチーム推奨だな。』
(チームの方がいいとは思ってるんだ...)
ソロ至上主義、というわけではないらしい。じゃあ一体なぜ...?
『俺がソロの理由は、なんというか、もしチームの人が死んだ場合に責任が取れないというか、押しつぶされそうな気がしたからさ。多分チームの誰かが死んだら、もうダンジョンに潜れなくなると思う。それが怖くてソロで潜るようになった。』
:あー...
:めっちゃ人間的...
:実際それでPTSDというか、引退した人もいるしな
(もし私なら...つば姉やふーちゃんが死んでしまったら...。たしかに、もう潜るのが怖くなるかも。でも一人で潜る方がもっと怖いって思っちゃうな。この人ソロで深層まで行ってるし、やっぱ少し変わってるところあるのかな)
『だから、ダンジョン潜るならチーム組んだほうがいい。深層目指すならなおさらな。』
当然の答えだった。現状80階層まで潜っているのはソロのこの人だけだが、この人が例外なだけだ。
:スキルはなんですか?
:レベルはいくつですか?
:ダンジョンで一番気を付けていることは?
:装備は何を使ってる?
:臨時でチーム組んで深層探索はしない?
『臨時チーム連れて深層探索はしないかな。それしたところで、その人たちが深層で通用するとは思えないし。』
もっともすぎる意見だ。むしろ身の丈に合わない階層に行って命を落とすのがオチだろう。
『スキルは...んー、参考にしたいのかもしれないけど、ほんとに参考にならないからな。固定スキルは人によって違うからそれだけで戦術変わるし、俺は自由スキルもチーム組んでる人とは違うから。』
:そういわれると逆に気になる
:自由スキルでいいから教えて!
:それだけ強いと、手の内バレて襲撃されたとしても返り討ちできそうだけどな
:返り討ちできるって言っても、無駄にリスクは背負いたくないだろ。
(たしかにスキルは気になるし参考にしたいとも思うけど、無理に言わせるのはよくないよ)
コメント欄にもやもやするさんぽだったが、配信主は少し悩みながらも言葉をつづけた。
『まあ自由スキルの1つだけ教えようか。名前は【孤高の戦士】。効果は【単独戦闘時に能力上昇】っていうやつ。ソロ用だから参考にならないぞ』
:おおおおおおおおお
:スキル開示きた!!!
:本当に参考にならなかったwwwwwww
:上昇幅めっちゃすごいとか?
『上昇幅も、とんでもないってほどではない。何度も言うけど、素直にチーム組んだほうがいいよ。俺はもうソロ用構成だし、さっき言ったようにチームのプレッシャーとかに耐えきれないから組まないけど。』
:海外で同じ効果のスキル聞いたことある。結論としては『素直にチーム組んだ方がいい』って結論になったはず
:主と言ってること同じだ...
:まあ能力上昇したところで、3人組4人組のほうが強いのは間違いない
『そう。いくら能力上昇するって言ってもそれでスキル枠1つ潰れるし、それなら別スキル取ってチームで探索した方がいい。だからこの【孤高の戦士】のことは参考にしないでほしい。』
(ソロ用スキル...そんなのがあるんだ)
そのスキルを使っていくと決めたとき、どんな心境だったのだろうか。これまでソロの強い覚悟を持って探索してきたのだろうと思うと、この人の孤独、孤立に少し心配になってしまう気持ちもあった。
『レベルは...これも参考にしたいのかもしれないけど、多分参考にならないぞ。一応教えるけど、今94レベル。でも基本はチームで挑む場合、階層=レベルと思っていいはず。50階層挑むなら、レベル50の3人組とかで挑むこと。』
:94!?
:たけーーーー
:海外トップでも80レベル行くか行かないかだよな
:そうか?むしろちょっと低くない?
(94...?)
コメント欄は驚きがほとんどだが、さんぽと一部のコメントは疑問に感じていた。
たしかに世界最高レベルだと思う。さんぽ自身まだ60レベルにも行っていないし、日本のトップも65~70レベルだろう。
(でも、ソロで深層に行ってるにしては少し低いような...。てっきりレベル100超えてると思っていたのに...)
いくらソロ用スキルで能力が上がるとはいえ、そのレベルで1人で深層にいけるだろうか?
何か秘密があるのかもしれない。
だがその秘密は配信で語られることはなく、さんぽはそのまま謎に思いながらも配信を見続けた。
次回は2月5日(木)更新です
皆様のおかげで日間ローファンタジー1位になりました。
これには作者もにっこり。
ありがとうございます。
あと、Xアカウント作りました。活動報告にIDあるので、気になる方はご覧ください。




