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320 天使のごほうび


「あら、今日のお弁当はいつものよりずいぶん大きいわね」

 私の魔法鞄から取り出したお弁当箱は、王妃様の言う通りお弁当というより、長方形の大きな箱仕様である。

「本日はお料理を盛り付けたお皿を保存魔法を施した入れ物に入れてきましたの。ですので大きいのですわ。どうぞ、お弁当箱からお皿を取り出してお召し上がりください」

 今日のおみやげは、最近バーティア伯爵領のレストランで提供されはじめたものである。


 実はこのお料理をお弁当にしようと大きなお弁当箱を用意したものの、お皿に盛り付けた立体感のあるあのワクワクするビジュアルが、お弁当に詰めたらのっぺりと平面的になって……ものすごく残念な感じになったのだ。

 それを私と一緒に見たローズ母様が『やっぱりこれはお皿で食べてほしいわね』と、急遽ローディン叔父様とリンクさんに保存魔法を施した大きなお弁当箱を作ってもらい、その中に料理を皿に盛り付けたものを入れてもらってきたのだ。

 これなら見た目もばっちりだし、作り立てをキープできるし完璧だよね!

 さあ、みんなはどんな反応するかな?


 ローズ母様に促され、皆が同時にお弁箱の蓋を開けた。


「まああ! オムライスにハンバーグ! それに大好きなエビフライまで一皿に載っているわ! すご~い!」

 一番に王妃様が嬉しそうに声を上げた。

 ふふ! そうでしょう!

「ほう、メインが三つも載っているとは、珍しいな」

 と言うのは国王陛下だ。

「一皿に前菜のサラダ、主食とメイン、付け合わせのフライドポテトが盛り合わせてあるとは面白い」

「お皿の端のグラスにはデザートのプリンまで。フルーツたっぷりでとても美味しそうですわ」

「コース料理が一つの皿に載っている感じだな」

 アーネストお祖父様とレイチェルお祖母様、クリスフィア公爵もそのビジュアルに目が釘付けだ。

 

 そう。

 オムライスにハンバーグ、エビフライにフライドポテト、それにデザートが一皿に纏まっているもの。とくれば、前世のお子様ランチである!


 お子様ランチは、前世で大人になってからも憧れたものだ。

 だって、大好きなメインが何種類も一度に食べられるし、もれなくデザートも付いてくる。お店によってはおもちゃなどのおまけまで付いてくるのだ。

 なぜ『〇歳以下』という年齢制限があるんだろう、なんなら大人用のサイズのものを作ってくれてもいいのに、と常々思ったものである。


 このお子様ランチが出来たのは、新しくバーティア伯爵領になった山の視察からお屋敷に戻った時のこと。

 トマス料理長の『夕食にお好きな料理をご用意いたしますよ。何でも仰ってください』との言葉に、ローズ母様がオムライス、ローディン叔父様がそれに追加でハンバーグ、リンクさんがその二つに好物のフライドポテトを付けてほしいと所望したのだ。

 そのメニューを聞いた瞬間、あのワクワクするお子様ランチが私の脳裏にふいに浮かんだのだ! 

「しょれにえびふらい! でざーとにぷりんも!」

 それをワンプレートに盛り付けてもらったら、昔懐かしいお子様ランチの完成である!


 ああ、この昔懐かしいビジュアル! 大好きなメニューがてんこ盛り~! さすがプロの料理人、メインとサラダ、フライドポテトの彩のバランスも完璧! すっごく美味しそう!


 実のところ、オムライスもハンバーグも工程の多い料理なので、商会の家でこの二つを同時に作ることはなかった。

 何しろオムライスはケチャップライスとオムレツを作る必要がある。

 ハンバーグに関しても、この国では一般的にお肉は塊肉で販売されていて、ひき肉というものは販売されていないため、塊肉をミンチ肉にするところから始まる、とっても手間がかかる料理なのだ。

 だからオムライスもハンバーグも美味しいのは分かっているけれど、一緒に食卓に載ることはなかったのである。

 この一皿は複数の料理人さんがいたからこそ出来たのだ!

 しかも全部が出来立てで美味しい!

 メイン料理も美味しいし、付け合わせのフライドポテトと炭酸水で作ったハニーレモンソーダがベストマッチ! フルーツたっぷりのプリンもあってさらに大満足である!

 その時、レストランの責任者も兼任しているトマス料理長が、『レストランの売り上げの上位を占めている料理を贅沢に一皿にまとめたプレート。見た目もワクワクしますし、これにデザートと珍しいソーダをつけたセット。これは間違いなく売れますよ!』と意気込み、めでたくレストランのメニューに採用されたのである。

 ただ、人気メニュー全部載せなので、少々お値段が高めなんだけど、それでもちょっと贅沢をしたいときのメニューとして受け入れられたようで、かなりの数が出ているらしい。

 メニューのラインナップも同じものだと飽きるかもということで、メインやデザートを月替わりで変える予定になっている。そしてジュースやソーダなどのドリンクもお好みで選べるようになっている。バーティア領特産のソーダが料理と一緒に楽しめることも人気の理由だ。

 しかも、サイズも三種類用意された。子供が食べきれるサイズは『小』、女性サイズのものは『中』、単品料理をそのまま一皿に盛りつけたボリュームたっぷりの『大』と、選べるのである。

 小さな子供から大人まで楽しめる。うん、これこそ私が前世から望んでいたものだ!


 そして、レストランの様子をこっそり見に行った時のこと。

 ――そのお子様ランチの料理名が、『天使のご褒美プレート』となっていて、びっくり!

 メニューには『頑張った自分へのご褒美に』という謳い文句と共に『天使のご褒美プレート』と書かれていた。

 ふええ? 何これ!?

 驚いた私に、『どれもアーシェ考案のメニューばかりだからね』と、ローディン叔父様がさも当然のことのように微笑みながらそう言った。

 ううう。なんだか恥ずかしい~~。


「天使のご褒美プレート、か。なかなか良いネーミングだ」

「ふふ、そうですわね。プリンに添えられている天使の羽の形のキャンディがまた可愛いのですわ。アーシェラのくるんとした髪の毛を模しているようですわね」

 おおう、アーネストお祖父様とレイチェルお祖母様まで……。

 バーティア商会で売り出されている『天使シリーズ』は、私考案のものである。

 だからバター餅やドーナツにもそれが掲げられていて、ここにいる人たちはそれを知っている。

 ローディン叔父様は、私考案のものにはいつも商品や説明書のどこかに天使の羽のマークをつけていた。そして、この天使のご褒美プレートには、小さな羽の形のキャンディを添えていたのだ。プリンのカラメルの上にちょこんと載った白い翼のキャンディは確かに可愛い。

 可愛いし嬉しいけど、やっぱりなんか恥ずかしい~!


「これいいわね! 美味しいうえに見た目も完璧~!」

 いつも美味しそうにたくさん食べてくれる王妃様には、もれなくおかわり用に二つのお弁当を用意してきた。

 その王妃様のおかわり用のお弁当箱から、料理の載ったプレートを取り出して準備しているのは国王陛下である。絶妙なタイミングで皿を交換するその姿……すっごく手慣れている感じがするよ……。

 陛下のその行動にローズ母様やレイチェルお祖母様が慌てて「陛下、私がご用意します!」と言うと、「よい、慣れているからな」と返す。


 陛下と王妃様は年が十歳離れている。

 そのため、陛下は王妃様が生まれた時から見守ってきた。

 赤ちゃんの王妃様に離乳食を食べさせたりもしてきた、と陛下が懐かしそうに話す。

「面白かったぞ。ひよこのようにピヨピヨ口を開けてな。あまりに嬉しそうに食べるゆえ、食べさせるのが楽しみになったくらいだ」

 おおう。陛下と王妃様には、そんな小さな頃からの積み重ねがあったのですか。

 王妃様は赤ちゃんの頃から食欲旺盛だったらしい。赤ちゃんの王妃様に少年の国王陛下が食べさせている微笑ましい姿が何だか目に浮かぶようだよね。


 王妃様は少女の頃から邪神の種討伐に赴いていた。

 邪神の種討伐の際には、少数精鋭のみで動く。侍女は足手まといになるため連れていくことはない。だから身の回りのことは基本自分でしなければならないのだ。

 着替えや入浴は自分でする。だが、一番大事なのは食事である。

 食事処があれば良いが、僻地に行くと、ない場合も多々あるという。

 そんな時は、陛下と王妃様、そしてリュードベリー侯爵の持っている魔法鞄の出番である。

 クリスウィン公爵家の方々は底なしの胃袋を持っているので、食事は魔法鞄にたっぷり入れていくのが基本だったそうだ。何しろ現地で食事を作っていたら、従者さんたちはエンドレスで料理をし続けなくてはならない。……うん、クリスウィン公爵家の二人は胃袋が底なしだから、そうなるよね。

 だから、魔法鞄にお弁当をめいっぱい詰めて討伐に向かってたんだって。

 なるほど。そうだったんだ。

 幼い頃から、美味しそうに食べる王妃様を見るのが趣味になった陛下は、討伐に行っていた時も、先ほどと同じようにお弁当のおかわりを用意して王妃様に食べさせていたのだそうだ。

 そういった長年の積み重ねで、陛下は王妃様のおかわりのタイミングが完璧に分かるようになったんだとか。

 ふわあ、なんだかおもしろい~~。


 アーシュお父様の従者であるフィールさんやアーネストお祖父様の従者のルイドさんは、長期で現地を見て回ったりするうちに、現地の食材とかで料理することを楽しみにするようになったけれど、お弁当持参組は調理をしなかったらしい。

 まあ、基本的に貴族は料理をしないものだしね。

 ちなみにクリスフィア公爵は現地の辛い物や珍しい食べ物を購入して魔法鞄に入れておき、討伐中も現地の食事を楽しんでいたらしいし、クリスティア公爵もクリスフィア公爵と似たような感じだったようだ。彼の場合は辛い物ではなくお酒関連のものだったそうだけどね。


 何だか食事事情は人によって違うけど、それぞれが楽しいならそれでいいよね!



お読みいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
陛下。そういうのは墓まで黙っておくべきかと お子様ランチといえばおまけのおもちゃやご飯に立っている旗ですが、そこまでするとやはり値段が高くなり手が出せないメニューになりますかなぁ… 後、お店で使う…
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