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127 告げられた真実

ウルド国のお話がもう少し続きます。

アーシェラ視点に戻るまでもう少しお付き合いください。


次回あたりにローディンが出てくる予定です。



 レジーナ伯爵は手厚い治療を指示し、複数の治癒師の力を総動員して、娘と孫息子の身体を治した。

 孫息子の目が元通りに見えるようになったことには、何よりも安心した。


 だが、身体が癒えた娘は、父親であるレジーナ伯爵を憎々しげに睨んで、怒りをぶつけた。


『どうして男手がいない家に、―――女子供しかいないのに、それまでと同じ分の穀物を納めろと言えるの!?』


『生きていくために必要な食糧を全て奪われて、どうやって生きて行けと言うの!?』


『高熱で動けないのに、鞭で打たれて畑に出ていかなければならない気持ちがお父様に分かるの!?』


『お父様に助けを求めに行こうとしたのに、『働き手は逃がすな』と、縛られた、あの絶望を!!』


『お腹がすいたと泣く子供を、『うるさい』と殴られたこの悔しさを!!』


 娘に責められても、レジーナ伯爵は反論することが出来なかった。


 ―――それは、すべて事実であり、レジーナ伯爵自身が指示したことだった。

 ―――現状を、見ていなかった。

 ―――見ようともしていなかった。


 王家に仕えていれば、王家の言いなりになっていれば、レジーナ伯爵家は安泰だ、と思っていた。


 自分のことではない、と。自分さえよければいいと。


 ―――だが、その結果。

 レジーナ伯爵の娘はボロボロになって見つかった。

 艶やかで緩く波打っていた明るい茶色の髪は見る影もなく傷み切っていた。

 鞭うたれ、裂けた肌の傷も生々しく痛々しかった。


 小さな孫息子は、見つけた時、栄養失調のせいで目が見えない状態だった。


『お父様の領民だった私や……お父様の孫が、こんな状態になっていたというのに―――お父様は―――ずいぶんとふくよかでいらっしゃるのね―――』


 愛娘の侮蔑のこもった眼差しが、レジーナ伯爵の心を抉った―――


 レジーナ伯爵は、―――やっと自分のしでかしたことの残酷さを知った。


 最愛の娘と孫息子の体験を、わが身のこととして受け取ったことで、―――やっと、やっと。自分が恐ろしいことをしているという自覚を持ったのだ。



 ―――その後、レジーナ伯爵は改めて自らの領地を見て回り、―――己の過ちを認めざるを得なかった。


 娘や孫息子と同じような境遇の者ばかりだったのだ。


 今までは国の求める分を強制的に出させるようにあらゆる非道なことをしてきた。それでいいと思ってきた。


 けれど、これを続けていたら、いつか領民は娘のように倒れて動けなくなる。

 今はギリギリのラインで生きているだけなのだ。

 このままではいけない。―――このまま続けては領民が居なくなってしまう。


 ―――領民のいない領主など滑稽だ。


 領民が居てこその領主であるというのに。


 ―――レジーナ伯爵は自分の過ちを認めて、王家におもねる今までのやり方を撤廃した。


 ―――だが、国から求められる税は納めなければならないし、領民が生きられるだけの穀物が収穫できなければいけないのだが、ここ数年の冷害で麦の収穫量は激減した。



 冷害で収穫できない、という言い訳は、王家には通用しない。


 すぐにも冷害に強く、充分な収穫が見込まれる作物に転換しなければ、領民を飢えから救うことは不可能だ。


 ―――選択肢はひとつしか思い浮かばなかった。


 

 これまでのくだらない矜持をかなぐり捨てたレジーナ伯爵は、アウルス子爵領にソバの種を分けてもらうために自ら訪れて頭を下げた。



 ―――そして、今日ではダリル公爵の腹心となり、反乱連合軍の指揮官となっていたのだった。



 ◇◇◇


 

「―――知っています。私がラジエル・ウルドの子であることは」


 クリスフィア公爵がこの場で示した書類―――それを見たダリル公爵やランテッド男爵、レジーナ伯爵の驚愕の視線に―――私はそう告げるしかなかった。



 ―――アウルス子爵領、創世の女神様の神殿の一室。


 そこで私は、アウルス領の年を重ねた神殿の神官、オーガスト・ダリル公爵、アースクリス国のクリスフィア公爵と会談をしていた。

 カリル・ランテッド男爵、レジーナ伯爵も同席していた。

 そこにはクリスフィア公爵からの希望で母サラディナと伯父ラデュレが同席した。


 アースクリス国の助力を得たダリル公爵や反乱軍は、ウルド王家を倒した後、誰が国主として戦後の混乱を鎮める役目をするべきかと決めなければならない、と、これまでも度々話し合っていた。


 ―――私は、ラジエル・ウルド前国王の第一子ではあるが、今更そんなことを名乗るつもりはなかった。


 これほどまでに民を苦しめ、多くの民を死なせたのだ。


 ウルド王家の血筋の者が再び王座につけば、国民に恨まれこそすれ、歓迎されることはないだろう。


 しかも、民を苦しめたと恨みを買い、私の子供までもその憎しみの標的になるかもしれないのだ。


 だから、言うつもりはなかった。


 アースクリス国と共に王家を討ち、その後はアースクリス国と共に立て直しを図る。

 アースクリス国から統治官を派遣してもらってもいいと思っていた。

 もしくは、反旗を翻した貴族の中から優秀な者を選んでもいいのではないかとも。


 ―――だから。まさか、私に白羽の矢が立つとは思わなかった。

 何よりもアースクリス国が、私の出自を知っているとは思わなかった。


 この先の話し合いの途中で、クリスフィア公爵が書類が入った薄い箱をダリル公爵に差し出した。


 その中に入っていたのは一枚の書類。

 それは―――驚いたことに、アースクリス国の大神殿に保管されていた私の出生届だった。


 ウルド国の貴族院には、私は私生児であると出生届が提出されている。

 ウルド国では出生届を二枚作成し、貴族院に二枚提出し、そのうちの一枚が原本証明と共に書き換えが不可能なように魔法付与されて返される。

 その魔法付与された出生届を自らが信仰する神殿に提出するのだ。

 だから、出生届は二枚共、同じ内容であるはずなのだ。


 だが、女神様の神殿に提出され、アースクリス国の大神殿で保管されていた私のもう一つの出生届には、貴族院に提出した出生届に記載されていなかった『父親の名』が刻まれていた。



 『 父 ウルド国王 ラジエル・ウルド 』


 『 子 ウルド国王子 アルトゥール・アウルス・ウルド 』


 ―――と。

 虹色のように不思議に輝く文字で刻印されていた。

 文字の色は刻々と輝きを変える不思議なもので、それがただの文字ではありえないことが分かる。


 その不思議な文字に対する私たちの疑問に答えるように、クリスフィア公爵は、出生届がアウルス子爵領の神殿に提出された時、『女神様により書き換えられた』という信じ難いことを、私たちに告げた。


 私は父親がラジエル・ウルド前国王であることは知っていたが、そんなことがあったとは聞いたことはなかった。

 母サラディナと伯父ラデュレ―――そして、父ラジエル・ウルドも、私には教えてくれなかったのだ。


 すぐに信じられることではない。

 けれど、すぐにこれは紛れもなく真実であると、母と伯父が肯定した。


 そして、高齢の神殿の神官も、深い皺を刻んだ顔で、深く頷いた。

 神官自身が出生届を受け取り、女神様の刻印を見届け―――そして、秘密裏にアースクリス国へと出生届を運んだと、自ら告げた。


 ―――出生届が書き換えられていたなどと、思いもしなかった。


 私はウルド国の法では私生児だ。


 けれど、神殿に提出されたものは―――ウルド国の王子とされ、父親の名にラジエル・ウルド国王と刻印がされていた。



 思いもしなかった、まさかの事実の公表に私は驚愕した。


 そして、私の妻シェリルの父であるオーガスト・ダリル公爵も、思いもしなかった真実に驚愕していた。


「アルトゥールがラジエルの息子だと!? ラデュレ!! 何故それを今まで教えてくれなかったのだ!!」


 義父オーガスト・ダリル公爵と伯父ラデュレ・アウルス前子爵は、私の父であるラジエル・ウルド前国王の友人だった。


「ラジエルはサラディナとは会ったこともなかったはずだ……」


 確かに母は王都の学院に通っていないし、父は宰相から監視されていて王都を出ることはもちろん王宮から出ることも滅多になかったので普通に考えたら出会うこともなかったはずだ。

 だからこそサラディナ・アウルス子爵令嬢が生んだ私生児の父親の可能性として実父(ラジエル)の名が浮上することがなかったのだ。

 徹底して隠蔽してきた結果である。


「時が来るまでこの事実を知る者は少ない方が良いと思ったのだ。万が一どこかから漏れたりすれば、アルトゥールも、シェリルと子供たちも―――もちろんシェリルの父であるオーガスト。お前も今ここにはいなかっただろう」

 伯父であるラデュレが静かに言った。


「それに。気づいているだろう? オーガスト。ここ数年でアルトゥールの髪色が茶色から赤みがかった茶色に変わったことを」


 その言葉にダリル公爵が息を呑んだ。

 赤みがかった茶色の髪色と瞳。

 ―――その二つが揃うのはウルド国王直系の証だ。

 生まれた時、私は茶色の髪をしていた。

 それはアウルス子爵家の色であり、母や伯父と同じ色。

 そして瞳の色は父譲りの色で、母たちは灰色の瞳だった。


 髪色が変わり始めたのは、ウルド王家に反旗を翻した頃からだ。

 徐々に赤みが入り、―――今では父とまったく同じ色になってしまった。


「ラジエルとサラディナと私、そして神官とで『誓約』を交わしたのだ。『その時が来るまではアルトゥールの出自を誰にも口外しない』と」


「なるほど……誓約か……では、『その時』が来たのだな」

 ダリル公爵がクリスフィア公爵から出生届を受け取り、穴があくかのようにじっと見つめている。



 この場に同席していたランテッド男爵、レジーナ伯爵は、驚愕の表情を張り付けたまま私の顔を見て口をパクパクさせていた。



 ―――ああ。出生の秘密は墓場まで持っていこうと決めていたというのに。




 そして、そんな私の想いを打ち砕く言葉を―――クリスフィア公爵は言ったのだ。



「新生ウルド王国の玉座は、アルトゥール・アウルス・ウルド王子に」―――と。





お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
うーん だけど娘もさー こういうこともあると覚悟して家出したんじゃないの?
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