人生とは選択の連続である
詰めすぎと展開及び場面切り替えの早さに注意。読みにくいかも。
前半変態犯罪者注意。あと男性にちょっぴりごめんなさいフィクションです。
人生とは選択の連続である。
選択とは、未来へのカウントダウンである。
シミュレーションゲームってさ、その都度選択肢が出るよね? キャラの好感度や今後の展開左右される重要なモノで、選択は慎重に行うべきだ。ただ、ゲームなら攻略情報や経験からそこまで慎重にならなくても済むだろう。
だが、それが現実ならどうだろうか? ……まあ、ゲームのような選択肢とは、言えないが。
***
ぽてぽてと歩きながら溜め息を吐いた。体育で持久走なんて最悪だ、体育なんてなくなればいいのにと思いながら。
人気のない道を歩いていると、先の角からバッと人影が道を塞ぐように出てきて立ち塞がった。思わず立ち止まり見ると、それはロングコートを着たおじさんだった。足は何故か靴下で脛に絶対領域を作り出していて、頭も足も寒そうだ。
何だか嫌な予感がしたが、動く前におじさんがコートの前をがばりと開けた。
「へへへ……すごいだろ? おじさんの…」
「………」
「うひひ……」
変質者だった。コートの下は全裸――ではなく、たっぷりのフリルが付いたブラジャーとガーターベルトのみ。真性の変態だった。まだ全裸のがマシだ。
思わず無言になったわたしを、怖がってると判断した変態オヤジは、じりじりとがに股で近寄ってきた。足の間で、ぷらぷら(ぶらぶらではない)揺れる汚物がキモチワルイ。
……が、しかし。変態の息子よりも、目の前に現れたコレ(・・)の方に、わたしはうんざりとした。
1:鼻で嗤う
2:真顔無言でスルー
3:「ちっさ…」と呟く
……ろくなモンねええええええッ!
現れたのは、選択肢。わたしは、確か小学生くらいの時から何故か選択肢が出てくるようになった。で、出てくると選択肢以外の行動が取れなくなるようにもなった。何で出てくるのか、出てくる条件が何なのかは分からないが、時々現れては、わたしの突っ込みレベルを上げさせる。
大抵が今回のように、おかしな選択肢ばかりなんだもん。突っ込みレベルも上がるって。
さて……どうしよう。何で逃げる選択肢がないんだと悪態を吐きたいが、変態が近付いてくるので考える時間もない。
ここは当然、『2』を選択。
「ぅおっ…とォ。くふふ…ダメだよおおじさんを無視しちゃあ。寂しくておじさん死んじゃう」
1:「死んじゃえ」
2:満面の笑み
3:唾を吐き掛ける
「死んじゃえ」
「……へ?」
……はっ! つ、つい……いやいや、選択肢が悪いよね。うん。
咄嗟に選択してしまったわたし。変態はぽかんとしていた。
まあ、取り敢えず気を取り直して。
壁際を進もうとしたら、変態がカニ歩きでさささっと道を塞いだ気持ち悪い。こうなったら次の選択だ。
1:鼻で嗤う
2:「ちっさ…」と呟く
3:点数を告げる
えげつないッ! が、うら若きか弱い乙女にんな汚いブツを見せる輩には妥当な選択肢だ! 欲を言えば、110番か逃げる選択肢が欲しい!
何にしようか……いっそ全て選ぼう。今回は悪質なので、完膚なきまでに叩こう。ここ通学路だから住み着かれたら迷惑だし。
わたしは、にやにやとまたにじり寄ってきた変態の幼児を冷たく見下ろし、ふんっと嘲笑した。
「…ちっさ。100点満点中3点ってとこかな」
「………ッ!!」
ショックを受けたような表情を浮かべた変態。どうやら胸に突き刺さったらしい。
1:台詞1(嘲笑付き)
2:台詞2(冷笑付き)
3:台詞3(憐れみながら)
え、まだあんの? つかこれ特定の台詞(選択肢に収まらない長い台詞はこういう風に出る)言う奴だよね? 長いから嫌いなんだけどなあ…。
後ろに付いた言葉で大体台詞に当たりを付けた。途中放棄出来ないからなあ、選択って。…しゃあない、『3』を選ぼう。
「ねえおじさん、最初の質問だけど、わたしおじさんはすごいと思うよ。そんなちいちゃくて貧相なのに、女物の下着姿を恥ずかしげもなく晒せるんだもん。尊敬しちゃう。わたしは絶対にそんな恥晒しはしないけど。ああ、大丈夫だよおじさん! 男の価値は大きさじゃないって言うし! おじさんはわたしが見た限りでは、ちっさくて貧相で恥晒しの禿げた変態中年性犯罪者だけど、きっとおじさんにだって良い所はあるよ! ほら、こんな事出来る恥知らずで度胸のある所とかさ! おじさんはアレはちっちゃくても、女子高生にそんな姿を自信満々に晒せるくらいだし肝は小さくないんだね。ほんとすごいよ、おじさん。……だからね、もう行っても良いかなあ? わたし、こんな時間にこんな事してるおじさんと違って、暇じゃないの。それに――…」
……その後、茫然自失として崩れ落ちた変態を、通報した警察に引き渡し、わたしは簡単な事情聴取を終えて家に帰った。
はあ……やれやれ。
選択とは、誰もが常にしている事だ。選択肢とは人の数ほどあり、人によりその時選ぶのも違う。さっきのだって、逃げたり通報したり叫んだりと、色んな選択肢が普通なら(・・・・)あるはずだ。
その選択肢を狭め、と言うか突っ込みどころ満載な選択肢ばかりで、普段のわたしなら選ばないのを強制的に選ぶ羽目になる。この能力(?)が良いモノだった試しは、今までない。
―――ただ、この能力は毎回出る訳ではなく。わたしにとって、重要な場合に出てくる事が多い。対人選択肢は除くが。
あの変態性犯罪者に遭い、学校にも連絡が行ったので盛大に心配されながら(ちょっと嬉しい。問題児でも優等生でもない平凡なわたしは、教師の記憶に残らないタイプの生徒だから)数日過ごし、日曜日。
母にパシられ、出不精のわたしは嫌々街に出た。
「えっとー、豚コマ、じゃがいも、バター、チーズ、玉ねぎ、人参、マヨネーズ、チョコレート……買った」
メモを読みながら、エコバッグを肩に食い込ませ、帰路に就いた。早く帰ろう。
この材料なら、カレーかな? にんにくとルウは家にあるし。我が家のカレーは、三種類のルウを混ぜていて、使うルウにより毎回味は変わるが美味しいです。うまうま。偶にしょっぱいけど。
よーっし、帰ったら漫画読んベー。
「あ、悪いんだけど〜序でに肉まんと鳥ささみと椎茸と大根とプリン買ってきて〜」
「全然序でじゃないから!」
荷物を渡したらオカンにこんな事言われますた。一気に言って! つか何作るんだよ!
「アンタが好きな物も買って良いわよ」
「じゃあお金もっとくれ」
頭叩かれた。酷い!
で、結局またスーパーと、今度はコンビニも梯子する事になった。
うう、もう夕方だぜ。昼間で寝てご飯食べてDVD観てたわたしの日曜がああぁ〜。
―――人生とは、選択の連続である。
選択とは、未来へのカウントダウンである。
現実に置いて、選択肢により訪れる未来とは無限に存在し、ハッピーエンドばかりではない。故に選択は慎重に行わなければならない―――。
「ぴるぴる?」
わたしは、自分の持論を頭に思い浮かべ、目の前の現実から逃避した。
「ぴるる、ぴるぴる?」
……わたしは、買い物からの帰り道選択肢がまた現れたので、それに従い(・・)進んだ。つーか選択肢の癖に全部が『右に進む』とかどうなの。その後も言葉は違えど同じ方向に進む物しかないし。
そうして選択肢と言う謎の力に誘導された、その先で。無人の寂れた空き地に立ったその時―――、キャトられた。
……何を言ってるか分からないって? わたしゃ分かりたくないね。
…いや、あのね。誘導された空き地のど真ん中にボーッと突っ立ってたら、ペカーンと上から光が降りてきて、ふわりと浮き上がり未確認飛行物体に拉致された。
突っ込みどころ満載だね! 見上げればいつの間にか頭上にあった銀色の物体のすぐ下まで持ち上がり、夕陽で赤く染まった町を見下ろしたと思ったら、気付いたら多分物体内部にいた。
銀色のつるりとした見た事ない材質の壁、雲を千切って作ったようなソファー、茹で卵を横たえて上から少し押さえたようなテーブル――…そして、でっかい真っ黒な煮卵が二つ。
「ぴるぽるるぴぽ」
「ぴるぽるるぴぽ」
煮卵は、手と大きな…豆? っぽいのが付いた毛糸(多分手足。豆は足だと思う。もしくは靴)みたいなのを側面にくっ付けており、浴衣みたいな服を着ていた。大体わたしの胸まであり、恐らく顔だろうところには黒豆……多分目がある。口らしきものはないのに、不思議な高めの鳴き声? で、何かを発した。
1:「ぴるぽるるぴぽ」と言う
2:挨拶を返す
3:泣く
………。えっと、取り敢えず挨拶して友好的な態度を示すべきだろうか?
「えーと……こ、こんにちは…?」
……何やってんだろ、わたし。もう驚きすぎてぐるっと一周して、特に取り乱さず冷静でいると思ったが、意外と混乱してんのかなこれ。
だらだらと冷や汗を流すわたしの目の前で、煮卵達は顔を見合わせ(た、多分)目をぱちくりさせ(恐ら、く…)首を傾げた(…きっと)。
「ぺぽ?」
「ぺぽぷるぷ? ぴるぽるるぴぽ」
1:「ぴるぽるるぴぽ」と言う
2:エグラン星人風挨拶を返す
3:泣く
「……ぴるぽるるぴぽ」
言ったよ、言ってやったよ! 何これこれって挨拶なの? この煮卵……エグラン星人? の挨拶なの? アメリカのハロー的なあれなの? 拉致っていきなり暢気に挨拶とか意味わかんねーよッ!
………い、いかん、落ち着けわたし。混乱し過ぎだ。ここは相手に合わせよう。改造とかされて煮卵になったらやだし。いや煮卵にはなんねーだろ。
……落ち着け、わたし。
「ぴるるー! ぴるっ、ぷるるーぴぽるる!」
「ぴぽぴ! るるぴぴぽぴゅー!」
何だかとても嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねて喜ぶ煮卵二つ……二人(?)。い、意外と怖くない?
ガチガチに固まって突っ立ったまま見ていると、それに気付いた彼等(?)が、ソファーをぴるぴる勧めてくれた。選択肢に従い座る。
(うほおう…)
めちゃんこ気持ち良い最高の座り心地に、一瞬今の状況を忘れてうっとりした。
だってこれ! 程良い弾力で、もふんってした! ふわふわなのにもふんって! お尻から腰を優しく包み込んで、きっといつまで座っていても疲れないだろう。何これしゅごいよお…っ。
「ぴるぴる?」
「ぴぴぽぽぴん?」
はっと我に返った。煮卵が多分怪訝そうに此方を見ている。慌てて居住まいを直し、荷物を膝の上に乗せて姿勢を正した。気を抜くなわたし! 失敗すれば改造だぞ(いや知らんけど)!
ここが正念場だ。決して選択肢を誤ってはならない。間違えれば終わりだ。慎重に選択せよ!
―――そう、決死の覚悟を決めた時もありました。
「ぴぷるーぷぺぺぽん」
「ぺぷーぴぴぽ! ぴぷるん」
1:鳥ささみを渡す
2:肉まんを渡す
3:エコバッグごと渡す
身振り手振り、何かを表す煮卵。そんな彼等に出てきた選択肢はこれだった。
お腹でも空いてるんだろうか? と思い、ならすぐ食べられる肉まんか、と思ったが、何食べるか知らないし、ならバッグごと渡した方がいいのではないだろうかと考え、もしかしたらこのどちらかが嫌いな物で、両方渡して嫌いな物を見たら起こるかも…。
そんな事を悶々と考え、(どちらかと言えば鳥ささみは食べなさそう。だって煮卵だし…)とも思って……結局『3』を選んだ。
だって怖いもん! どちらかがアウトなら、いっそ両方渡して好物だけに目を向ける可能性に賭ける!
「……どうぞ」
テーブルの上に置き差し出せば、二人はぴるぴるぽるぽる話しながら、バッグを漁り……何かを見付けたようだ。
「ぺぽっ!?」
「ぴぺぷ!? ぽぽるぴぷ!?」
片方が取り出し掲げたのは、―――ピンク色の石。あれ、確かさっき拾った奴だよね? 最早選択ではない選択肢で拾った綺麗な石。
煮卵は、その石を大事そうに両手で包みソファーの上で嬉しそうに、興奮したように跳ねた。
え、目当てそれ!? ささみも肉まんも関係ねーじゃんッ! うああああ〜バッグごと渡した自分ぐっじょぶ!!
「ぴっぴぽぽん!」
「ぴるるるる〜! ぴぽぴぴんぽる!?」
1:「ぴぽん」あげる
2:「ぴぷぷる」あげない
3:泣く
いや泣かねーよ。うん、あげるあげる。ぴぽん。
「ぴっぽ───!」
「ぴっぽぽぴー!」
「「ぴぷん! ぽっぷーぴぷん!!」」
わたしが引くほど喜んだ煮卵達は、ドンドコと歓喜の踊りをしだした。ソファーの回りをぐるぐると歌いながら踊る様は、コミカルで何だか和む。
暫く眺めていると、何だかすんごい勢いで迫られ捲し立てられ、煮卵の片割れがどこかに行き、少しして再び戻ってきた時、何やら綺麗で可愛い腕輪を持っていた。
「ぴぽん!」
どうやらくれるらしい。いやあの、見知らぬ宇宙人から物貰うなって言われて……ないけど、取り敢えずいらんです。
が、しかし。選択肢はわたしに選択させる事はない。
1:受け取り「ぴぷん」と礼を言う
2:装着し「ぴぷん」と礼を言う
3:泣く
だーから泣かねーよしつけーな。……いかんいかん、口が悪くなってしまった。
兎に角、どうやらわたしは受け取るしか選択肢はないらしい。
「……ぴぷん」
「ぽぺっぽ!」
「ぴるるんぴぴる!」
言って腕輪を受け取り、結局装着した。左手首に通すと、勝手にサイズがあった。流石宇宙人スゲー。(もう投げ遣り)
で、気付いたらあの空き地に座っていた。驚き目を見開いて上を見上げると、銀色の茹で卵が浮かんでいた。
『ありがとうタマ! ボクたちの宝を見付けてくれてタマ!』
『また遊びに来るタマよ! その時はよろしくタマ!』
もう、言葉が通じていたとか、語尾があざといとか、よろしくって何だよとか……。まあ言いたい事は多々あれど。
「……疲れた」
兎に角、どっと疲れた。
人生とは、選択の連続である。
選択とは、未来へのカウントダウンである。
現実に置いて、選択肢により訪れる未来とは無限に存在し、ハッピーエンドばかりではない。故に選択は慎重に行わなければならない―――。
わたしはあの煮卵……エグラン星人との邂逅を切っ掛けに、様々な宇宙人と縁を結び、紆余曲折の末地主ならぬ星主になるのだが、今は知らない。
ただ、切実な願いと教訓が一つずつ。
選択は、強制ではなく自由でなくてはいけない。
教訓:選択は慎重に細心の注意を払って行うこと。
……これだけだ。
腕輪は登録した言語が使用可能になる優れ物。他にも色々と機能満載だが使われる日は当分来ない。




