第81話「緊迫の初対面」
廃墟の外。
ヴィヘイトルの古城から、レジメルス、アジュシーラが戻って来た。
先に戻ったクルエグムが廃墟には入らず、訝し気に中を覗いていた。
「入らないの?」不審に思い、レジメルスが尋ねた。
「中から変な音がするんだ。レジー、ちょっと嗅いでみてくれ。お前の犬っ鼻なら何かわかるかもしれねぇ」
「別にいいけど、“犬っ鼻”はやめてくれる……? ムカつくから」
クルエグムに揶揄されると、レジメルスは苛立ちながら返した。
彼は嗅覚に長けたディファートだが、「犬」と言われるのが大嫌いだったのだ。
早速レジメルスがマスクをずらし、鼻を出したが、すぐにマスクを上げて鼻を隠した。
不快そうに眉もひそめていた。
「めちゃくちゃ大量のにおいがする……。誰か侵入したようだ」
「マジで?! もしかして泥棒? こんなボロいとこ、盗むもんなんて無いのに……」アジュシーラが驚きの声を上げた後で推測した。
「バーカ! 違ぇよ。物じゃなくて、この建物ごと盗もうとしてんだ。悪い奴らが隠れるには打ってつけだろ、こんな建物!」
アジュシーラの予想を、クルエグムがバカにするように否定した。
「僕らがその悪い奴だけどね……」と言った後で、レジメルスは付け足した。
「おそらく、僕らを倒すためにやって来たんだ。“ディファートは淘汰する”とか言ってね。そうとしか考えられない」
「“とーた”って……?」
「“選び抜く”って意味もあるけど、ここでは“排除する”って言った方がいいね」
レジメルスがアジュシーラへ言葉の意味を教えている間に、クルエグムが躊躇なく廃墟の中へ入って行った。
「エグ?!」二人は急いでその後を追い始めた。
◇
廃墟の一室。自分たちが寝室として使う部屋の前でクルエグムは立ち止まった。
ドアの向こうから音がする。聴覚に長けたディファートの彼はすぐに中の音を聞き取った。
クルエグムはドアを蹴り破り、中へ入った。
「ん?」
すると、中央のベッドの上に足を組んで寝転がり(しかも土足)、瓶に入った漬物を食べながら、本を読むダークティミーの姿があった。
「お前、白魔導士……?!」
クルエグムが驚愕していると、後ろからレジメルスとアジュシーラがやって来た。
室内に漂うにおいで、レジメルスが眉間にしわを寄せた。
「これ、漬け物のにおいじゃん。あの、くっさいやつ……!」
「あぁーーーーー!!」
アジュシーラは二つの意味で驚きの声を上げた。
まず一つは、彼が一番会いたくないダークティミーと久しぶりに顔を合わせたこと。
最初に会った時、なよなよした白魔導士のイメージで絡みに行ったら、三日月型の乗り物から引きずり降ろされた上に頭をぐりぐりされたので、今ではすっかりダークティミーだけでなく、ティミレッジ自体を怖れていたのだ。
もう一つは、そのダークティミーが自身の好物である漬け物をポリポリと食べていたことだ。
「オイラの最高傑作なのに……。勝手に食べるなんてひどいよ~!」
「文句あんのか?!」
アジュシーラが文句を垂れたが、体を起こしたダークティミーに睨まれてしまい、思わず怯んでしまった。
「お前が作ったのか、これ? 無駄に味付け濃くて、美味しくねぇぞ」
おまけに、たくさん食べられていた上に酷評までされてしまった。悔しさからアジュシーラは泣き出すしか無かった。
「何で、白魔導士がここにいるわけ……?」
「今は白魔導士じゃねぇよ」
唖然とするレジメルスに答えると、ダークティミーは視線を本へと戻した。
「それ、僕の本なんだけど……?」
「お前のか? これ、一昔前に流行ったやつで、今は中古でたくさん出回ってるぞ。ビックリしたぜ。まさか、犯人が魔法アイテム屋の店主とはなぁ」
ダークティミーはため息をつきながら、さらっと本のネタバレを言ってしまった。
レジメルスがいつも読んでいた本は推理小説で、誰が犯人なのか予想しながら読み進めていた。それがたった今、結末を言われてしまった……。
「本のネタばらしするって、どういう神経してんの……? 殺すよ」ネタバレの怒りからか、最後はやたらと低い声で言った。
ここでついに、三人衆のリーダー・クルエグムの怒りが爆発した。
彼は手前にあった小さな棚を蹴飛ばしながら怒鳴りつけた。
「てめぇ、どういうつもりだ?! 侵入しただけでも許せねぇのに、俺らのものまで物色してんじゃねぇぞ!!」
「俺だって、好きで来たんじゃねぇよ」
ダークティミーは気だるく返すと漬け物が入った瓶に蓋をし、本を隣のベッドへ投げた。
「そこは俺のベッドだ!! 靴のままで上がってんじゃねぇ!」
クルエグムが金切り声で怒号を上げるとダークティミーはベッドの上でわざと両膝を立てて座った。シーツに新たな汚れがついてしまった。
「俺に命令してんじゃねぇぞ、チビ!!」
「あぁ?!」
その上、逆ギレし、クルエグムを中傷した。
彼の身長は一六五センチで、フィーヴェの成人男性の平均を下回っていた。リアリティアでは許容の範囲内だが、フィーヴェでは小柄扱いなので本人は昔から気にして生きて来た。
当然、今の発言も聞き流すわけがなかった。
「てめぇ、ぶっ殺すぞ!!」
「面白ぇ! やってやるよ!!」
侮辱されたクルエグムは怒りから自身の剣を構え、ダークティミーは黒く変色した自身の杖を構えた。
レジメルスは半ば呆れながら二人を見つめ、アジュシーラは顔が青ざめていた。
「どうなってんの……?」
「や、闇魔法だよ。それを浴びたから白魔導士がああなったって、ネガロンスさんが言ってた」
「闇魔法、こっっっわ」
事情を知っているアジュシーラが説明すると、レジメルスはようやく戦慄し始めた。
同時に、目の前で争おうとしている二人が似たような性格なので、アジュシーラは「悪夢の共演だ」と思うのであった。
乱暴な彼らの戦いが始まろうとしたその時、エボ・ダーカーの一人が壁を突き破って、二人の間に倒れ込んだ。
「な、何だ?!」
どうやら、オプダットから強烈な蹴りを食らって飛ばされて来たようだ。
再びレジメルスがマスクをずらした。
「すっごく鈍いにおいがする。他の部屋にも侵入されてるかも……」
「くそっ! 人間どもめ!」クルエグムが舌打ちをした。
「人間以外もいるよ。ディファートとか、あと嗅いだことのない魔導士系。普通の奴じゃないよ」
「何だよ、嗅いだことのない魔導士って?! とにかく行くぞ!」
クルエグムは、他に侵入している人間やその他の相手をしに行くため、部屋を出る前にダークティミーを一瞥した。
「勝負はお預けだ! てめぇのこと、絶対に許さねぇからな!」
「おう! 楽しみにしてるぜ~♪」
相手を煽るのが面白いのか、ダークティミーは楽しそうに手を振った。
クルエグムはますます腹を立て、相手を睨みつけて歯ぎしりをした。
冷や冷やしながらも、アジュシーラはどちらが悪者かわからなくなるのであった。




