第76話「疑惑の廃墟」
翌朝、ユアたちは村の外で、ソールネムとチェリテットと落ち合った。
二人とは急遽、通信で待ち合わせをしていた。
「先ほどの話は本当か?」
会った早々、ディンフルがソールネムへ尋ねた。
突然来た通信によると、この近くの廃虚でヴィへイトル一味の三人衆が出入りしているという噂があるらしい。
もし本当ならば、企みを阻止しなければならない。
「ウソで集合は掛けないわ。ビラーレルでもチャロナグでも、目撃者が多いのよ」
ソールネムの返答にディンフルは「そうか」と簡単に返事をした。
「ソールネムさん、情報ありがとうございます。三人衆は僕たちが倒すべき人たちだったので、助かりました」
ティミレッジは彼女へ感謝した。しかし……。
「別にあなたたちのためじゃないわ。他の地域から依頼されて来ただけ。本来なら私たち、それぞれの故郷で仕事があったんだけどね」
急に予定を変更された苛立ちからか、冷たく返されてしまった。
その反応にディンフルが違和感を覚えた。
「そんな言い方は無いのでは? 忙しければ連絡だけくれれば良い筈。我々だけで乗り込んでも良かったのだぞ」
ソールネムはディンフルには返さず、先を急いだ。
「早く行って、早く終わらせよう」という魂胆があるのだろう。
「シカトか……」
「ディンフルさん、ありがとうございます。僕なら大丈夫です。ソールネムさん、あれが平常運転なので」
ティミレッジはディンフルに感謝しつつ、ソールネムを庇った。笑顔でいるあたり、彼女からの対応は慣れているようだった。
だが、今のやり取りはユアも不思議に思っていた。
「確かにソールネムは冷静と言うか冷たいところはあるけど、今のはちょっとね……」
「いいんだよ、あれで」
フィトラグスもややうんざりしながら、フォローし始めた。
「ユアとディンフルは一緒にいる時間が短いから慣れてないんだよ。ソールネムは基本、ああいう感じだから気にするな」
「そう……」
「じゃあ、俺はどうなるんだ……?」
ユアが何となく納得したところで、今度はオプダットが元気なく聞いてきた。
よく見ると、彼の表情は珍しく暗かった。
「どうしたの? 朝は元気だったじゃん?」
ティミレッジが心配しながら聞くと、オプダットは事情を話し始めた。
「チェリーが俺のこと、避けるんだよ……」
思いもよらぬ返答に、四人は開いた口が塞がらなかった。
チェリテットは常にオプダットと行動を共にしており、彼のツッコミ役にも抜擢されるほどだった。そんな彼女はここ数日、挨拶をしても素っ気ないらしい。
そして、オプダットはいつもポジティブ思考。そんな彼が前向きに捉えられずに落ち込むので、わかりやすく避けられているようだ。
チェリテットが冷たくなった理由としては、オプダットの言い間違いに嫌気が刺したことが妥当だった。
だが本当に愛想を尽かしたのであれば、「何で今さら?」とユアたちは思っていた。二人の付き合いはもう二年にもなるからだ。
当のチェリテットはと言うと、ソールネムと先に廃墟へ向かっていた。置いて行かれないためにも、ユアたちも二人へ続いた。
◇
問題の廃墟に到着した。
建物は鉄筋造りの二階建てだが、あちこちが朽ち果てたり錆びていたりして、人が住むのは難しいと思われる。
窓ガラスはすべて割られ、窓があったところから中を覗けた。
わずかに見えた内部も同じように朽ちており、日が昇った昼間でも薄暗かった。
「ここに、クルエグムたちが……?」
いくら悪い彼らでも「こんな住みにくい場所をアジトにするなんて信じられない」とユアは思った。
一同が廃墟の外面を見ていると突然、半透明の黒い球体が突然現れ、ティミレッジを包んでしまった。
「うわぁっ! な、何?!」
閉じ込められた彼が悲鳴を上げると、すかさずディンフルが大剣を出して球体を斬りつけた。
だが斬られた箇所がすぐに修復し、元の丸い形に戻ってしまった。
「何っ?!」
一行があっけに取られている間に、ティミレッジを包んだ球体は浮き上がると、廃墟の奥まで飛んで行った。
「ティミー!!」
彼を追おうとユアとオプダットが中へ入ろうとするが、「待て!」とディンフルが制止した。
「今の球体……、闇魔法を感じたわ」ソールネムが戦慄しながら言った。
「闇魔法ってことは……」ユアはもう嫌な予感がした。
「間違いない。犯人はドーネクトたちだ!」
「またティミーが悪くなっちまうのか~?」
フィトラグスが推測し、オプダットが嘆いた。
「で、でも、ティミー君の魔法陣とやらは、お札で封印しているんでしょ?」
チェリテットが尋ねた。確かにサティミダが張った札があれば、魔法陣の威力は発揮されないだろう。
しかし、その意見をソールネムがすぐに覆した。
「甘いわね。相手は昔、村一つを恐怖に陥れた闇魔導士。前に会った時はバカ丸出しだったけど、魔力はビラーレル史上二番目の強さを誇っていたのよ」
「前いなかったから知らないんだけど、大変だったみたいだね……。彼がビラーレル史上二番目なら、一番は?」
チェリテットが再び聞いた。
長い歴史を持つビラーレル村なので、史上最強の魔力の持ち主はおそらく大昔の人だろうと一行は予想した。
「一番はアビクリスさん、ティミーのお母さんよ」
「まさかの?!」
予想は大いに外れ、アビクリス、ドーネクトという同じ世代で、歴代魔力の一位と二位が出たのであった。
そして、歴代最弱の気力の持ち主もこの世代で決まっていた。ティミレッジの父親・サティミダだった。
ソールネムから聞いた時、前にいなかったチェリテット以外が呆れながら納得の声を漏らした。
「話を戻すけど、歴代二番目のドーネクトが札を剥がせないことは無いと思うわ。……それに、札はサティミダさんが提供したものでしょ? なおさらよ!」
「どういう意味だ?」
「サティミダさんは貧乏性としても有名なのよ。そんな彼が、効力が長続きする高級な札を買うと思う?」
ディンフルに聞かれたソールネムが答えると、一同は唖然とした。
アビクリスやドーネクトはそれぞれの功績や悪事で有名になっているが、サティミダは気力の弱さと貧乏性で知られていたのだ。悪事を働かないだけマシだが、一行は改めて彼に呆れ返った。
さらに「愛する息子のために安い札を使ったのか……」と、ティミレッジを憐れむのであった。
サティミダが与えた札は効力が長続きしないことが発覚した。
ましてや、歴代二位の魔力の持ち主・ドーネクトが関わるとなると……。
さらなる胸騒ぎを覚えたユアたちは、急いで廃墟の中へ突入するのであった。




