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ラスボスと空想好きのユア 2 Precious Bonds  作者: ReseraN
第3章 波乱の五人旅
74/123

第72話「良薬、口に甘し」

※本当は「口に苦し」が正しいですが、今作では敢えて「甘し」にさせて頂いております。

 インベクル王国の一室。

 ユアは起きていたが、頭がボーっとしていた。まだ熱があるのだ。

 だが、たくさん寝たため、眠気はまったく無かった。


 寝ぼけ(まなこ)のまま窓へ寄り、外の景色を眺めていると、目の前に見覚えのある顔が映った。


「よお」


 何と、クルエグムがベランダに現れたのだ。

 しかし、意識が朦朧とするユアは、夢だと思い込むことにした。


「いや、夢だ。こんなとこに、あんな憎ったらしい奴がいるわけない……」


 熱がある頭でも、ユアは彼を「憎ったらしい奴」と表現する元気はあった。

 相手もまんざらではない様子らしく、ニヤニヤと笑い続けた。


「“憎ったらしい”ねぇ……。そう思われるのは慣れっこだよ」


 ノーダメージだった。

 怒って襲って来ることはなく、クルエグムはユアの顔の前に、ある物を差し出した。


「食え」


 それはプリンだった。しかも、丁寧に使い捨てのスプーンまでついていた。


「お前の仲間が言ってたんだ。“ユアにプリンを届ける”って。しかも、風邪なんだって? これ食って、早く元気出せ。そしたら、また遊んでやる。こないだ、面白かったからな」


 言われるままにユアはプリンを受け取った。

 クルエグムのことはまだ夢だと思っているのか、プリンを見た途端に目の輝きが少しだけ戻った。

 今の彼女は、目の前の敵よりも大好物しか目に入らなかったのだ。



「ユア様。お粥が出来ました……」


 言いながらサーヴラスが部屋に入って来た。手にはお粥の入った器を持っていた。

 だが、クルエグムを見ると、表情がさっと変わった。


「お前は?!」

「よお、サーヴラス。久しぶりだな」


 クルエグムは「邪魔が入った」と言わんばかりに不満を顔に出し、無愛想に言った。

 二人は、魔王だったディンフルに仕えていた時以来に再会したのだ。


「何故、ここにいる?! ユア様から離れろ!」

「ただの見舞いだ。もう帰るよ」


 サーヴラスに応えると、クルエグムはまたユアの方へ向いた。


「じゃあな」


 一言だけ言うと、彼は魔法でその場から消えて行った。

 サーヴラスは急いでお粥を近くのテーブルに置くと、ユアへ駆け寄った。


「ユア様、おケガはありませんか?!」


 当のユアはまだボーっとしたまま、プリンを見つめていた。


「それはプリン……? 食べてはなりません! 奴のことなので、毒が入っていると思われます!」



「ユア!!」


 クルエグムとは入れ違いに、ディンフルが現れた。

 町から馬車で戻った後、店でプリンを受け取ると、魔法で先に戻って来たのだ。


「プリンを買って来たぞ!」

「ディンフル様、クルエグムがここへ来ていました」


 ユアへプリンを渡そうとすると、サーヴラスが真っ先に報告した。

 衝撃の知らせを聞いたディンフルは、驚いて目を見開いた。


「申し訳ありません。私がついていながら……」

「いや、お前はよくやってくれた。食事の手配などで抜けていたのだろう? その隙を狙って来ることも考えられる。奴やヴィへイトルなら、やりそうなことだ!」


 謝罪するサーヴラスをディンフルはフォローし、クルエグムたちを罵倒した。


「それで、何かされたのか?」

「私が来ると、すぐに帰りました。ですが、ユア様の手にプリンが……」

「プリン?」


 サーヴラスとディンフルが目をやると、ユアは付いていたスプーンでプリンを一口ずつすくって食べていた。



「あぁーーーーー!!」



「何をしているのだ、バカ者ぉ?!」


 二人で絶叫を上げると、ディンフルはユアの手から慌ててプリンを取り上げた。


「あ……、私のプリン~」


 ユアはおもちゃを取り上げられた子供のごとく、泣きそうな顔になった。


「“私のプリン”ではない! これはクルエグムが持って来たものだろう?!」

「ユア様! 今さっき忠告しましたよね?! “毒が入っているかもしれない”と! 何故、躊躇なく食べているのですか?!」


「毒なんてないよ。プリンはプリンだよ~」

「何をふざけたことを言っている?! 敵が持って来たものだぞ! 少しは警戒せぬか!」

「この世に悪いプリンなんてないっ!」

「ふざけるなぁ!!」


 おそらく、高熱で頭が正常ではないのだろう。ユアは夢心地のまま、プリンを何度も欲しがった。


「食べるならこちらにしろ! インベクルで買った安全度100%のプリンだぞ!」


 ディンフルが、丁寧に箱に入れていたプリンをユアへ手渡した。しかし……。


「……ダメ! プリンは週に一個って決めているんだ!」

「今だけ忘れぬか、その掟とやらは!!」


 風邪でうなされていても、自らが作った決まりだけはきちんと覚えていた。

 その後、ユアは延々とディンフルから説教されてしまった。

 先ほど一緒に怒ったサーヴラスだったが、「病人相手にそんなに怒らなくても……」とユアへ同情せざるを得ないのであった。


                 ◇


 大好物のプリン(敵からもらったものとディンフルがほぼ強制的に食べさせたもの)を補給したユアは見る見るうちに元気になっていった。

 倒れてから約一週間、ようやく元の状態に戻り、意識もすっかり冴えていた。


「私、クルエグムからもらったプリンを食べたの?!」


 後にディンフルやサーヴラスから聞かされたユアはひたすら驚いた。

 高熱を出している間のことは、ほとんど記憶にないようだ。


「そうだ! 毒が無かったから良かったものの!」


 ディンフルは腕を組みながら、呆れていた。


「まあまあ。ユアちゃんも熱で頭が働いていなかったので、プリンしか見えてなかったんですよ」


 ティミレッジが微妙なフォローをするが、ユアがプリンしか見えていなかったのは事実だ。


「それにしてもだ! 普通、敵が来た時点で警戒しないか?」


 次にフィトラグスが唖然としていた。

 珍しくディンフルと同じく、今回のユアには呆れ果てていた。


「ユアは“みんな仲良く”をモットーとしてんだよ!」


 横からオプダットがユアを庇うと「お前じゃあるまいし!」と、ディンフルとフィトラグスが声をそろえた。元因縁の二人が同時に同じセリフを吐くのはレアな光景だった。


「本当にごめんなさい……」


 ユアはようやく自身の行動のおかしさに気付くと、ディンフルたちへ頭を下げた。

 ティミレッジとオプダットは笑って許してくれたが、ディンフルとフィトラグスは「本当だぞ」とまだため息をついていた。


「私……、週一個って決めてたプリンを、来週からは二個までなら許すことにするよ!」


 謎の決意に、ディンフルたちはずっこけた。


「そこじゃない!!」


 思わず、四人そろってユアへ怒鳴りつけた。

 的外れな懺悔なので、怒られても仕方がないのであった。

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これはみんなツッコミますわ
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