第57話「白魔導士、戻る」
「教会なのに、ずいぶんと騒がしいな」
やって来た早々ディンフルがぼやくと、ユアは嬉しさのあまり彼へ抱きついた。
「ディン様ー! 会いたかったよ~! もう何がなんやらわからなくなって、頭がこんがらがって~!」
「前も言ったが、今はやめろ」
以前もディンフルが途中参戦した際にユアは抱きつき、注意を受けた。
「すいません……」と言い、そっと離れた。
「ディンフル……」
「魔王……本物か?」
アジュシーラは怯えた目をし、ドーネクトは初めて生で見る魔王を物珍しそうに見つめていた。
ダーカーたちも突然来た魔王に興味を持ち、一斉に彼の周りを囲み始めた。
「ヤバい! ディン様が狙われている!」
ユアが彼を背に立ち、チアーズ・ワンドを構えた。
しかし、すぐにディンフルがその手を制した。
「下がっていろ」
ユアを自身の背後に置くとディンフルは持っていた大剣を振り、必殺技の「シャッテン・グリーフ」を決めた。
すると入って来た時と同じく、黒と紫色の衝撃波で残っていたダーカーたちは一気に消えてしまった。
「狙われようが関係ない。俺を誰だと思っている?」
狙われたディンフルを守ろうとつい武器を構えたユアだったが、彼が強いことと体力が戻ったことを思い出していた。
万全でなければ、わざわざ城を抜け出して来ないからだ。
「それにしても弱すぎる。何故、こんな奴らに苦戦をしている?」
事情を知らないディンフルが尋ねると、ユアたちは血の気が引いた。何故なら……。
「全滅ですね。一〇〇体いたのとフィーヴェを支配していた魔王の降臨により、二〇〇体へ増やしましょう」
ダーケストは淡々と言いながら、黒い魔法を手から出し始めた。
「二〇〇体?! そんなに出たら教会が潰れるよ~!」
「何の話だ……?」
ユアが阿鼻叫喚する後ろで、フィトラグスとオプダットもさらに戦慄していた。ディンフルは首を傾げるばかり。
出された黒い光が次々と人の形をし始めた。
「アステラス・ジャッジメント!!」
召喚されたばかりのダーカーたちの足元から白い光、頭より上からは隕石のような物体が降り注ぐと、二〇〇体の集団は一瞬で消え去ってしまった。
「何っ?!」
さすがにこれには、今まで冷静だったダーケストも思わず焦りを見せた。
今の必殺技を唱えたのはソールネム。
教会が崩れる前から一行と合流したが、先ほどからの戦闘には参加していなかった。
「ソールネム! 今までどこにいたんだ?!」フィトラグスが目を丸くしながら聞いた。
「教会の外よ! あのヴィヘイトル一味が屋根を突き破って来たでしょ? その瓦礫で入口を塞がれて、私とアビクリスさんは入れなかったのよ」
彼女だけでなく、アビクリスも教会の外にいた。
入るのに時間が掛かったのは、ダークティミーに言われたことが原因でアビクリスに力が出なかったからとのこと。
そして皆が入り乱れて戦う中、ソールネムが必死に元気づけたおかげでアビクリスは元気を取り戻した。彼女は渾身の力で瓦礫を粉砕し、先にソールネムを中へ入れたのであった。そして……。
「オラァーーー!!」
残っていた瓦礫を砕き、自身もやっと教会に入れた。
元気になった彼女を見て、ユアたちも安堵するのであった。
しかし、唯一……。
「お前は……?」
「ま、魔王……?」
ディンフルとアビクリスの目が合った。
この二人は過去に因縁があった。フィーヴェでの戦いが始まる前、アビクリスはティミレッジと共にディンフルの城へ来ていた。そこで、両者は戦い合っていたのだ。
「過去を振り返っている場合ではない。敵は他にいる」
「外まで聞こえていたから知ってるよ!」
皆の心配をよそに、すぐに二人そろって気持ちを切り替え、アジュシーラとドーネクトたちを睨みつけた。
ティミレッジから聞いていたユアたちは、彼らがまた戦い合うのではないかと冷や冷やしていた。
だが、確かに今はそれどころではなかったため、胸を撫で下ろすのであった。
ユア、ディンフル、フィトラグス、オプダット、ソールネム、アビクリス、そして怯えながらサティミダがアジュシーラ、ドーネクトとダーケストを睨みつけた。
「も、もう寝る時間だし、か~えろ……」
主にディンフルが来たことで敵わないと感じたアジュシーラは、三日月型の乗り物に乗って天井の穴から出て行った。
続いて……。
「くっ……。俺たちも一旦引くぞ、ダーケスト」
「寝る時間だからですか?」
「違うわ! アビクリスも来たから、撤収するんだ!」
ドーネクトはからかって来たダーケストにつっこむと逃げるようにして、崩れた壁から出て行き始めた。ダーケストは仕方なく、それについて行った。
しかし、崩れた壁の大きな破片にローブを引っ掛け、ドーネクトは転んでしまった。
急いで体勢を直すも、後ろから「しっかりして下さい。子供じゃないんですから」とダーケストにたしなめられてしまった。
ローブから歪な形の石を落としたことに気付かずに……。
ヴィヘイトル一味と闇魔導士たちがいなくなり、ほっとするユアたち。
だが、問題はまだ残っていた。
「ちぇっ! 面白かったのによ!」
騒動が収まり、ダークティミーは床で胡坐をかきながら残念そうにぼやいた。
「ティミレッジ……なのか?」
「信じられないかもしれないが、そうだよ……」
ダークティミーと初めて対峙するディンフルは明らかに動揺していた。
そんな彼へ、未だ受け入れられずにいるフィトラグスが肯定した。
「サティミダ、行くよ」
「ど、どこへ?!」
いきなり元妻から呼び掛けられ、サティミダはうろたえた。
「どこにも行かないよ! 白魔法を使うんだ! 二人以上いないと出来ないやつだよ!」
思い出したサティミダは自身の杖を構え始めた。
アビクリスは杖を持っていないので、両方の手の平をダークティミーへ向けた。
二人で同時に魔法を唱えた。
「ダークネス・イレース!!」
両者の手と杖から白と金色の光が現れ、ダークティミーを包み出した。
苦しみに悶えるダークティミー。やがて、彼は眠るように目を閉じた。
光が消えて無くなると、白いローブを来た白魔導士のティミレッジの姿に戻っていた。
「ティミー!!」
ユアたちの叫びを聞いて目を開けるティミレッジ。
「み、みんな。僕は一体……?」
穏やかな話し方も戻っていた。
一同は喜びで歓声を上げるのであった。
「喜んでいるところ申し訳ないが、完全に戻ったわけじゃないよ」
アビクリスが水を差すように言った。
その隣で、サティミダも残念そうな表情を浮かべていた。
「今のは闇の力を消す強力な白魔法だが、ティミレッジの体の魔法陣は完全には消せないんだ」
そう言うと彼は、ローブの下に隠し持っていたポシェットから一枚の札を出した。
そしてティミレッジの破れた服から見える、闇の魔法陣の上に貼り付けた。
「これでしばらくは大丈夫だ」
「邪悪な魔法を極力抑えられる札だ。でも、効果は一時だけだよ」
札を貼るサティミダの横に立ったアビクリスも説明した。
「一時って……、魔法陣は消せないの?」
ティミレッジが心配しながら尋ねた。
「消せるよ。でも、最上級の浄化魔法でないとダメだ。この闇魔法自体が並大抵じゃないからね」
「この世界のどこかにそれを使える人がいないか、パパたちが探すから安心しなさい」
アビクリスが説明した後に、サティミダが優しく言った。
ティミレッジは、離婚した両親が自身のために今だけ団結し、合体の白魔法を使ってくれたことに感謝していた。
そして、この二人から愛されていると改めて感じるのであった。




