第45話「友との別れ」
ボレンフドとポタルチアは打ち明け続けた。
木から落ちたオプダットが安静にしている間、パールが「チャロナグタウンの祠にある宝石を見たい」と周囲に話していた。
当時、子供たちにはジュエルの詳細は伝えられておらず、彼らは勝手に「願いを叶えてくれる石」と思い込んでいた。
パールも例外では無かった。彼はそれで「オプダットのケガが治りますように」と願おうとしていた。
この時、パールの容体は悪くなかったが、それは通常と比較しての話だった。なので少しの外出ですら禁止されていた。
彼としては一刻も早くジュエルを手に入れて、オプダットに治って欲しかったのだ。
そこである日の夜中、パールは病院を抜け出し、それを心配をしたクロウズがついて行った。彼も必死に止めたが、相手は頑なに聞こうとしなかった。
話を聞いたユアたちは唖然とした。
「僕たち、さっき裏山に登ったんですけど、ユアちゃんの力が無かったら無理でしたよ。それを子供……それも病気を抱えたままで登ったんですか?」
登山中、一番ダウンしそうだったティミレッジがその時の辛さを思い出していた。
成人している自分たちでも普通に登るのはきつく、ユアが出してくれた魔法の四角形のおかげで祠まで行けたのだ。
「いや、祠には行けなかった」
ボレンフドが残念そうに言うと、急にポタルチアは口元を手で押さえ出した。悲しみを堪えているように見えた。
「途中、クロウズが池に落ちたんだよ。あいつ元気だけど、カナリアだったんだよ」
「“かなづち”ね」
ボレンフドが説明するが肝心なところで言い間違えてしまい、ポタルチアが声を低くしてつっこんだ。
わずかながらだが、緊迫した空気が緩んだ。
「落ちたクロウズをパールが助けたんだ。あの子は泳げたからな。でも、入院してる間にすっかり体力が落ちていて、あいつを助けた後で溺れちまったんだ」
「それで、パール君は次の朝……」
ポタルチアが涙声で伝えようとしたが、途中で言葉が詰まった。
最後まで聞かなくても、ユアたちには想像出来た。衝撃的な展開に一同は絶句した。
「わずか、十二だった。最後に顔を見に来たクロウズは、“お前が木に登っていなかったら、パールは宝石探しに行かなかった”ってオプダットを責め立てた。今思うと、八つ当たりだな。池に落ちた自分を責めているようにも見えたんだ」
「それが決定打だったんですね……」とティミレッジがしんみりと言った。
「オープンにもそんな過去があったなんて……」
これまでパーティの中ではユアがエンヴィム、ディンフルがウィムーダ、フィトラグスがセスフィアなど、大切な人を亡くして来た。
「あいつが前に言っていたのは、パールのことだったんだな」
以前、緑界という異世界で、オプダットは自身の入院生活をフィトラグスだけに話したことがある。そこで、仲良くしていた友人が突然亡くなったことを伝えられた。
「オープン、大丈夫だったんですか?」
「しばらくは落ち込んでいたわ。でも……」
チェリテットが心配しながら尋ねると、ポタルチアが答えた。最後にアティントスの方を見て……。
「先生と出会って変わったのよ」
「僕ですか?!」
いきなり指され、驚くアティントス。
「ああ。あいつは先生のおかげでだいぶ良くなったぜ! 病気を治してくれただけじゃなく、心も救ってくれた! あいつも俺たちも、人生が三六〇度変わったんだ!」
「一八〇ね! 三六〇じゃ元通りだから!」
やはり肝心なところを言い間違えるボレンフドに、ポタルチアが今度は怒りを込めてつっこんだ。
アティントスがオプダットの病気の根源を見つけ、治療の末に彼はようやく退院できた。
でも、退院の日もオプダットの表情は冴えなかった。やはり、パールやクロウズのことが引っ掛かっていたようだ。
「せっかく病気を治して退院出来ても暗いままだと、生きづらいと思ったんだ。寿命が延びて、この先の人生も長くなったからね」
そう思ってアティントスは暗い表情のオプダットに「明るく前向きでいること、友達を大切にすること」を教えたのだ。
「あいつ、言ってたぜ。“友達を大切に”はパールを亡くした後だったから余計、心に響いたって。だから、“せっかくパールがきっかけで出会ったんだから、クロウズとも仲良くしたい”って」
ボレンフドがそう言うと、横で聞いていたポタルチアはハンカチで涙を拭った。
「ジュエルを探しに祠へ行く時から様子が変わったのは、パールさんを思い出したからなんだね」
チェリテットも寂しそうに言った。
これまでオプダットの病気や入院生活を知らずに生きて来た彼女は、彼にも暗い過去があったことが信じられなかった。
同時にそういう経緯だったからこそ、仲間を大切にするのだと納得もしていた。
オプダットの新たな過去を知った一行は、ユアとフィトラグス、ティミレッジとチェリテットの組み合わせで彼を探し始めた。
◇
その頃、オプダットはパールの墓に来ていた。
細い花束を手にしており、墓石に供えようとしたが手が止まってしまった。新しい別の花がすでにあったからだ。
「あいつ、やっぱり来てたんだな。クロウズは変わらねぇな。やきもち妬きなとこと、お前想いなとこ。こんなに愛されるなんて、パールって本当に幸せ者だな!」
オプダットは墓石に向かって明るく言ってみせた。もちろん、返事は無い。
花が供えられているだけでなく墓周りも雑草が抜かれ、ゴミも取り除かれ、墓石もキレイになっていた。これもクロウズがしてくれたのだろう。
定期的にパールの墓参りに来ているオプダットだが、今回は手持ち無沙汰だった。
「オープン!」
自身を呼ぶ方へ振り向くと、ユアとフィトラグスが立っていた。
「ユア、フィット?! どうしたんだよ?」
「お前を探してたんだ。歩いている人に聞いたら、ここだって」
「クロウズさんとパールさんのこと、聞いたよ」
ユアがそう言うと、オプダットはうつむいた。
彼がその顔を見せるのは、水界で過去を話してくれた時以来だった。
「オープンは悪くない。パールのことは残念だったが、彼は最期まで友情を全うしたよ」
「じゃあ、クロウズが悪いのか……? “お前が木に登っていなかったら、パールは宝石探しに行かなかった”って言われたが、俺が悪くないならパールを止めなかったあいつが悪いのか?」
珍しくオプダットから後ろ向きな意見が飛び出し、ユアとフィトラグスはそろって動揺した。
「誰も悪くないよ」
ユアがきっぱり言うと、オプダットは顔を上げて彼女を見た。
「オープンが木から落ちたのも、クロウズさんが池に落ちたのも、パールさんが亡くなったのも誰のせいじゃない。悪い偶然が重なったんだよ。ここで誰かを責めると、パールさんも浮かばれないと思う」
あまりにもしっかりした口調で話すユアへ二人は驚きながらも、納得した。
我に返ったフィトラグスも「そうだ」と同調した。
「もう一度、クロウズと話し合ってみろ。向こうが望むなら、拳を振るうしかない。俺たちにはどうしてもジュエルが必要なんだ。“友達だから”とかは今は言ってられない」
「うん。オープンにしか出来ないよ」
二人に説得され、オプダットは大切なことを思い出していた。
「話し合う……。そうだな。まだクロウズに言えてないこともあるし、行ってみるよ。ありがとな、二人とも! おかげで目が鱗になったぜ!」
「“目から鱗が落ちる”!」
いつもの明るさを取り戻しながら言い間違えるオプダットへ、ユアとフィトラグスは笑いながら訂正するのであった。




