第24話「決意」
インベクル王国の王の間。
フィトラグスたちは老師・イポンダートの指示で、ジュエルというものを集める旅に出ることが決まった。
彼らが王の間に着いた頃にイポンダートが遅れて来たので、彼も交えて話すことになった。
「そのジュエルというのは何なのだ?」
国王・ダトリンドに聞かれたイポンダートがわかりやすく説明し始めた。
「フィーヴェのどこかに存在する宝石じゃ。もちろん、ただの宝石ではない。長い年月をかけて魔力を浴びて、強い力を秘めたものじゃ。それを手に入れれば、今よりもずっと強大な力を得られるじゃろう」
ユアは「フィーヴェのジュエル」に関しては初耳なので、こっそりとリュックからイマストVの攻略本を取り出し、探し始めた。
だが、宝石らしきものやジュエルの「ジュ」の字も見当たらなかった。
(やっぱり、追加コンテンツかな?)
「ユア殿はご存じかな?」
突然ダトリンドに聞かれ、ユアは驚いて顔を上げて「いえ、初めてです!」と答えた。
小さい子にも怒鳴る国王なので「人が話している時に本を読むな!」と怒られると思い、慌ててしまった。
しかし、そのダトリンドの手にはユアが買い与えた同じ攻略本が開かれていた。おそらく、話を聞きながら彼も調べていたのだろう。
「そのジュエルというのは、どこにあるのでしょう?」
続いてクイームドが尋ねた。
「わしは知らん。だが、それなら導いてくれるかもしれん」
イポンダートは持っていた杖でユアを指した。自身を指さしながら目を丸くしていると、「チアーズ・ワンドじゃ!」と教えてもらった。
ユアは急いで現物をリュックから出した。
「ユア殿、それは?」
「わしがユアにあげた非戦闘員用の武器じゃ。それには敵から身を守る以外に、ジュエル等の探し物を見つけ出す力もあるのじゃ」
「ユアの武器が導くってことは……?」
フィトラグスが察した。
彼が言いたいことをイポンダートは理解しており、説明は省いて一言だけ告げた。
「彼女も同行させてやれ」
王の間にいる全員が驚きの声を上げた。
行きたがっていたユアにとっては願ってもいないことだった。
「しかし、ユア殿は戦えない筈……?」
「“非戦闘員用の武器”と申したはずじゃ。敵から身を守れるし、味方を応援することも出来る。ましてや、今の王子たちにはユアの力が必要じゃ」
チアーズ・ワンドはまだ一度しか使っていないが、「敵から身を守る」はライトの先端からビーム状の魔法が出るものだとユアは確信した。
だが、「仲間の応援」がピンと来なかった。思いつくといえば、戦う仲間へ向かってペンライトを振る行為。命が掛かっている戦闘中にすれば、反感を買うのは間違いなかった。
「俺は反対だ」
フィトラグスが怒りを込めながら冷静に言った。
「な、何で?」ユアがおずおずとしながら聞いた。
「いくら武器をもらったからと言って、危ない戦いには連れて行けない。さっきも言ったが、今はディンフルを休ませないといけないんだ。もしヴィヘイトルたちに襲われても俺たちだけじゃ太刀打ちできない」
「だから、それは……」
「私はいいと思う」
ユアを遮って声を出したのはソールネムだった。
「ソールネム……? 何がいいんだよ?」
フィトラグスだけではく、他の者も驚いて彼女を見た。
クールで判断力があるソールネムなら、一緒になって反対すると思ったからだ。
「そのチアーズ・ワンドって武器、何だかよくわからないけど、ディンフルのお兄さんに一撃与えたんでしょ? それまでは誰もダメージを与えられなかったんじゃ無かった?」
「そうだが……」
「イポンダートさんの話では他にも使い道があるみたいだし、ジュエルを探すのにも必要なら連れて行った方が……いえ、連れて行くべきだわ」
「でも、ユア自体が戦えないんだぞ! そのライトが導いてくれるなら、それだけ俺たちに貸してくれたら……」
「チアーズ・ワンドは一度持ち主が決まると、それ以外には使いこなせん。だから、ユアも行くべきなのじゃ」
フィトラグスが言い返すと、イポンダートが遮った。今の発言からして、ユアの同行は不可欠だった。
ソールネムはさらに毅然として言った。
「フィーヴェにはまだまだ魔物がいる。初めは弱いものから倒して、少しずつレベルを上げればいいんじゃないかしら?」
「修行をさせるってことですか?」
「それ、いいと思う!」
ティミレッジが尋ねると、チェリテットが賛成の声を上げた。
「一度も戦ったことが無いなら、フィットたちと同じになるまで経験を積むべきだよ! 今のフィーヴェなら戦い放題だし、魔物も減るから一石二鳥だよ!」
女性陣に賛同され、ユアはほっとした。
「“俺たちと同じに”って、今のレベルまでどれぐらい掛かったと思う……?」
「それにユアは戦う前提で体を鍛えていないんだぞ! いざとなったら、俺たちみたいに高くジャンプしたり、長距離を走って逃げられないぞ!」
それでもフィトラグスは折れず、さらにオプダットまで不賛成の声を上げ始めた。
「それなら安心せい!」一同の声を静めるようにイポンダートが大声を上げた。
「参戦するなら、わしから力をやる。魔物から上手く逃れたり、自身と他人を守る力をな!」
「上手く逃げて、守る……白魔法ですか?」ティミレッジが疑問を抱いた。
「それとは違う。とにかく心配はいらん。もしヴィヘイトル一味が来ても、自動で守れる能力じゃ!」
彼の説明を受けても、まだフィトラグスは納得がいかないようだった。
ここでティミレッジが、廊下での話し合いを思い出した。
「そういえばユアちゃん。さっき言ってたよね? “戦わなきゃいけなくなった”って。それって、クルエグムがミラーレに来たことと関係しているの?」
「何と?!」ダトリンドは驚き、思わず玉座から身を乗り出した。
隣のクイームドも少しだけ険しい表情になった。
ユアは一部始終を説明した。
リアリティアの弁当屋で働けなくなり、ミラーレの「ネクストドア」で働いていたが、そこにクルエグムが来たこと。
そして、ヴィヘイトル一味がディンフルの城を乗っ取り、邪龍まで召喚していた事実を。
「あいつらが邪龍を増やしていたのか?! 許さねぇ……!」
「ディンフルの城まで乗っ取りやがって!」
事情を聞いたフィトラグスとオプダットは憤慨した。
ディンフルはその邪龍の相手をし続けた上にヴィヘイトルらと対峙し、倒れたのだ。二人以外の仲間たちの怒りも当然だった。
「クルエグムが来た時、何かされなかった?」
チェリテットに心配され、ユアは重々しく答えた。
「“俺と付き合え”って言われた」
「どういうこと……?」呆気に取られるティミレッジ。
「愛の告白とかじゃなくて、何かに利用したそうな感じだった。もちろん断ったよ。そしたら交換条件を出して来た。もし付き合ったら、弁当屋の弁当を毎日買うとか、ディン様の城を返すとか、フィーヴェから邪龍を消すとか……。”付き合わなかったら、その逆をする”って」
「脅しじゃない! 卑怯だわ!」
「受けなくて正解だよ!」
今度はソールネムとチェリテットが怒りの声を上げた。
同じ女性同士として、ユアの嫌がる気持ちに共感したのだ。
「だから、戦いたいの」
ユアがぽつりと言うと、王の間が静寂に包まれた。
「ディン様が倒れた日に“みんなを助けたい”って思ったけど、今はそれに加えてクルエグムから自分や店を守りたいの。告白はもちろん受けないけど、そのせいで弁当屋やフィーヴェがひどい目に遭うのはもっとイヤだ。だから直接戦って、クルエグムたちを何とかしたい。それが一番の防御だと思ったの」
ユアの決意に満ちた目に、フィトラグスは少しだけ怯み始めた。
「確かに一番だが……でも、やっぱりユアには危険すぎる。ましてや、ヴィヘイトル一味は五人もいるし、厄介だ!」
「心配いらんと言うてるじゃろ!」
イポンダートが怒りを込めて話に割って入った。
ユアの意見を聞かないフィトラグスにだんだん苛ついて来たのだ。
「わからん奴じゃのう! 本当に危険かどうかは、わしが与える能力で判断してくれ! もし何かあったら、わしが全責任を負う!」
一同は驚いた目で一斉に老師を見た。
「もし、ユアちゃんが死んでもですか?」ティミレッジが不安そうに尋ねた。
「今から悪いことは考えるでない! わしもヴィヘイトルの悪しき行為には反対しておる。それゆえに色々と考えて、対抗できる魔法や力を開発中なんじゃ! だから、ユアに与える力も安心して良い!」
力強く言われると一行は何も言えなくなり、ついにフィトラグスも黙ってしまった。
「ユア殿を一から戦わせ、慣らしていくなら賛成だ」
静寂の中、ダトリンドが同意すると全員彼へ注目した。
「ユア殿がクルエグムを何とかしたいというのは参戦するにふさわしい。それに、その武器が無いとジュエルを探せないのだろう? 老師も何か力を与えると言ってくれているし、修行をするのであれば参戦させても良いと思うぞ」
「私も反対はしません。今、行かせないとなればユアさんは一生後悔すると思います」
国王に続いて、クイームドも賛成してくれた。弁当屋のこうやと同じ意見だった。
「フィトラグス。心配から反対する気持ちもわかるが、武器、老師の力、戦いを慣らす環境……これだけのサポートがあるのだ。本人からも強い意志を感じるし、行かせても良いだろう」
ここで、とうとうフィトラグスが折れた。
「わかりました。父上と母上がおっしゃるのなら……」
彼が諦めの声を漏らすと、仲間たちから歓声が沸き起こった。
「よかったね、ユアちゃん!」
「早速、明日から鍛えないとな! 覚悟しとけよ~!」
先ほどまで反対していたオプダットは、いつの間にか賛成派に回っていた。
「お前、さっき反発してただろ?! 汚ぇぞ!」
「フィトラグス!!」
突然、ダトリンドが息子を怒鳴りつけた。
おそらく「汚ぇぞ」という言葉遣いが気に障ったと思い、フィトラグスは急いで父に謝罪した。
「も、申し訳ありません。つい……」
「何だ? 父は怒っておらんぞ?」
「は……?」
「昔から口を酸っぱくしているが、話は最後まで聞きなさい! しばらくはインベクルを拠点に、草原に出る魔物や邪龍を倒してみてはどうだ? 旅に出るのはその後でも間に合うだろう」
怒られると身構えていたフィトラグスだが、ダトリンドは今後について提案してくれた。
「素晴らしいアイディアです! インベクルの周囲は比較的弱い魔物が出ます。邪龍はいきなりレベルが高いので、この辺りから慣らすのが良いでしょう」
ソールネムは賛成だった。
ユアも思い出していた。イマストVのチュートリアル及び序盤はインベクル周囲から始まることを。
ゲームは未プレイでも攻略本を読みあさったので、レベルの低い魔物が出ることも知っていた。
邪龍も中盤辺りに出るので、初めは相手に出来そうになかった。
「旅立ちには少し遅くなってしまうが、どちらにせよ、お前にはまだ城にいてもらわなくてはならん」
国王がそう言うと、フィトラグスは父の顔を見つめた。
「ディファートの受け入れ問題は休止したのでは?」
「ディファートは関係ない。実はな、フィトラグス。大変な時期に申し訳ないが、お前に新たな婚約者候補が現れたのだ」
突然の発表にその場の全員が驚きの声を上げ、フィトラグスは目を丸くするのであった。




