キャサリン・ステファニーが編み出す【未来】
「俺が未来予知……つまり、追体験から戻ってくる方法はひとつ。追体験の中で俺自身が殺されることだ」
「追体験で……殺される?それ以外の戻り方はないのですか?」
「そうだね。基本的にはないんじゃないかな。というか、俺はそれ以外知らない」
私はリアム殿下の話すその内容に絶句した。
つまりそれって──
(彼は未来を見る度に、死を繰り返している……という、こと?)
それがもし事実だとするのなら。想像するだに恐ろしいことだと思った。ゾッと背筋が冷えて、血の気が引く。
私は一度、殺されて死に戻った。だけど、リアム殿下は一度ではなく、複数回、いえ、もしかしたら何十、何百という死を体験している……?
「そんなの……。そんなの、惨すぎますわ」
何度も死に戻るなんて、まともな精神ではいられないはずだ。
だけど、今のリアム殿下に変わった様子は見受けられない。
受け答えもはっきりしているし、いきなり取り乱したりということもない。
だけど──想像を絶する。
想像、できない。
唖然とする私に、リアム殿下が困ったように言った。
「そうだよね。他人が聞けば、酷い話だと思うかもしれない」
「お国事情ですから……他国出身の私がとやかく言えることではないかと思います。それでも、断言出来ますわ。予知から戻る条件は死を迎えること、なんてあまりにも惨すぎます。……誰も、誰も、異を唱えなかったのですか?」
他国の事情だ。その国にはその国の事情があるし、またその背景もある。考え方も異なる。それは分かっていても、どうしても気になってしまった。だって、そんなの普通じゃない。
リアム殿下もひとなのに、一人に対する負担が大きすぎる。
責めるような聞き方にはならないよう、注意したつもりだけどやはりそう聞こえてしまっただろうか。リアム殿下は肩を竦めた。
「さあ。だけど俺自身は何とも思ってないから、あなたもそんなに気にしないで。他でもない俺自身が納得してることだ」
「…………」
リアム殿下は、この場で預言者の在り方を議論するつもりはないのだろう。自己完結させるように言うと、本題は別にある、とでも言うように彼は言った。
「……それはいいとして。重要なのはその時間軸で、俺が魔女と話せなかったこと。つまり、彼女の目的を聞けずじまいに終わってしまった」
(触れられたくないこと、なのかしら)
私に宝石姫としての責務があったように、彼にも預言者としての役目があるのだろう。それを苦痛に思い、投げ出してしまった私とは違い、彼はそれを誠実に果たしている。自身の役割に納得し、真摯に、国のために責務を果たそうと尽力しているのだろう。
「…………」
自分とリアム殿下の立場はとても似ているように感じるのに、取り巻く環境も、考え方も全く違う。
(他人だから、それも当然なのかもしれないけれど)
それでも、考えてしまう。立場に誠実であろうとして、それに疑問を抱いていない様子のリアム殿下。
彼を見ていると──私の選択は誤りだったのでは無いか、という感情が。
あるいは、他に選択肢があったのではないか、と囁く自分の声が聞こえてくる。
全て投げ出して、放り出して逃げるのはあまりに無責任だ、と。
自問自答に陥り考え込んでいると、同じようになにか考え込んでいた様子のリアム殿下が顔を上げた。
「……予知を行うには、様々な条件が必要となる。最もそれに適した場所が、俺の部屋──サミュエルの城なんだけど、つまり、最後に予知を行ったのは一ヶ月以上前ということだ」
「その予知では、何を見たのですか?……私の死?」
私の疑問に、リアム殿下は首を横に振った。
「いや、あなたの死を知ったのは三年前。一ヶ月前に見たのは、また別だ。未来は常に変化するものだから、既にずれてる部分もあるかもしれないけど、大きな変化はないと仮定して──」
そこで、リアム殿下は人差し指を立てた。
そして、真剣な眼差しで私を見る。
「……近日中に、王太子の恋人であるキャサリン・ステファニーがあなたの噂を辿って、このノルトヴァルトまで来る。なにか対策しなければまず間違いなく、あなたはキャサリンと会うことになる」
「──」
確信を持った言い方に、またしても私は目を見開いた。言葉が出なかった。




