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【商業企画進行中】さようなら、私の初恋。  作者: ごろごろみかん。
三章:宝石姫を失った代償

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時が戻る前の、話

リアム殿下の言葉に、私は瞬いた。

首を傾げ、言葉を繰り返す。


「私の?」


「うん。どこから話そうかな……我が国には天使と悪魔、という信仰があることは話したよね。それで、天使の愛し子がいわゆるベリアの宝石姫であることも伝えたと思う」


頷いて返すと、それを見たリアム殿下が人差し指を立てる。彼は、キッチンの台に背を預けるようにして立ちながら、話を続けた。


「その愛し子を守る立場にあるのが──いや、少し違うな。サミュエルを守る責務があるのが預言者(プロフェット)。言葉のとおり、預言者だ」


「……預言者?未来がわかるということですか?」


「未来がわかる、というより、追体験をする、という方がイメージとしては近い。預言者(プロフェット)というのは、天使の愛し子が生まれない時も常に現れるものなんだ。前代の預言者が死んだら、その翌年、あるいは数年後に新たな預言者が現れる。そういうふうになっている」


「……愛し子を守る立場にあるのに、愛し子がいなくても生まれる?いえ、まずはひとつ、お聞かせください。その話をするということは、今代の預言者は、リアム殿下なのですか?」


その質問に、彼は軽く頷いた。つまり、正解ということだろう。


「その通り。今代の預言者は、俺だよ。その未来で、俺は見たんだ。あなたが殺され、両国間で戦争となる、その未来を」


「…………」


にわかには信じにくいことだけれど、確かにリアム殿下の話は筋が通っていた。預言者という立場だから未来を知っていて、私が殺される未来を知っていて、さらにその先をも彼は知っている。


(……かなり超常現象的だけど、それを言うなら私の体質の方がもっとおかしいもの)


そういうこともあるのだろう、とここは納得すべきだ。そう思った私は、ひとまずサミュエル側の事情を整理することにした。


「あなたの責務はサミュエルを守ること、と仰いましたね。つまり、私を死なせないことが間接的にサミュエル国を守ることになる、ということですか?」


「ひとまずはそうだね。少なくとも、あなたが王太子に殺されなければ戦いの火蓋は切られない」


「……あなたも、あの未来にいたということ?」


「同じ場所にはいなかったけど、同じ世界にはいた、という認識で構わないよ。あの時、俺は、あなたの殺害に魔女が手を貸したと聞いて、魔女に話を聞きに行く途中だった」


「…………」


まさか、前世──と言って正しいのかは分からないけれど。あの時の記憶を持つ人が今の時間軸にいるとは思わなかった。

自分が死んだ後の話を聞けるなんて、滅多にない機会だろう。

息を呑んで話を聞いていると、リアム殿下はグラスを手に持ったまま、ふたたび椅子に座った。つまり私の対面の席だ。


「魔女は基本的に不介入、無干渉を貫いている。少なくとも俺たちサミュエルの認識はそんなものだ。その彼女が、わざわざ宝石姫の殺害に手を貸した。それはなぜか?彼女自身が宝石姫に興味があるからだ」


「…………なぜ、魔女は王太子に、彼に協力したのだと思いますか?」


ずっと気になっていたことだ。それが今、わかるだろうか。

その質問に、しかしリアム殿下は首を横に振って答えた。


「分からない。だから、宝石姫の成り立ちになにか手がかりがあるんじゃないかと思って、予知から戻った俺は魔女にコンタクトを取ることにした。これが、こっち側の事情だよ」


「……未来で、あなたは魔女と話をしたのですか?」


もう存在しない未来。

だけど確かに、私が身をもって体験した記憶。

あの時、彼女は明確に私を殺すための手助けをした。彼女はなぜ、私を殺す協力をしたのだろう。……私を殺したかった?


先程会った時の彼女からは、殺意は感じられなかった。私を見た彼女からは驚きと……僅かな、憐憫?同情?そんなものを感じた。勘違いかも、しれないけれど。


沈黙して考え込んでいると、リアム殿下があっさりと言った。


「それが話せなかったんだよね。未来で俺は、ベリア国の騎士に殺されちゃったから」


「…………はっ!?」


彼は、軽い調子でとんでもないことを口にした。

驚いて思わずバッと勢いよく顔を上げると、困ったように苦笑するリアム殿下と目が合った。


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