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【商業企画進行中】さようなら、私の初恋。  作者: ごろごろみかん。
三章:宝石姫を失った代償

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魔女との取引

詳細な描写はありませんが、虫の話が出ます。苦手な方はご注意ください。該当単語を検索しないことをおすすめします。


「美味しかったわ!ご馳走様でした!」


「お口に召したようで何よりです。リアム殿下は何と言いますか、お味に好みがないようでして。健康面に配慮し、薄味で仕上げているんですよ」


「そういえば……確かにお味が薄かったわ。意図してなのね」


リアム殿下の好みかと思っていた。

ちらりと彼を見ると、彼は引き出しから小さな麻袋を取り出し、それを手に持って椅子に座り直した。手持ち無沙汰に麻袋口を開ける。中から現れたものを見てギョッとする。

思わず席を立ちかけると、それに気がついたリアム殿下が困ったように眉を下げた。


「【悪魔憑きの魔女】は、薬草配合が趣味らしいんだよね。あなた……は入ったことないか。あの、魔女の家。かなり面白い構造になっているんだけど、至る所にハーブが置かれている。だから俺は、彼女の趣味の手伝いになれば、とこれを贈ったんだけど……」


心底疲労したようなため息を吐くリアム殿下に、ファルクが窘めるように言った。


「女性の前で出すものではないかと思いますよ」


「……貴重品なんだよ?」


「貴重かどうかは、今この場において特別重要なことではありません」


ピシャリとファルクに言われたリアム殿下はふたたびため息を吐いて、それ(・・)を麻袋に戻した。

その僅か数分、私は腰を浮かせた体勢のまま固まっていたが、その異様なものが仕舞われたことでようやく息を吐き出した。


そして恐る恐る、さりげなくリアム殿下と距離を取りながら彼に尋ねる。


「今のは……一体?虫……のように見受けられましたが」


「これは冬虫夏草(とうちゅうかそう)って言ってね。昆虫に寄生するタイプのキノコだよ」


「──ッッ」


昆虫!!やっぱり虫だった!!

しかも恐らく、芋虫……!!

悲鳴をあげそうになり、ふたたびガタッと椅子が大きな音を鳴らす。それにファルクがアチャーという顔をし、リアム殿下が顔を顰めた。


「ルシア、これはね、物凄い貴重品なんだよ。東の国では滋養強壮、疲労回復に効くとされていて、美容効果もあると言われている。かの有名な姫も好んで口にしていたとか」


「そ……虫、を?」


「そう。虫を」


あっさりリアム殿下がそう答えるので、思わず口から魂が飛び出しそうになった。なんと言っても、見た目がすごく異様だ。

効能があるとのことだし、物凄い貴重らしいけれど……。

あの芋虫を口にすると考えただけで……あっ、これ以上考えたらきっとだめだわ。

私はそこで思考を打ち切ることにした。


リアム殿下はあっさりとこれを取り出したが、恐らく価値を正しく知るものからしたらそれこそ垂涎のものだろう。しかしそれとは裏腹に、繊細なの婦人なら、その見た目と説明に卒倒してもおかしくないと思った。

私の反応に、苦手と思っていることが伝わったのだろう。いや、伝わるわよね、普通。

リアム殿下はすぐに麻袋を引き出しにしまった。

……あそこに、虫が。


思わず目で追ってしまうが、何とかそこから視線を引き離してリアム殿下を見た。彼は私への気遣いからか、手を洗いながらボヤくように言った。


「これさ、本当に採取が大変だったんだ。学者に掛け合って、適した環境を探して……ようやく見つけたんだ。それなのに魔女はさぁ」


そこでリアム殿下は彼女の真似なのか、声色を変えて言葉を続けた。


「『嫌がらせかい?女への贈り物とは到底思えないね。口に詰め込んでやろうか!』……って言うわけだよ。薬草作りが趣味なら、それこそ喉から手が出るほど欲しいやつだと思うんだけど、どう思う、ルシア?」


「そう……ですわね。確かに女性への贈り物としては……正直、ない、と思います」


どう言い繕っても、虫をプレゼントされて喜ぶ女性はかなり少数派なのではないだろうか。私の言葉に、リアム殿下が肩を落とす。

ファルクがうんうん、と何度も頷いている。


「だってさ、今まで珍しい鉱物や、お菓子、他国の名産品だって持っていったけど、彼女、それら全て受け取らなかったんだよ」


なるほど……。迷走した結果、その冬虫夏草というものに辿り着いたのだろう。

しかし──そうまでして、リアム殿下は魔女に何を尋ねたいのか。

気になった私は顔を上げて、リアム殿下を見つめた。彼は水差しからグラスに水を注ぐと、それを口にしていた。


「リアム殿下は魔女に何を求めているのですか?あなたは先程、私を死なせない……殺させないためだ、と仰った。それと、魔女に何の関係が?」


私の質問に、?リアム殿下は猫のような目を瞬くと、水をごくりと飲み込み、グラスをキッチンに置いた。


「そうだ。そういえばまだ、その話をしていなかったね」


一拍開けて、リアム殿下は話し出した。


「まず、俺が魔女に聞きたいことはふたつ。一つ目が、宝石姫とはなにか、ということ」


「──」


思わず、目を見開く。

リアム殿下の魔女に聞きたいことのひとつは、私と全く同じものだったからだ。


「そしてもう一つは、今代の宝石姫の所在地……。つまりルシア、あなたの居場所を知ることだ」






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