68話 貸し 1
輪花が放置されている部屋まで、秋冬くんを引きずってきたのはいいものの足がすごく痛い。痛み止めがあるけどカバンの中だからまた移動しないといけないんだよ。面倒だし我慢するけど……しっかりと話が出来るかどうかによるなぁ。これくらいなら話くらいであれば我慢するのは出来るとは思う。ここから移動するとなるとしんどいけどな。夜夢か竜樹が家に居れば取ってきてもらうんだが、竜樹は生徒会だし夜夢はどこに居るかわからない。
とりあえず部屋に入り輪花の近くに秋冬くんを投げ捨てる。一応は二人の仕えるべき主になっているんだが、どうしてこう僕が助けたりしないといけないのか分からないが別にいいだろう。今回の先輩Aのことでしっかりと二人には働いてもらうから。事情を説明するまでには、まずは秋冬くんに輪花の拘束を外してもらう必要がある為お願いして僕は人数分の飲み物を用意する。まぁお茶であればいいだろう。
「よし、二人ともすまないが運ぶのを手___うっ」
二人にお茶を運ぶのを手伝ってもらおうと振り返ると……輪花に何か硬いもので頭を殴られて意識が飛んだ。意識が無くなる前、輪花が「逃げよう。咲人様には悪いが」と言って無理やり秋冬くんを連れて部屋を出ていく所だった。
意識が戻ると頭がすごく痛いことが分かった。そりゃそうだろうと思いつつ殴られたところを手で触ると血が……出ていなかったから良かった。これで怪我したら二人の今後が危なかった。さて……どうしたものかな。これまでは見逃してあげたが流石に限度を超えてしまったから罰を与えないといけなくなってしまったんだけど。穏便に済ませるとしたら二人が逃げたってことを他の奴らに知られないようにしないといけないんだよな。
「お兄様、お目覚めになられましたか?」
「・・・流石に起きたよ」
「もちろん罰はお与えするのですよね?」
「罰? オレ命令通りに動いてくれているんだ。必要ない」
「そんなのですね。では月美に生け取りにするようにお伝えしなくては」
一番最悪の奴がいやがった。夜夢じゃなくて竜樹ならまだ見逃してからはするがコイツは絶対に許すことはしない。しかも僕が輪花に襲われているってことを知っているから罰を与えるかどうかを聞いてきたんだな。出来れば軽い罰だけで済ませたかったのに情報を掴んでいるヤツが二人もいるならしっかりと与えないといけないじゃないか。昔なら切腹を罰として与えていたそうだがさせるわけにはいかない。
それなら夜夢と取引きした方が絶対にいい。簡単なものでは応じてくれないだろうからしっかりと何か考えないといけない。輪花め……余計なことしやがって後でアイツには個別でお仕置きだ。輪花と秋冬くんに対して先輩Aの情報を探ってくることを頼むのが出来なくなってしまったんだよ。何もアイツがしなければ問題なく出来たのに……めんどくさい。交渉も考えないといけないってのも相手の裏も考えないといけないのがひたすらに面倒だ。
「夜夢と月美さんに貸し2ってことでどう?」
「へぇ〜お兄様がそこまでするとは意外でした」
「僕に出来ることならなんでもいいぞ」
「・・・はぁ、分かりました。今回だけですよ」
「すまん。恩にきる」
頭を下げて言うと夜夢は「大袈裟ですよ」と微笑みながら言ってくれた。夜夢と月美さんに貸しを作ることにはなってしまったが仕方ない。強制的に協力者に出来る二人を手放すくらいなら全然問題ないと思いたい。秋冬くんには悪いけど戦力外だし、輪花は少し問題児だからいないよりマシってだけなんだがな。夜夢や竜樹よりは信用できるからそれだけでいいか。
だが疑問がある。輪花は確かに問題児ではあるが理由もなく僕を襲うってことはありえないはずだ。一体なぜそんなことをしたのかが一切見当もつかないし、そもそも連絡を入れてきたのは輪花の方だった。その後に秋冬くんを助けるようにお願いしたのもアイツだ。それなのに僕を油断させて襲ってなんてきた? 一番考えられるのは誰かに脅されているってことだけどもそんな感じはしなかった。
誰かに操られているってことは……ないとは思う。いつも通りな感じではあったが、催眠術に掛かっていたらどうなるのかは分からないから比較しようも出来ないな。夜夢に分かるか聞こうかと思ったが、知っていたら怖いのでやめた。自分に掛けられている可能性があると考えたら怖すぎるからやめておこう。抗う方法もあるだろうけど、知らんからどうしようもない。
「お兄様、今回やろうとしていることに私と月美を仲間に入れてください」
「それはダメだ」
「二人分の貸し1ですよ?」
「チッ、拒否権はないってわけか」
「そうです。だからお願いします」
先ほど出した貸しを使われたら僕は受け入れるしかないじゃないか。月美さんは護衛も兼ねているので強制的に仲間に入れることになるけど、貸しを勝手に使われてしまうとは可哀想だな。今度水ようかんでも買ってきてあげるとするか。色々と苦労しているだろうし夜夢の護衛が少ないから輪花でも押しつけてやろうかな? 二人は相性は悪くないけど……性格面は最悪すぎる。
「捕まえたみたいですね」
「意外に早かったな」
「一緒にいた男の子に止められていたみたいですよ」
秋冬くんが輪花のことを説得してくれていたんだろうから良かった。おかしいと思って止めたのかは分からないが、よくぞ止めるという判断してくれた。秋冬くんが止められていたということは操られていたのではなくて誰かに唆されたって感じなのかもしれないな。僕との仲を割く為が目的なのは分かるが……一体なぜそんなことをする必要があるんだよ。




