表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/70

67話 秋冬と輪花1

◇◇◇

[井上秋冬視点]


 輪花さんの実家にお世話になった翌日、守友家当主様に呼び出された僕は一人で当主様がいる部屋まで案内された。輪花さんも付いて来ようとしてくれたがミカンさんと呼ばれる方に止められてしまった。ご高齢だと聞いていたけど、一切そう見えないので実年齢を聞いた際はびっくりした。


「入って来ぬのか?」

「っ! し、失礼致します」

「うむ。そこに座りたまえ」


 部屋の前でいたら当主様に言われてしまった。ノックしてから入るべきだったけど緊張のあまりするのを忘れてしまった。それはもう仕方ないのかもしれないけど、部屋に入るなり座るように言われたので座ったのはいいけど、真正面に当主様がいるから……緊張で吐きそう。ここで吐くわけにはいかないのでしっかりと我慢はするけど。


 輪花さんから聞いた話では当主様は孫にすごく甘くて「私にも優しくしてくれるから大丈夫」と言っていたけども僕の目の前にいる人は威圧感が出ていて優しそうな雰囲気ではないのは確かです。当主様の時の顔とお爺ちゃんの時の顔を使い分けているってことは分かるけど……怖すぎてチビりそうです。


「お主は咲人をどう思っておる?」

「すごい人だと思っています」

「怖くはないのか?」

「時々怖くなりますがそこまでです」

「それなら良いのじゃ」


 一瞬だけ孫を心配するお爺さんみたいな顔になったけどすぐに当主様の顔に戻った。藤咲さんを心配する気持ちはわかるけど、あの人は自分一人でもいけるような気がしますし周りに人がいるんですから大丈夫です。当主様は「君がしたことは褒められたことではないのかわかるか?」と言葉一つ一つに圧があるように言った。僕は頷くことしか出来なかったのだが当主様は少し口角が上がった。


 微笑んでいるように見えるけど、息が出来ないって錯覚させるような圧が出ているように感じてしまう。輪花さんと結婚するってことはこれに耐えれないとダメなのかもしれないから僕は出来るだけ我慢する。もしこれで意識が失って輪花さんとの結婚がダメだと言われてしまったら僕はどうすればいいのかが分からなくなってしまうくらいには彼女がいないとダメになっている。


 当主様は「ワシの所では面倒を見るには弱すぎるのぅ」と言って鈴を鳴らして少ししたらミカンさんが部屋に入って来て「連れて行けばよろしいのですね」と当主様に聞いていた。当主様は何も言わずに頷くだけでそれを見たミカンさんは一瞬で僕の背後まで来て首根っこを掴み持ち上げられた。健康的な肉体を持っているんだろうけど、僕を持ち上げられる程って相当な力がないといけないはずじゃ。


「こんな若い子を鍛えられるとは嬉しいものですね」

「加減してやれよ。その小僧は一般人だったのじゃから」

「分かっています。ただワクワクはしてもよろしいでしょう?」

「好きにしろ、ただし殺すなよ」

「この子次第ですね」


 どんな方法で鍛えられるのかが怖いんですが……流石に死ぬようなことはないと思いたいんですが十分に可能性があるのが怖いんですよね。藤咲さんと輪花さんを見てたら分かるけど普通の鍛えられ方はしていないのは分かる。ミカンさんは「咲人坊ちゃまは天然ものですよ」と言われてしまい僕は青ざめた。あの速度で動ける人が天然物とかは嘘だと言ってほしい。だって漫画の世界の住人すぎるんだから。


「少しの間、お側を離れさせていただきます」

「うむ、よろしく頼んだぞ」

「その前にお茶くれません?」

「坊ちゃまの分を忘れてい___は?」

「え?」

「何故、おる?」


 いつの間にか部屋に入って来てくつろぎながらせんべいをぼりぼりと食べている藤咲さんを見て僕含め三人とも固まってしまった。僕が分からないのは分かるけど、当主様やミカンさんといった超人が一切気づいていないのはヤバイ。しかも最初から居ましたと言いそうな顔をしている。藤咲さんは松葉杖を使い立ち上がると「その子を返してくれないですか?」とミカンさんに言った。


 ミカンさんは僕をゆっくりと下ろしてくれてそのまま当主様の所に行った。藤咲さんは僕に大丈夫なのかと心配する。僕は大丈夫だと言うことを伝えると怒っているのか分からないけど「おいジジィ」と低い声で当主様に向かっていった。そんな口の利き方しては藤咲さんがヤバイんじゃないかと心配してけど、「相変わらずじゃな」と笑って流された。僕はヒヤヒヤとしたんですが。


「じゃがいい加減にしないとのぅ」

「しないとどうなるんだ? クソジジィ?」

「・・・そこの小僧と輪花さんを潰すとするかぁ」

「その前にオレがあんたを潰してやるよ」


 一時はなんとかなると思ったのに空気が険悪な感じになっていってしまっているんだけど、誰か止めれる人を呼んできてくれませんか?




◇◇◇

 秋冬くんがジジィに呼び出されたと聞いて帰り道を変更して来て正解だったな。みかんさんのスパルタ指導が始まる前に助け出すことができて良かった。僕の時はスパルタではなかったので分からないが他の皆はスパルタ過ぎてしんどいってよく言っていたから最悪の場合は臨死体験を経験することになる。そんなことを元々普通ではないけど、一般人だった秋冬くんには重たすぎる。


 輪花とも話し合わないといけないと思っていたことだが婿としてではなくて輪花の方を嫁がせることの方がいいのでは? 流石にこれから鍛えることは可能だろうけども僕は少し反対したいんだよな。婿になる場合はある程度は鍛えないといけないんだけど……だってあの家、肉食獣が多いらしいから秋冬くんが食われる可能性が大いにあるんだよ。お世辞にも輪花の序列は高くないから今回みたく拘束されることもある。


「うむ……それは困るのぉ」

「白々しい演技をするなよ。何が目的だ?」

「小僧は客人ではなく、仲間すなわち家族になるんじゃ」

「ですので私が鍛えると言う話になっておりました。お伝えせずに申し訳ございません」

「あ〜輪花が問題なのね」

「あやつはそこそこ強いからのぉ」


 絶対的な存在として守友家はあるが……家臣はそれぞれの族長がルールを決めているので反乱もなく長く続いているらしい。子守家は力で序列が決まるから一番族長の入れ替わりが激しかったりするみたいでジジィが一時期頭を抱えていた。まぁ今の族長になってからは落ち着いているとのことだから良かったが、弱肉強食はいまだにあるらしい。すぐに全てを変える訳にはいかないからなぁ。仕方ない。


 輪花は鍛えることには反対はしないだろうが問題は教育する人間で、本来であれば族長自ら鍛えるんだけどもなんせ独占欲が強すぎる一族だから監禁することがほとんどでろくに鍛えもしない。だから相手は逃げることを諦めて子守家に一生飼われ続けられるんだよ。まぁ今回は特殊なケースだからジジィとみかんさんが先手を打っているわけね。僕の護衛として秋冬くんを迎える訳だから戦闘力はいるわな。


「鍛えるのはいいけど、せめてじいさんじゃなくて他の奴に説明させろよ」

「あの……僕は説明なんて受けていません」

「おい、ジジィ。本当か?」

「当主様?」

「さ、最近は物忘れがひどくてのぉ」


 それを聞いた僕は即部屋を出ることを決めて秋冬くんを連れて部屋を後にした。とりあえずは輪花が拘束されている部屋まで行くことにした。みかんさんの説教に巻き込まれたくないから逃げるが勝ちなんだよ。まずは秋冬くんと輪花のこれからをしっかりと決めないと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ