65話 佐藤と……2
さてと……ある程度の構造は分かったが何故これを先輩Aが持っていたのかが気になるな。僕へ助けを求める時の言質としてとるのであればボイレコだけでも問題ないはずなのだが、これは目的は違う。ストーカーかと思ったがおそらくは違う。このボールペンは買った所で芯を交換するようなやつだ。ペン専用の道具がないとバラしたり出来ない仕様になっているからストーカーがこれを先輩Aに渡したとは考えにくい。
先輩Aにはストーカーが複数人いるって考えた方がいいな。複数人いる場合は僕一人で制圧できるとは思えないから佐藤と一緒に行動した方が良さそうだな。元々巻き込む気ではいたけど外野がうるさくなりそうではあるから竜樹に協力してもらった方が良さそうだな。なんて言えばアイツは協力してくれるだろうか? とりあえずはこのペンの機能は壊したから何も問題はないだろうが……これの持ち主が現れないのは当たり前か。
「自分から来てくれるバカなら助かったんだけどな」
「そうでしょうね」
「原さん、なんでいるの?」
「あら私が先にいたのよ」
それなら仕方ないか。僕らは原さんがいることに気が付かないで話していたから聞かれていても何も問題はない。巻き込む奴が一人増えただけだし僕としては好都合だからなぁ。「私は用事があるから戻るわ」と原さんは僕の顔を見るなり言ってきたが逃げるなんて失礼過ぎるからしっかりと捕まえた。原さんの演技でストーカーを騙すだけなんだから何も悪いことなんてしないさぁ。
「一応言っておくわね」
「ん?」
「敵同士なのよ? それは分かっているの?」
「分かってる。そっちこそ分かってるかを聞きたいけどね」
「ユウくんを味方にしても相手にならないことならこの前で分かったわよ」
「それなら僕に協力してくれたら弱点を教えてあげるよ」
僕は今回は人を頼ることに決めたんだからその為に出せるものは出す。まぁ弱点を聴きたいかは別だけどねぇ。原さんは少し悩んだ末に「協力してあげるわ」と言ってくれたから僕は小さくガッツポーズを取った。これで協力者が二人になったから相手を誘き寄せれるだろう。とりあえずはこれ確認しないとな。先輩Aにはストーカーがいて、佐藤はそのことを知っているからあの時一緒に帰っていた。その時のストーカーとは別にいる。
おそらくは親しい人がこのペンを先輩Aに贈った筈だから聞き出せれば一番いいんだろうけど……まだ付けられている可能性があるから下手に聞かない。
◇◇◇
[原 視点]
目の前にいる彼は人の皮を被った死神だと思ったのはあの事件で犯人を追い詰めていたところを観たからだ。私は彼が雪ちゃんを護る為に自分を盾になるところを見たはずなのに……あの時を彼を思い出すと身体の震えが止まらない。大人に助けられていた時に少しだけ意識が戻って周りを見渡してみると彼が誰かに向かっていた。
彼は瓦礫の上で高笑いしていた男へと自分に刺さっていた棒を投げて脚に命中させていた。雪ちゃんはユウくんのお父さんに運ばれていたけど意識はないように見えた。私は顔に火傷を負うってしまっていたけど、その時は熱くも痛くもなかった。助けてくれた大人が私へ何かを話しかけてくるが、何を言っているのかが聞こえなかった。そのくらい私は彼があんな地獄を産み出した男を追い詰めて行っているのに夢中だった。
幼かった私はあの時は無意識に興奮していたのだと思うけど、あの瞬間を観てしまったら一気に恐くなってしまった。追い詰めるまでなら良かったが……彼はトドメを刺した。いや、正しくは刺したつもりだったのだろう。刺そうとしている途中で意識を失ってそのまま瓦礫から落ちていったのを私は見た。九死に一生を得た男はフラつきながら立ち上がったのは良いが瓦礫が崩れてそれに巻き込まれていった。それを見届けた私は意識を手放した。
病院で目覚めた私は冷静になって考えてしまった。ぼろぼろの状態であそこまで一方的に傷を負わされるなんて芸当が普通の子供に出来るわけがないと思った私は彼の姿を死神に置き換えてしまったのが原因だとは分かっているけど、あの時の彼が恐い。だけどそれと同時にもう一度だけでいいからあの時の彼を観たいと私の中の何かが騒いでいる。私の輝かしい人生を終わらせた人にこんなことを思うのはおかしいけど、少しはこちらに向いて欲しい。
「死神は私には眼中にもないのね」
「・・・考えないようにしていたけどさ」
「何かしら?」
「あの時……いたよなぁ」
「一体なんの話?」
彼が私とのあの舞台を忘れているのはすごくムカつくけど、思い出すのは私じゃなくて雪ちゃんのことを思い出さないといけないでしょう? アンタにとっての光は雪ちゃんなのに……私にとっての光でもあった子を奪い取ったアンタに醜い嫉妬した。曇らせたユウくんには殺意だけどね。正直に言ってあの事件のことなんてただの表の言い訳にする為のものよ。
雪ちゃんを取られたから嫉妬した。雪ちゃんから褒められた演技力を簡単にねじ伏せたアンタへの嫉妬。雪ちゃんがイジメに遭っていたのを知らなくて助けられなかったのに、助けたアンタへの嫉妬。身を挺して雪ちゃんを護ったアンタへの嫉妬。死にかけている筈なのにあの男を追い詰めていたアンタへ夢中になっていた筈なのに怖くなった私への呆れ。それでももう一度だけ観たいと思う私への呆れ。記憶を勝手に無くしたアンタへの怒り。
他にもたくさんあるけど今はこんなものでしょう。これをもしアナタが聞いたらなんて思うのかしらね? 楽しいことになるのは間違いないかもしれないけど、今はまだ隠し通しておかないといけないわね。藤咲との勝負の時に私の想いを全てぶつけてやるわ。だから今はアンタの弱点を知る為に協力してあげるからね。
「原さん、ほい」
「紙? あぁ連絡先ね」
「違うけど」
「違うの?」
「僕の弱点ね」
今、渡すなんてアンタはバカにでもなったのかしら。これを渡してしまったら私がアンタに協力する必要なんて何も無くなるじゃない。私が驚いていると彼は「お前の作戦に佐藤がいるんだろ?」と言ってきた。「ここまで言えばわかるよな?」とでも言いたそうな顔をしながら私の横を通り過ぎて屋上から出て行った。ユウくんを味方に付けたいなら協力した方がいいってことね。
「ホント嫌いだわ」
私の光に引き寄せられる虫__いいえ死神ってところね




