64話 佐藤と……1
「私を助けてくれないかい?」
と先輩Aに言われたが丁重にお断りした。面倒なことは出来るだけしたくないので自分で解決するか他を当たって欲しいと伝えた。僕は両親や雪菜さんとその家族を守るので精一杯だから他を頼ってほしいんだよ。それに宇恵野から聞いた話によると人気があるらしいから他の人から助けてもらえるだろう。知らないけどなぁ。
「そっかぁ〜仕方ないよねぇ」
「一番は警察に頼__」
「あれぇ? よけられたのぉ」
今のを避けれるとは僕も思わなかったよ。僕が警察に頼ることを勧めようと思ったら目の前にナイフが見えたから慌てて避けたけど……顔をずらしただけなので距離は近いまま。何故こんなことをするのかを聞く気にもなれないぐらいに緊張している。いやぁ普通に警戒心を解いていた僕が悪いな。この人は異常と言えるほどに人気がある。
見た目がいいし天才肌らしいからってものあるんだろうが……ミステリアスな感じが惹かれるとのこと。僕は一切近寄りたくはないけど、警戒心を解くのが上手いことは褒めよう。「次の作戦に移らないと」と西さんじゃないか。先輩Aが僕から距離を取り自分の腹部にナイフを刺し始めた。自傷行為をなんの躊躇いなくやるとは一切思っていなかったからびっくりした。
「ふ、藤咲、くん」
「なるほど」
「君が刺して、おいて何がなるほどなんだい?」
「それ血糊か輸血パックだろ」
「ひ、酷いじゃないか!」
演技力は相当なものだけど痛みを我慢している人のそれではないから分かって良かったよ。演技力であれば原さんの方が圧倒的にあったし堂々としていたけど、残念ながら先輩Aは自信がなかったようだ。まぁ彼女のは長年演じていたことが関係しているのかもしれないけど、先輩Aは下手くそだ。大根役者とまではいかないにしても下手ではある。
宇恵野に情報提供してもらったのは感謝しかないけどこれで天才肌とか、欠伸が出るから修正するように言っておこうかな? そんなことは後でもいいか。今はこの人をどうやって無力化しておいてやろうかなぁ。手足の潰して逃げれないようにするのはなしだろ。簡単ですぐに情報を吐いてくれるやり方らしいけど違う方法を考えるか。今度みかんさんに何かいい方法がないか聞いてみておくか。楽を出来るだけしておきたいし。
「・・・なら本当に刺してやる」
「させる訳ないでしょう?」
「なっ!」
「距離を取ったからって松葉杖が届く範囲に居てはダメでしょう」
ナイフを上手く飛ばせたのは良いけどこれじゃあ簡単に無力化することが出来なくなってしまったな。松葉杖に一切警戒していなかったみたいなのにさぁ。次がどう出てくるかは分からないけど、助けを呼んでおいた方がいいかもしんない。おそらくだけどそんなことをしなくてもここに来ることが出来る奴が一人だけいるんだよなぁ。そろそろかな?
僕が座りながら先輩Aの次の行動とある奴が来るのを大人しく待っていると、先輩Aはドアへ走り始めたがドアは勢いよく開き先輩Aの顔面に直撃した。凄い音が鳴ってぶっ倒れた先輩Aを見た佐藤は「ちょっ!」と言いながらアワアワとしていた。その姿をみてアホを相変わらずやっているなと思うが今回は仕方ないか。僕を探しに来たら先輩の顔を傷つけたんだし。
「よくここが分かったな?」
「サキ、この腹の出血は」
「偽物だと思うぞ。触ってみ?」
「本当だな。この鼻血も……」
それは残念ながら本物だから置いておけ。とりあえずは佐藤に止血の方法を教えてそこで目を覚ますまで見張りを頼んだ。佐藤がこの旧校舎の屋上に来たのは僕を他の連中が探しているからだろう。机の中に手紙で『旧校舎の屋上にいます』って書いて入れておいたが見つけていなかったのか。アイツら……騒ぐだけ騒いでいるんだろうなぁ。
気絶している奴を放置して僕は持ってきていたお弁当を食べる。佐藤は何故か引いていたけど、お腹すいているから食べるに決まっているだろうよ。母さんが作ってくれたお弁当だぞ! 残すなんてことがあっていいわけがないだろう。父さんが作ったものでも残す気は一切ないからな!! ということで僕はゆっくりとお弁当を食べる。味変でもしたのかな? 変わっているような気がする。美味しいし、別にいっか。
「よくこの状況で食えるな」
「死んでないだろ」
「はぁ……あ〜今まで悪かった」
「佐藤それは何に対してだ?」
「色々だ。俺はサキに助けられていたことを忘れていた。本当にすまなかった」
頭を下げられても困るだけなのだが、どうしたらいいものか? 別に許すことが僕には見つからないからこの場合は僕ではなくて他の奴らに言うべきだろう。一番被害を受けたのは……赤城だな。彼女はお前への恋心をしまい込んで僕の味方してくれたんだ。ただ謝ってくるのはもう少し後だと思っていたのでびっくりだ。一週間と続かなかったのは驚き。
「ただサキ……俺はお前のことを許せそうにはない」
「そうか。それで良いだろ」
「本気でぶつかってくれて怪我までしたのに」
いや、本気ではぶつかってなかったしこれに関しては僕の不注意でおきたことだからね? 何か勘違いしていると思うけど、僕は全力ではしたけど本気の範囲では無かったからな。試してやってみたら思いの外、世界が回って見えたから途中でやめただけたんだけど。まぁあの試合に関しては引き分けになったし気にすることなんて僕には微塵もない。
ただ僕やジジィのせいであの二人に迷惑をかけてしまったのは本当に申し訳ないと思う。だからこっちに転校させることをジジィにお願いしたんだ。一応僕の護衛として二人に来てもらうから色々と教えないといけないのが少し面倒ではあるんだよなぁ。その辺は夜夢か月美さんにでも任せれば良いか。僕は知らないよっと。
「謝罪なり反省なりするのは良いがそれどうする?」
「保健室だな」
「ペン貸してもらって良いか?」
「俺は持ってないぞ」
「先輩のでいいや」
「・・・ちゃんと説明しろよ」
「サンキュー」
懲りずに仕込んでいやがるとはしかも二つの機能が付いているのか。盗聴とカメラが内蔵されているのは初めてみたわ。このストーカーは頭がいいのか、金持ちのどっちかなんだろう。両方とも面倒なことには関わりはないけどなあ。放置していたらこっちに被害が出るなこれは。仕方ないけど、佐藤を巻き込んでするから。




