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59話 夜夢の過去1

 僕はあのままみかんさんに担がれて病院まで直行でした。担当医には「本当に足を切ることになりますよ」と近くで言われてしまった。あの事故からずっと担当してくれている方なので頭が全く上がりませんから素直に聞くしかないから従うけど普通なら無視する。


「君は会う度に傷を増やしますね」

「勲章って言うじゃないですか」

「・・・切りますよ?」

「すいませんでした」


 心配してくれているのに少しだけふざけてしまって申し訳ないとは思うけどもまだ増えていくと思うし、普通に入院もすると思いますのでよろしくお願いしますと心の中だけで言った。医師は「はぁ」とため息を吐いて軟膏の量を増やすことや運動は移動以外は絶対にしないことを言った。もちろん僕は素直にそれを聞くから問題はない。


 付き添いは今回はみかんさんで色々と手続きをしてくれた。ありがたいけどどうしてそんなに雰囲気は怒っているのかを聞きたいんですが……僕は何もしていないと思いますので出しているのを引っ込めてくれるとありがたいんですよね。別に治るから別にそこまで怒らないでいいとは思うけど、それでもダメみたいだからなぁ。


◇◇◇

[井上秋冬視点]


 藤咲さんが病院へ連れて行かれた後、僕と輪花さんは子守家に連れて来られ族長と呼ばれている仮面を付けた女性とテーブルを挟んで座っている。一瞬だけではあるが素顔を見てしまったので殺されるかと思いながら来たけどそんなことはないらしい。今回、連れて来られたかというと今後のことやルールを説明させられる。


「秋冬殿は輪花くんと結婚するであっていますよね?」

「はい、させていただきます」

「それなら知っておかないといけないことがあります」

「結婚するまでいいのか?」

「一部だけになりますので安心してください。ただ輪花くんも知っておかなければいけないことです」


 族長は初めてあった時とは口調が違うようだけど、それは族長ではなく個人での会話だったからなのかな。それよりも気になるのは輪花さんも知らないことを話すだなんていいのかな? まぁ輪花さんと結婚する予定ではあるから問題ないのか。どうゆう基準でそれを決めているのかは僕には分からないから今は様子見にしないと。


「二人には咲人様のいる学校に転校という形で行ってもらいます」

「咲人様の護衛か」

「えぇあの方は今は怪我しておりますので二人で守ってください」


 輪花さんが護衛に回るのは分かるけど僕は一般人なのに守れるわけがない。そう思っている僕に族長は「大丈夫ですよ。訓練してもらいますから」と圧がかかるような笑みを浮かべながら言った。藤咲さんはそもそも護衛は邪魔になるからしないほうが良いんじゃないのかな。藤咲さんのことは僕よりも二人の方が分かっている筈だし、輪花さんも自分で言っていたのにどうして?


 悩んでいる僕の心を読んだのか輪花さんは「咲人様は護衛は邪魔になるが……無茶されるよりはいい」と下唇を噛み締めながら言っていた。確かに怪我している筈なのに輪花さんを押させ込んだり、族長がいる天井を蹴り壊したりしているから護衛はいるって言われても納得しかない。藤咲さんは自分のことを大切にしていないような感じがするけど気のせいなのかな? 普通ならあんな無茶はしないだろうけど。


「さて、咲人様の秘密を話しましょう。これは輪花くんは知っていることですね」

「知ってる。けど本当かは疑ってる」

「輪花さんヤバイ話ですか?」

「まぁ一般的に考えたら」

「では話しますね」


 族長は藤咲さんの秘密とされることを静かに話し始めた。まずは触覚からで鉄は本来は硬い物である筈なのに彼の場合はやわらない物に感じ、空気の流れを感じ取り、肌が敏感で触れでもしたら弾かれる。別に秘密の要素はあまりないと思ったけど五感全てにおいて狂っているのであればそれは秘密にしないと相当ヤバい。


 次は味覚で±三倍以上の味が感じ取れてしまう。一度食べた物は完全に再現出来るとのこと。嗅覚は犬以上はあると言われてるが実際には見た事がないとのことだった。聴覚はしっかりと調べる事が出来ないとのことだったので分かっていないらしい。これも予測ではあるけど、1km先の話し声すら聴こえると言われている。視覚は望遠鏡みたく星がはっきりと見てるらしいけど、その後は視界が揺れるらしいから無理してしている感じらしい。


「簡単に説明しましたがどうでしょうか?」

「・・・ファンタジー世界の人間だと思います」

「それはその通りですね。ただ現在は一般人レベルまでに抑えているそうです」

「そこが一番の秘密じゃないですか」


 族長は「あまり話したく無いのですが咲人様と夜夢様の関係についてお話ししましょう」と静かに言った。気温がマイナスまで下がったのかもしれないと思わせるほどに寒くなった。輪花さんを見ると寒そうにしてはいるけど真っ直ぐに族長の方を見ている。だから僕も見習ってまっすぐに族長を見る。


「これに関しては二人にはちゃんと話さないといけませんね」

「さっさと話せ、寒いから」

「竜二の逮捕の真相にもなりますのでしっかりとお聞きください」


 竜二って名前は聞いた事があるけど何をした人なのかまで知らない。



〜回想〈族長視点〉〜


 大怪我を負った咲人様がやって来て私が世話係になって早2週間になりますが特に問題はおきていません。あの花蓮様のご子息なのですから家の者も喜んで世話をしたがります。ですが……竜二様はよく思われていないみたいです。それもその筈、竜二様は花蓮様を溺愛されていましたから。花蓮様を攫った将狼(まさろう)殿を許さないと思っている方は数名いますので仕方ありません。


 竜二様には凛奈(りんな)様という奥様がおり、ご子息の竜樹様とご息女の夜夢様がいらっしゃるのにいつまでも花蓮様の影を追っておられる。一昔前までは腹違いの兄妹、姉弟なら結婚が出来ていたことをどこかで知ったのでしょう。腹も同じで種も同じですのでどっちにしろ結婚は出来ませんでしたが恐ろしい執着を当主様以外には見せております。それでも昔に比べれば落ち着いてはいますが。


「咲人、傷は痛むか?」

「・・・ちゃんと喋れ」

「ほぉ心配してやっている俺に対してその態度とはなぁ」

「何言っているかは知らないけど、良い大人ではないだろ」

「んっふふ」


 咲人様の言葉の切れ味が良いから思わず笑ってしまいました。竜二様は図星だったのでしょう。何も言えずに咲人様から離れて行かれました。その後ろ姿を何やら探るように咲人様は観ておりました。この時に質問をしておけば結果は変わったかもしれませんが後悔しても遅過ぎました。そのあとは何事もなく1日が終了いたしました。


 翌日の朝、咲人様は珍しく当主様と竜二様のご予定を聞かれましたので私は「当主様はすでにお出掛けされております」と答え、竜二様のご予定を答えようとした瞬間に咲人様は物凄い速度で部屋を出られました。左腕と腹部に大きな傷があり、両足には小さな傷が数ヶ所がある筈ですのに私が驚くほどの速度を出していました。びっくりです。


「咲人様、急にどうされたのですか?」

「ここは?」

「教育部屋という名のお仕置き部屋になります」

「開く?」

「もう使われておりませんので開きません」


 教育部屋は当主様が使う事がないとおっしゃって閉鎖して相当な時間が経ちます。定期的に掃除はされておりますが使われているなんていうことはありえませんが咲人様はどうにかして開けようとしておりました。中は防音室になっておりますのでカップルが密会に使えると、どなたかが言っておりましたが見た事がありません。使われているはずのない場所なのです


 子供には何かを感じる力があるとよく言われておりますのでそれかもしれません。まぁ諦めてくれるでしょうと思い私は咲人様を見守っておりましたが、庭に出られたので興味が変わったのだと思い後をついて行きましたが庭師が持っているクワらしき物を受け取り教育部屋にこれまた凄いスピードで向かいました。咲人様の踏み込みで発生した砂埃のせいで出遅れてしまいました。


「咲人様!!」

「・・・」

「補強していた筈だぞ? それに何故分かった」

「竜二様……これは……一体、」


 私はドアを破壊した咲人様に追いつき部屋の中に入ると視界に広がっていた光景を見て動揺してしまいました。私は竜二様が、ご息女の夜夢様の頭を踏みつけているところを見てしまったのです。夜夢様はずっと「ごめんなさいごめんなさい」と泣きながら謝っているのにも関わらずそれが聴こえてないように竜二様は頭を踏みつけてながら私の方を見ておられました。


 私はどうにかして夜夢様を救い出さなければと思っておりますが竜二様はこの時の私よりもお強く相手になんてならないので、捨て身で行こうかと考えていたのですが……咲人様が竜二様に向けてクワを思いっきり投げました。警戒していなかった所からの投擲に竜二様は驚かれていましたが、冷静に避けていました。夜夢様から足が少し浮いたので助けれると思い走り出そうと、踏み込みますが阻止されました。


「咲人様、何故お止めになられるのですか!!」

「・・・」

「めざといな。ナイフを投げようとしたのを気付いたか」


 竜二様は懐からナイフを取り出して私の近くへ投げてきました。咲人様に止められていなければ確実に殺されていたことに冷や汗をかきながら夜夢様の方を見ると手をこちらに伸ばして「助け_」と途中で再度竜二に頭を踏まれたので言えませんでした。私は命に変えても助けようと踏み込みました。急所さえ避ければ問題ないと思い突っ込みました。


 ナイフが飛んで来ましたが急所を避ければ良いと思い左腕を盾にしましたが痛みは来ません。アドレナリンが出ていると思い竜二の足を退けて夜夢様を助け出しました。竜二の方を見ると太ももにナイフが刺さっており、視線はこちらではなく咲人様の方を見ておりました。咲人様は竜二など眼中にないように夜夢様を見ておりました。その時、何を思っていたのかは分かりません。


「藤咲、咲人!!」

「咲人様ぁお逃げください!!」

「・・・」


 激昂した竜二が咲人様に襲いかかろうとしており私は夜夢様を抱えておりますので逃げるように言うしかありませんでした。ですが咲人様は逃げ出さずに竜二に刺さっているナイフを抜きそれを腹部に刺し直して華麗に避けました。竜二は止血のため太ももを押さえないといけなくなりました。


「ふざけるなぁ!! そんな目で見るな!!」

「・・・」

「俺は天才だぞ!! あんな凡人で取り柄もない奴の息子が……こんな……」


 竜二は癇癪を起こし見境に暴れ始めました。咲人様は私達の所までやって来て飛んでくる物を弾いたり受け止めたりして守ってくれました。

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