57話 大浴場?1
今日は守友家に泊まるように言われて母さんを見送り終わった後、ジジィに呼ばれた。おそらくは輪花の処分についてを話すんだろう。それを無視して部屋でくつろいでいるとジジィがドアを蹴破って入ってきたのでびっくりした。猫が驚いた時のように飛んでしまった為、痛みが引いていた左足に激痛が走ってしまった。このジジィ、どうしてくれようか。
「咲人、ワシが呼んだら来んか」
「嫌に決まってんだろジジィが」
「・・・相当な無茶をしたようじゃな」
「ジジィ、全部話す気になったか?」
僕が思い出せないところを含めてこのじいさんは色々と知っているはずなのにそれを頑なに話そうとしないから面倒なんだよ。だから何かを言われる前にこれを言えば黙るのさ。これに関してはジジィの話から逃れられる方法の1つだ。いつもならここで逃げ出すんけども怪我していてここから動くことは出来ないから結局は聞かないといけなくなる。
ジジィは「それはできんが、あの少年のことで話があるんじゃ」と言ってきた。秋冬くんのことであれば別に僕に話を通す必要はないだろう。僕よりも輪花と話し合った方がいいとは思うけど、わざわざジジィが僕の部屋まで来たということはちゃんと話さないといけない内容なんだろうなぁ。責任を取るって決めているわけだから聞くか。
「本人達に話せない内容なのか?」
「退学にしたのはワシの判断じゃからのぅ」
「まだ庇護下においてるのか?」
「あの子から父を奪ったことになってしまったからのぅ」
佐藤裕太の父は守友家が殺したと言っても過言ではないからジジィは母と子を自分の庇護下においている。もちろん色々と制限があるけどもそれでも相当な力になるから秋冬くんは退学が即決められるわけだわ。以前に警告したことがあることなのだがそれを無視してそのままにしていやがったとは予想していなかった僕の責任でもあるな。
相手側の校長以上の権力者に連絡が行くのは早すぎるとは思っていたけど、僕らが知らない奴を教師か生徒として紛れ込ませているな。確かに普通に危ない奴を監視しないといけないからというのもあるだろうがせめて僕には知らせておくとかはしてくれないと困るんだが。輪花と秋冬くんにどうやって伝えるべきか悩むな。停学でもいいとは思うがジジィの権力や影響力を考えると妥当な判断だとしか言えないわ。
「それで? 秋冬くんをどうしようとお考えで、当主様?」
「・・・二人とも転校させる」
「まさかと思うが。同じ所じゃねぇよな?」
「あそこの方が監視しやすいからのぅ」
マジか……面倒ごとがまだ解決していない状態であの面倒な輪花を転校させるとか嫌すぎるわ。まぁ監視するのは僕ではなくて他の奴がメインになるだろうから別にいいんだけどね。そもそも人間をやめているような家系が5個もあるわけだし、モブでいる僕が監視をする必要が全くないから助かる。ただ輪花は監視の目を欺ける奴だからまぁ凄腕じゃないといけない。
一応ジジィに監視役がどれくらいの腕なのかを聞くと「そんなにないぞ」と返ってきた。いやそれで輪花の監視役が務まるわけがないから秋冬くんの方を監視していたのか。と思っていたがジジィがスマホを無言で見せてきて驚愕した。普通にカメラに気が付いているのに秋冬くんとのイチャつきを優先していてしかも監視役にデータをこっちにも寄越すように脅しもしているなんて。
「どうじゃ? 監視する代わりに動画や画像は全てあの娘にも送っておる」
「もう好きにしてくれ」
「あの少年を子守家に住まわせようと思うのじゃが」
「それはやめとけ。輪花と同居でいいからマンションを用意してあげてくれ」
本当にやめてあげてほしい。あの家には色々な道具があるから秋冬くんが危ないんだよ。それぞれの部屋には惚れた人の写真がずらっと貼ってあるし……まぁ色々とあるので常人は発狂する可能性があるからそれだけはやめてあげてくれ。まぁ輪花と住んでいてそれを見ている可能性はあるけど、なかった時の衝撃はヤバいだろうからな。
ジジィは「手配しておこう。それとは別なのだが」とまだ何か続くのかと思ったんだが、風呂に誘われただけだった。確かにその家の風呂は大浴場になっており、10人以上入れる。その大浴場は二つあるのでこれまたびっくりする。入ってもいいのだが……ジジィと二人では入りたくないので秋冬くんと竜樹も一緒に巻き込むことにした。秋冬くんと竜樹は会ったことがないから今のうちに会わせておかないとな。
僕、竜樹、秋冬くんの三人で大浴場に来た。誘ってきたジジィは「すまん、来未ちゃんに誘われたからパスじゃ」と言ってきた。流石にイラッとしたので今度ジジィのへそくりで輪花と秋冬くんへ何かプレゼントでも買ってやる。あのジジィには少し痛い目にあってもらわないと僕の気が収まらないんだよ!! あのくそジジィを殴らないだけ良かったと思う。
「広いですね」
「自慢な浴場だよ」
「これだけ広ければ自慢したくなりますよね」
「あぁ、ちなみにあそこから女湯の覗けるがやめておけよ」
「しませんよ!?」
二人がなんか仲良くなっているんだけど今まで会ったことがなかった筈なのにもう打ち解けているんだけど。まぁこれからのことを考えたらその方がいいんだから別に問題はないんだけどさ、輪花の奴が後でうるさそうだなぁ。もしうるさいのであれば秋冬くんと同室にしてやれば大人しくなるだろうからいっか。生贄にしてしまうみたいで申し訳ないが、そうさせてもらおう。
もう二人は髪や体を洗いに行っているので僕も行こうとしたが……何やら後ろから気配を感じたので振り返るとそこには、輪花が何食わぬ顔で立っていた。輪花は「咲人様、見てください。私の旦那の身体を」とよだれが垂れそうな表情していたので顔を掴み持ち上げる。僕は持ち上げながら「てめぇは頭に虫でも湧いてんのか?」と低い声で言った。
「咲人様と竜樹様の身体には微塵の興奮しない!!」
「節度を保たんかい」
僕は輪花を脱衣所に放り投げた。とりあえずは腰にタオルを巻き僕の脱衣所に戻り輪花とその着替えを持って女湯に放り込んだ。着替えも放り込む際に「私はお預けされているんだから別に一緒にお風呂ぐらい許可しろ」と言ってきたので……豪速球で輪花に向かって投げた。どうせ、食い物をお預けにされているだけだろうってのに秋冬くんと風呂に入ろうと考えるとは馬鹿なのか。
僕は男湯に戻り髪と体を洗い湯船に浸かると「藤咲さん」と真剣な表情で秋冬くんが見るから「どうした?」と返した。秋冬くんは「輪花さんと結婚させてください!!」と大声で言ってきた。僕は黒幕であろう竜樹に桶をぶつけた。外部の人はこんなことを僕に言わないでいいと思っている筈だし、ましてや秋冬くんがこんなに緊張しているということは竜樹が言ったに違いない。
「お前、いきなり何しやがる?」
「あれを教えたろ」
「教えたぞ。何が悪い?」
「悪いわ!! 反省しろ!!」
はぁ、潰した奴の名前をわざと出した後に結婚したいのであれば僕の許可がいるとか言ったんだろうな。アレに関しては輪花に手つきをしようとしたから潰しただけで……竜樹は真実を知らない筈だからおそらくは「気に入らない奴は全て潰した」とか言ってんだろうな。はぁ……家に帰りたい。現実逃避をしたい。モブいればこういうことに巻き込まれないで済むのに。はぁぁぁぁぁぁぁ。




