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52話 佐藤裕太との勝負?2

 僕は今メガネくんが所属しているチームに連れて来られて大人しくしているが、敵意などはなく尊敬みたいな視線が多いのは一体なぜ? 見たことがあるような奴らは一切ないはずなのに敵意とか警戒とかをしないのかな。僕が相手チームのスパイっていう可能性は全くないのかよ。メガネくんは周りを見てすごく満足そうにしている。メガネくんがヤバイことをしたと思うしかなくなっているんだよ。


「藤咲くんは3点を取られた場合に出す」

「先生、藤咲さんの凄さは見たと思いますが何故です?」

「お前は憧れの人にかっこいいところを見せたくないのか。なら__」

「やります。コテンパンにして来ます」

「少し待て、狂犬メガネ」

「どうしてですか。僕は藤咲さんの初代信者として」


 顧問から普通に狂犬だと思われているのかメガネくんは。この人がいれば僕が何もしなくて大丈夫なのかもしれないから何もしないで大人しくしておこう。初代信者って一体何なのかをあとでしっかりと問いただしてやるからな覚悟しておけよ。それはさておき顧問は何やら作戦があるようで一旦はそれに従うことに決まった。僕も聞きたかったんだけども「教えたら作戦の意味がなくなる」と言われたので仲間外れだ。


 僕って仲間外れになること多くない? モブってことを忘れそうになるくらいにはハブられて……もしかしてこれがモブの仕事なのか!! それなら仕方ないから仲間外れになってやる。今回の作戦を聞けないから僕は出る際には自由に動くことを許された。顧問は「俺らがお前に合わせる。全力でやれ」と言われたがまずはどのくらいなのかを調べないと意味がないので軽くチームで練習することにした。アップしないといけないのでちょうど良かったといわれた。


「ルールは簡単なものは分かるんだな?」

「はい、ポジションとかは全く」

「ルールをある程度知っているならいい。井上、アップを一緒にしろ」

「ご__アップですね、分かりました。」


 今の「ご」は何? 何かされるってことは一切ないんだよね。大丈夫って信じてもいいのかな? 顧問に目を向けるとそっと逸らされたので「おい、目をそらすな」とツッコミを入れたら「受け入れろ」と肩を叩かれてどっか行きやがった。あの顧問のおっさん、僕に問題児を押し付けて自分の負担を少しでも減らそうとして来やがったな。


 他の人は……全員して目をそらして僕とメガネくんには関わらないようにしようとしているじゃんか。何もしないのであれば別にいいんだよ? 何かしそうだから怖くてアップとかに集中出来ないから困るんだよ。頼むから誰かこの変人を引き取ってくれる場所はありませんかー、ありませんよね。仕方ないからちゃんとアップしよう。


「藤咲さん、まずは準備体操から始めましょう」

「しっかりしてる」

「当たり前じゃないですか。一番怪我の防止の為に必要なんですから」


 メガネくんのことを少しだけ見直して一緒に準備体操していると「僕の神と……一緒に……うへへ」と小声で言っているのが聞こえてくるのは幻聴だと思っておこう。準備体操が終わると「次は柔軟をしましょう」と言って柔軟をし始めた。本当に怪我しないように真剣にやっているんだな。


 柔軟も終わり次は「前準備はこれくらいにしましょう。まずはボールの蹴り方です」と言って蹴り方の説明が始まった。最初はインステップキックと呼ばれる蹴り方で足の甲を使うらしい。シュートやロングパスに使われるとのことで、やってみると案外力加減が難しい。


「この蹴り方は力強く蹴るものなのでそれで大丈夫です。コントロールは追々ですね」

「なるほど」

「コツとしては踏み込みの際に蹴る足を後ろに思いっきり行かせるといいかもしれません」

「へぇ〜難しいな」

「そうですね。次はインサイドキックですね」


 教え方が上手いのか分からないが分かりやすいとは個人的に思うのだが、僕が一切興味がないのがバレているんだろう。コメント返しが雑なような気がする。それでも教えてくれる訳だし今はしっかりと学ぼう。インサイドキックは足の内側で蹴るらしいがこれがまた簡単ではなくて難しいんだよな。フォームの作り方がぎこちなさ過ぎて中々パスを出した際にちゃんとメガネくんの所まで行ってくれないんだが。


 メガネくんは「そうですね。これくらいでいいでしょう」と言ったので僕は「えっ?」と声をもらしてしまった。それをしっかりと拾っていた彼は「藤咲さんにはこれ以上はいりませんから」と言って顧問の所まで走って行った。流石に他にも教えてほしいんだけどもそれを頼み込んでもメガネくんは喜んで教えてくれそうだが甘えるのはよくないな。


「この勝負は俺の勝ちだな」

「そうかい。注目される人の自信は相当高いようで」

「・・・この勝負、降りてくれないか?」

「理由を言えじゃないと考えてもやらん」

「そうか。叩き潰してやる」

「楽しみにしておくよ。まぁ無理だろうけどな」


 僕の返事を聞いてから満足して自分のチームまで行った。本気で潰しに来るんだったらそんなことを言わずに潰しに来ればいいものを何を躊躇しているのかは分からないな。迷いがあるような気がするからこっちに苦戦しそうだな。ここのチームがどこまで強いかによるだろうけど、僕が活躍出来ずに終わったらそれは楽でありがたいんだけどなぁ。


 どうしてものかと考えていると後ろから「お兄様」と呼ばれる声が聞こえて振り返るとそこには夜夢が居た。まぁ僕をお兄様なんて呼ぶのは夜夢くらいだしそりゃそうだろうな。とりあえずなんの用かを聞いたら「応援に来たつもりでしたが……この試合やめた方がよろしいかと思います」と言ってきた。応援しに来たのに何故、この試合を止めることを選んだのかを確認したいけど普通に面倒だからやめておこう。


「父様の息がかかっているかと」

「・・・本気で面倒なことをやってくれるな」

「父様が申し訳ございません」

「夜夢が謝ってくれたことだし今回は何も咎めないよ」

「ありがとうございます」


 夜夢は「応援しております」と言って離れて行ったのを確認したあとに小さくため息を吐いた。流石にここまでくると竜二のシナリオ通りに進んでいるようにしか感じないな。さっきのやりとりも結構面倒だから変えるように頑張ってほしいものだよ。僕以外が当主になるなら竜樹を押すことにしないと今みたいなやりとりを色んな所でしないといけなくなりそうだよ。


 余計なことを考えていて時間が経っていたのか試合開始のホイッスルが鳴った。佐藤を温存させずに最初から出しているってことは僕をここから引きずり出す為にやろうって感じだろうな。メガネくん達に佐藤を止められるかが心配だけども大丈夫だと思いたい。メガネくんの努力は佐藤に通用すると嬉しいが、その倍はアイツは努力しているだろうからどうなるかな。


「さてあの圧に臆することが無ければいいんだが」

「顧問さん、圧ですか?」

「佐藤裕太は試合中は相当な圧を相手に掛けているらしい」

「だから何人かは動きが悪いんですね」

「味方もビビっているな」


 確かに両チームで動きが悪い人が何人かいるけど普通になれたりとかはしないのだろうか? 威圧してくる奴なんているだろうしな。1年生が萎縮していて2,3年生は普通にプレーができているんだろうからそこまで大差はないか。相手チームにボールがあるからメガネくんは佐藤にずっと付いているんだな。やっぱり肝っ玉が据わっているだろう彼。


 メガネくんが佐藤から離れた? このままじゃボールが佐藤に回ってシュートを決められるのに何故。しかも迷わずゴールの方に__って佐藤が逆にメガネくんの方を追いかけ始めた。しかもパスされたボールを無視して、なんで? もしかしてメガネくんは佐藤に対して一切警戒しておらず意識を向けるための作戦なのか。


「ボールを見失ったろ?」

「・・・コートから出たのでは?」

「ゴール近く見てみ」


 顧問に言われて目を向けると味方チームがゴール近くまでボールを持って行っていた。驚きだわ。そこまで計算しているとするならば相当ヤバイ人だぞ。まぁ初得点はこっち側だし一安心。佐藤の身体能力でも流石に距離が空き過ぎだし無理だろう。顧問もゴールを確信しているような顔しているし、問題はないだろうな。守備も手薄の今がチャンス……あれぇ??? ホイッスルが鳴ったがボールは相手のゴールに入っていない。


「あれは反則だろ」

「しゅ、主人公補正としか言えない」


 メガネくんを追いかけていた佐藤は瞬間移動でも使ったんじゃないかと思えるほどの距離を一瞬で詰めてボールを取り返してロングシュートを決めやがった。両チームも観客もドン引きしているのに気が付いているのかは知らないが「お前が出てこい。サキ」と言って指をさしてきた。僕は仕方ないと思ったが、「いやだ」と答えた。

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