50話 佐藤裕太との勝負前
アラームで目を覚ます。今日は土曜日なのに何故アラームをかけていたかというと佐藤との勝負があるから。このまま無視してもいいとは思うけど、僕が勝負をしてやるって言ったのだからそれをしないといけない。こんな早くすることになるのは予想外ではあるがな。
今日は他校との練習試合があるはずなのにそれを使う新井先生はどういう思考回路しているのかを聞きたいわ。宇恵野から聞いた情報では今注目の選手がいる学校との試合だと。そんな時に僕と佐藤の勝負なんて持ちかける必要ってあるのかな? 新井先生の考えなんて分からないけど、普通ならしない筈なのに。
「行きたくない。雪菜さん達と出掛けたかった」
そんなことをぼやいても仕方ないので動きやすい服装に着替えてリビングへ行く。リビングにはすでに父さんと母さんが居り朝食の準備をしていた。僕は二人に「おはよう」と言って席に着いて項垂れた。二人は桜木家の皆さんと一緒に出掛けるのに僕一人で……あんな所に行かないと行けないだなんて。
「サキ、本当にいいのか?」
「仕方ないよ。楽しんで来てね」
「奏さんに言って別日にしてもらえないか聞こうか」
「母さん、迷惑だろうしいいよ。今度は絶対に行くし」
二人は僕が行けないを知り断ろうとしていたので慌てて止めた。「僕がいない時に行っていたんだからその時と同じだと思って楽しんで来てよ」と言ったら二人は落ち込んでしまったので元気になるように色々とやった。失言すぎたので反省はしないといけない。
確かにものすごく行きたいけど……今回ばかりは無視なんて出来ないので分かってほしい。次も誘ってくれるのであれば絶対に行くからとは言いたかったがどうなるかは分からないのでそれは言わなかった。原さんの言ったことが昨晩から気になっているからだ。
「父さん、母さん」
「「なに?」」
「今日は……本気を出すなら無理すると思うから……」
「友達の為なんでしょ? 全力で行きなさい」
「母さんの言うとおりだよ。全力じゃなきゃ父さんがその子を殴りに行ってあげるよ」
母さん、ありがとう。父さんはいい笑顔で物騒なことを言わないでくれるとありがたいんだけど……心置きなくできるように気を遣ったのかな? 赤城の想いにも応えないといけないから二人にはちゃんと本気でやるってことを言っておかないと後で心配させるのは緊急時以外ではやめておこう。
大怪我して帰って来たりしたらシャレにならないからな。だから原さんに言われたことは誰にも言わないでいるけども雪菜さんには話したほうが良かったのかもしれない。流石に僕に協力者がいないと相手の数に圧倒されて終わりそうな気がするんだよな。あの竜二のメイドさん級が大勢いると想定したら流石に守りきれないからそれの対策もしないと……
「サキ、そろそろ行かないと」
「本当だ。行ってきます」
「はい、お弁当」
「ありがとう母さん」
「気をつけていってらっしゃい」
「気をつけてな」
二人に「行ってきます」を言ってから家を出たら、海さんが外にいて少し驚いた。出かける準備をしていれば普通に考えたら当たり前だったはずなのにそんなことも分からないとは……動揺しすぎだろうがよ。用事があって行けなくて断っただけなんだから海さん達は僕に対して敵意とかは向けないはずだから大丈夫なはず。
「咲人くん、気を付けて行っておいで。また今度一緒に行こう」
「・・・そうですね。その時はお願いします」
「遠慮なんてしなくていいからね。これからは家族になるだろうし」
「それはどうゆ___」
「パパ!! 何を言っているの」
「雪菜……早起きできたのか」
海さんが意味深なことを言ったと思ったら雪菜さんが家から飛び出して来て言い合いしている。海さんを家に無理やり入れて玄関を強めに閉めた。しっかりと仲良くて笑いが出てしまったのを雪菜さんに聞かれてしまった。頬を膨らませてこっちへ来た雪菜さんは「サキくん、何を笑っているの?」と言ってきたのだが膨らんでいる頬が気になってしまって触った。
普段はこんなことを絶対にしないのだがどうしても触ってみたかったのだ。雪菜さんは驚いたのか目を大きく見開いているのを見て、いたずらしたくなった。膨らんでいる頬の空気を押し出してみたらフシュッ~と音を出して空気が抜けた。それを聞いた僕は大きな声で笑ってしまった。複数の視線があることに一切気が付かずに。
「サ~キ~く~ん?」
「ごめん、あまりに可愛かったから」
「・・・変だよ。どうしたの?」
「僕から提案しておいてむしがいいのは分かっているんだけど」
「投げ出したいってこと?」
僕は静かに頷いた。雪菜さんは「じゃあ投げ出す? 沙耶ちゃんには私も一緒に謝るから」と言ってくれた。雪菜さんに言われて気が付いたのだが赤城の想いを背負ってしまったことが原因だということに。誰かの想いだなんて1度も背負ったことなんてなかったからそれでやられてしまったのか。情けないとは思わないが赤城の想いを背負ったんだからしっかりと行けよ。
「ちゃんと行くよ」
「うん、じゃあ待っているね」
「応援してくれる?」
「そりゃね。サキくんなら勝ってこれるでしょ」
雪菜さんと話していてだいぶ落ち着いてきたというか……覚悟が決まったというかは分からないけど、やる気は断然出てきた。やる気は出てきたのはいいけども気が付きたくなかったのに気が付いてしまったんだけど、どうしようか。このまま続けるのは恥ずかしいけどここから逃げ出すことは違うと思うからどうしたものかな。
雪菜さんは周りの視線に気が付いていないみたいだからよかったけど、僕は今恥ずかしすぎて体温が上がっているかな。家族だけじゃなくてご近所さんにもやりとりを見られてしまっているんだな。普通に声が聞こえてきてしまったんだが!! 雪菜さんはそのまま僕との空間だけでいてくれ頼むから。僕は自分の顔が赤くなっていないのかを確認したいができずに雪菜さんから顔をそむける。
「サキくんど__私は家に戻るから」
「分かりました」
「早く行って帰ってきて」
「・・・行ってまいります。姫様?」
「」
少しだけイタズラしたくなってしまったので言ったが恥ずかしすぎたのでその場からダッシュで逃げた。帰ったら相当いじられるのを覚悟しないといけないんだよな。それが少し楽しみにしている僕がいるのは変だな。
学校に着いたのはいいけども信号待ち以外ではダッシュしていた為か息切れがひどい。正門で息を整えていると坂内が「咲っち、どったん?」と聞いてきたがそれどころではないので今は無視だ。あと「どうした」はこっちのセリフだわ。お前って部活に入っているかは知らないけど学校になんの用があっているのかを知りたいわ。
原さんなどが居るならまだしもお前がいるのはこっちとしては予想外だし、昨日とかは力になれそうにないからパスって言ってきたのを僕は一切許してないからな。神村先輩に色々と意見を聞きたかったのに図書委員会で忙しいだなんて嘘を言ってくれやがって。まぁ今回のことで味方してくれている数少ない友人だから別に何かを言ったりはしないでおこう。
「坂内はどうして学校に?」
「俺っちは……サッカー部をやめる為に来たんだよねぇ」
「お前……サッカー部だったのか」
「驚くのそこ!?」
いやだって知らなかったし、言われていても覚えていなかったから驚くのはそこだよ。部活をやめるかは自分次第な訳だし僕はそれを止めたりはしたくはないから好きにしろって感じだよ。とりあえず今日でやめるのは何故かを聞いたら「土曜日までは居ろ」と新井先生に言われたからみたいだけども絶対に僕と佐藤の勝負を見せたいために残したんだろ。
勝負がどんな風になるのかは一切分からないけど絶対に負けることなんてない。敵は多いだろうけどそれでも僕は佐藤を全力で叩き潰してついでに平穏を邪魔する連中も潰す。敵になりそうな奴を全て先に叩き潰してしまえば僕の敵は居なくなるのでは? いや、そんなことをしたらまた反省文だし納得するまでは書き直させられそうだな。
「・・・私の警告を無視してきたんだ」
「お前の警告とはなんだったかな」
「やっぱりアンタは嫌い」
「好かれるようなことをしていないからな」
原さんは今来たみたいで僕に話しかけてきた。嫌いならば話しかけたり警告なんてしないでいいのに根っこがいい子なのかもしれないな。それでも敵になっている以上は潰す準備はしておくけどね。雪菜さんと知り合いっぽいし再起不能にはしたくはないからその辺は考慮しないといけないのかな。まずは佐藤との勝負が先だけど。




