お先にどうぞ
誰もが目的地に向かって歩いている。
門をくぐればやがて終着点が見えてくるだろう。
人の波に押されながら身動きも取れずに流されるようにしてここまで来た。
前方には小さな門が待ち構えている。
人が一人通れるのがやっとという大きさのせいで門の手前は大渋滞だ。
我先にと門を通ろうとするものだからあちこちでいさかいが起きている。
隣を歩いていた人がこちらを見て舌打ちをする。
考える間もなく、とっさに言葉が出た。
「お先にどうぞ」
わたしは門の手前で道を譲ることにした。
後からやってくる人にどんどん道を譲っていく。
それでも人に押されて門の目の前までやってきてしまった。
けれど、わたしにはまだ人を押しのけてまで門を通る覚悟も資格もない。
「お先にどうぞ」
仕方がないので扉を開ける役を買って出ることにした。
人々は開いた扉を押さえている人間の存在などお構いなしに、門の向こうへとなだれ込むように消えていく。
そんな光景を眺めながらわたしはずっとここにいて、けれど決して中に入ることはしない。
ただ、ここへ来る人たちに穏やかな笑みを向けながら「お先にどうぞ」と扉を開け続けるのだ。




