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リース商会カスレ支店の小会議室で海藻を前に困っていた。


昆布はヨシとしよう。

魔術師さんに頼んで乾燥させて、ダシをとってみたら普通に使えそうだった。料理レシピを考えるのは私の仕事じゃない。勇者が鍋を希望しているので任せればいい。


天草ぽいのもちゃんと寒天ができた。料理の他にも、オブラートとか、滅菌装置ができるなら寒天培地で微生物の研究とかにも使えるだろう。私はその地道なものはやらないけど。


問題は海苔だ。

黒い紙とまで言われ、世界的にはなかなか受け入れられなかったアレを再現する意味があるんだろうか。

『おにぎりに手巻き寿司、海苔ラーメン、磯辺餅、品川巻、佃煮』

勇者の食べたい料理羅列がいつものように始まった。

「米と醤油ナシで食べられるのはそのうちどれだ?」

『えっ?』

勇者は腕を組んで考え込んだ。

『……磯辺餅?』

「もち米が必要だ!」

なぜか勇者専用の赤いカップ(カスレバージョン)が用意されていたので、投げつけた。

『あ!ラーメン!』

「…確かに醤油も米も必要ない。だが、麺の調達はどうする?」


どう考えても海苔はウケない。喜ぶのは勇者だけだ。そのために海苔を漉くのか…

要らん気がする。


『あ!ポテチ海苔塩!』


スゴい発見したみたいに笑顔になったけど、ウザいからガン無視。


『焦げ塩味のポテチから大進化!』


いや、焦げたのはお前のせいだし…

まだ油が貴重だし、竃で温度調節は面倒だから揚げ物は一般的ではない。


海苔の料理が思いつかない。考えなくても中食外食メインだったからそもそも料理スキルに乏しいのにムリだろう。


海苔は何より見た目がダメダメだ。黒い紙で食欲が湧くのは日本人くらいじゃないだろうか?


となると勇者専用?バカバカしい。

めったに出ない商品になる。費用対効果を考えたらこんなものに手を出す意味がわからん。


だが、勇者のこだわり方から言って簡単に諦める感じではない。勇者の諦めの悪さは身にしみている。現に今も海苔への憧れを一人で滔々と話し続けている。まず米探せや。



待てよ。そっか!

国王に出させる手があった。勇者をこの国に留める手段なら安いだろう。

私の一存では決められない。従姉兄たちに相談して交渉して貰お。古タヌキに恩を売るチャンスだ。こんな面倒に巻き込んだことを後悔させてやる。今まで勇者の願望で費用の面でムリだったことも付けてやろ。……………あれ?何だったっけ?

ムリと判断したら記憶から消去する癖が…。

まぁいい。次回から考慮するってことで。二度とこんな茶番旅行に付き合わされることのないように念入りに従姉兄たちと打ち合わせしよう。

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