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『マリちゃん、マリちゃん』
朝からうるさい。
『マリちゃんの得意料理は何だった?』
過去形ってことは前世か。
「中食」
『いや、それ料理じゃないし』
「じゃあ、外食」
『ますます遠ざかった気が』
うるさいな。
「仕事が終わって帰ると0時回るのが普通だったから作らなかった」
『それ社畜だよ』
「違う」
即座に否定する。
『休日は?』
「仕事か趣味頑張ってたから、中食か外食」
『社畜だって』
「お前は仕事頑張ってなかったんだな」
睨みつけると勇者は怯んだ。
『……仕事に慣れる前に喚ばれました』
5月病の最中だっけ?
「仕事の何たるかを知らんで言うな」
『すみませんでした』
勇者は素直に頭を下げた。
そうか。コイツは今でも学生気分で……学生って勉強ばっかしてんじゃないの?研究室に籠もりきりだったけどなぁ。むしろ研究室に住んでるとまで言われ、社会に出たら休みがあってお金貰えるんで幸せだと思ったほどだ。
『でもさ。マリちゃんって傍若無人でよく辞めさせられなかったね』
おい。誰が何だって。
「社員の首を切るのは難しいぞ。故意に損害を出すか、よほどの命令違反をするか…。つまりは、会社が不調ではない限り、退職願を出したり、辞めると口走りさえしなければ、中途で辞めさせられることはほとんどない。強要されても退職願を書かないのがコツ」
『マリちゃんの仕事っぷりがわかる発言だね』
「強要されてないし。………2年も無断欠勤したら間違いなく解雇だけどな」
反撃はしとこう。
『……………いや…………もう……戻れないから』
「戻っても職探しからだしな」
ふふっ。
『こ、ここだと結構お給料貰えるから、好きなもん食べ放題だぜ』
目一杯の強がりだな。
「おう。レンズ豆のスープにライ麦パンにレバーペースト、山羊のチーズ、それにリンゴな」
『それ、マリちゃんの好きなもんじゃん』
「これを好きになれば、幸せになれるぞ」
『やだっ!まだカレーライスの夢は捨ててない!』
でも最近、新たに調合しなくなったよね。
「思ったんだけど、なんか味の決め手になるスパイスが見つかってないんじゃん?」
勇者は目を見開いた。
『マリちゃん、ありがとう!気づかなかった!探してみるよ』
勇者は飛び出して行った。どこへ向かったんやら。二度と戻って来なくていいぞ!




