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勇者がわくわくしながら、こっちを見ている。
お前絶対勘違いしてるから、その言葉を飲み込んで黙々と作業を進める。
妹の誕生日が近いから、好物の準備中。焦がしちゃいけないから真剣に。
『マリちゃんさぁ。山菜とか好き?』
「嫌い」
いつも通りキッパリと。
『山菜の中では何が好き?』
だから嫌いって言ってるだろ。「どれもわりと嫌い」
『この辺の山だと何が採れるかなぁ』
ああ。勇者の頭にも春が来たか。
『マリちゃんは山菜採りしたことある?』
「土筆なら」
安全だからな。味は嫌いだけど。
『今度一緒に行かない?』
「行かない」
『なんでぇ』
「危険だから」
『襲わないよ』
ベシっ
「素人には山菜と毒草の区別が難しいからだ」
『ええっ!そんなに毒草あるの?』
あるぞ。
「山菜とキノコは中毒多いぞ。よほど慣れた人じゃないと危険だ」
『マリちゃんはいっぱい勉強したから大丈夫じゃない?』
そろそろ勇者専用カップを勇者専用帽子と名称変更しようかな。
「勉強した結果ムリと判断しました」
プロに任せるに限る。数枚の写真やイラストと簡単な文章で確実な判断ができるとは思えない。しかも異世界なんだから、同じとは限らないじゃないか。
『なんで、なんで…』
だから勘違いしてただろ。
『なんで甘いのぉ!』
「ジャムだから」
フキを煮てたわけじゃないよ。ルバーブだよ。
『きゃらぶきが食べたかったぁ』
それ、醤油必要だし。
「妹はルバーブのジャムが好きなんだ」
さらに言うならば、フキとルバーブは分類上では科どころか目さえ違う。つまりは親戚でもない。
調理前の見た目が似てるからと言って同一視してたヤツが山菜採りなんて危険過ぎるわ。
『甘いフキなんて嫌いだぁ』
勇者は泣きながら去って行った。
だから、フキじゃないって。
もう、どうでもいいから二度と来るな!




