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『マリちゃん、お豆腐』
玄関を開けるなり勇者が言った。
「はぁ?」
思いっきり冷ややかな疑問符を返した。
『ぽかぽかと暖かくなってきたから冷や奴食べたくなんない?』
「なんない」
きっぱり。
『僕は食べたい』
「食べたきゃ自分で作れ」
『材料知ってる?』
「多分、大豆とにがりと……水かな?」
『にがりってスパイス屋で売ってる?』
カッコーン!
3倍速いと言う勇者専用赤いカップは、今日も勇者の頭にヒットした。
「にがりの材料は海水だ」
『海水汲んでくればいいのかな』
「ここは王都だ。一番近い海まで馬で一週間かかるぞ」
『冷や奴な気分なんだよぉ』
わかった。頑張れ。
冷や奴には大きな問題あるけど、指摘しても無駄だからしない。冷や奴な気分を海で冷やして来い!で、そのまま二度と来るな!




