閑話:石橋を壊さないで
勇者視点です。
異世界に召喚されて2年とちょっと、勇者と呼ばれることにも慣れた。元の世界に帰れるかもって言われて頑張って魔王を倒した。何も変わらなかった。
ショックだった。打ちのめされた気分での凱旋パレードで彼女に出会った。
日本からの転生者であるマリアンヌ。日本人とはかけ離れた外見には正直ちょっとがっかりした。でも、日本の特に食事に関して話が通じるのは彼女1人だけである。2年の間に溜まりに溜まった思いを吐露するために僕は通い詰めた。
マリアンヌをマリちゃんと呼ぶことで異世界にいることを少しでも忘れられた。
マリちゃんはよく言われる日本人像であるイエスマンではない。できないことはできないとバッサリ切ってしまう。
まだ帰れる可能性を信じている僕と違い、転生者である彼女はこの世界で生きるしかない。日本食に恋い焦がれても、手に入らないものは諦めしかないのだろう。まして、彼女はチートを持たないただの庶民である。この世界の庶民は生まれた場所をめったに動くことがない。勇者として世界中を回ることがある僕と違って見ることができる食材も限られる。
マリちゃんは僕にだけちょっと乱暴な言葉使いをする。それだけ、気を許してくれてるんだと思うと同じ日本から来た仲間って感じで嬉しい。
マリちゃんは口ではちょっと意地悪するけど、カレーの開発とか協力してくれたり優しいんだ。社会に出るまで自宅で暮らしていた僕は料理なんてしたことがなかった。大好きなカレーも林間学校でみんなで分担して作っただけ。カレールーが何からできているかも知らなかった。
日本食にこだわるわりに何も知らない僕に呆れ果てて、見捨てられないように頑張らないといけないな。
「マリちゃんってさ、日本食を再現しようとしないよね」
「興味がないからな」
僕が食材を調達して来るからムリしなくてもいいのに。
「発酵とか難しいことには手を出さないし、石橋を叩いて渡らない感じって言うか…」
「渡れるか不安な橋ならいっそのこと破砕した方が後顧がなくなっていいんじゃない?」
石橋を破壊して渡らないだったのか…
「解体機とかでガーッと…いや石積みならショベルカーの方がイケるかな。いっそのことTNTとかでドカンと一発?」
マリちゃんの発言はいつもちょっとだけ過激かも。




