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 結局のところ…かわいい弟妹に敵うハズもなく…


 旅行の準備に入った。

 さすがに海を渡るとなれば時間かかるのはわかる。


 父の店は叔母のところから、手伝いが来てくれるそう…だ?

 ちょっと、待て。手筈が整い過ぎてないか。

 つまりは叔母もグルか。

 なんかうまい見返りがあったに違いない。

 売れるなら(わたし)まで売るか…まぁ、商売人だし、物理的に売られたわけでもなし……貸与、いや、派遣か……ってか、当人(わたし)の了承は取ろうよ。こういうとこ、法の甘さが出るな。自分でも条件が合えばやりそうだ。うん、勇者とか勝手に派遣契約とかしたら儲かりそうだ。とりあえず、頭の片隅にメモしとこう。

 使えるものは何でも使おう。


 なんだかふと思い出したが、前世で『倫理観に欠ける』とはよく言われたな。っていうか、倫理観ってイマイチよくわからないんだが。

 何が欠けていたんだろうか。合法で合理的ならいいじゃないか。

 結局のところ、専務(ツヴァイ)に任せっきりだったんだが。会社(うち)の倫理委員会のトップはツヴァイだった。倫理委員会が必要だったのは、主に共同研究でちょっとヤバめのものがあったせいで…。

 ツヴァイの言によると私も副社長も倫理観にちょっと問題があるらしい。簡単に言うと研究バカ? またはマッドサイエンティスト。

 そこまでおかしいとは思わないんだが、多少 他人と価値観の相違を感じることはあった。

 親が亡くなった時も事務的に処理しすぎたらしい。ってか、生まれたってことは死亡率100%のコースに乗ったってことで、覚悟をしてない方が変だと思う。前もってちゃんとどう弔われたいか話し合っていたし。もちろん、私が先に亡くなった場合のことも親に伝えておいた。結果的に不要だったが、泥縄式になるよりマシだ。

 ツヴァイは遺産を残さないことでそれを示したが、ちょっと迷惑でもあった。まぁ、それだけ信頼されているわけではあるが。伊達に長い間、一緒に過ごしてない。阿吽の呼吸で……察してもらっていた。面倒なんだよね、コミュニケーション。自分は日本的曖昧表現で相手の言質をとるが、言質をとられるのは好きじゃない。話さなきゃ勝ちだ。相手に話をさせて揚げ足を取る。そして、自分の持って行きたい方向に……


 あ、うん。ワガママか。他人にやられるのはイヤだが、自分はやる。

 うーん、その辺りが倫理観の問題なんだろうか。論理学は好きなんだけど、倫理学はどうも…


 情緒面の発達に問題があると言われたこともあるな。合理性を追求しすぎて、嫌われたことも一度や二度ではないかもしれない。いや、知らないけど。私の評価基準は有能か無能か、信頼できるか否かの二点につきる。それ以外はどうでもいい。

 『プライドの問題なんだ』と言われても意味わかんない。合理的でより良い策を講じることが、なぜにいけないんだろうか。使えないプライドなんて捨ててしまえ。頭を下げればうまく行くなら、いくらでも下げればいいじゃないか、減るわけじゃなし。

 まぁ、いいや。前世のことは忘れて、今に生きよう。


 ツヴァイが面接した新しい料理人は、順調に母の下で修行を積んでいるらしいし、料理のことはよくわからないから、母とツヴァイに任せよう。ツヴァイのことだから勝算はあるんだろう。

 ツヴァイが怖いのは失敗することじゃなくて、気がついたら規模が大きく変わっていたりすることだ。旅行から帰ったら食堂が五店舗くらいになっていても不思議じゃない。まだ二店舗目も出店してないが。

 広げると終わりにするのが面倒なんだけどなぁ。

 弟は農業か冒険者だろうし、妹は服飾関係に進むだろうから、父の店ですら私の後に誰もいない。まして新しい商売とか広げても面倒なだけだ。

 ああ、でも血筋とか関係なしに、後進を育成して継がせればいいのか。どこかに転がっていないだろうか? ツヴァイに手配を頼んでおいた方がいいかな。頼むならついでに吟遊詩人の方も欲しいな。伯父が動けなくなったら、情報が手に入らなくなる。それは非常に困る。情報をあっちこっちに売ってが商売だ。


 あっ、そういえば兄が居たんだっけ。でも、地方領主の騎士だし、でなきゃ冒険者になるだろうし、そもそも商売に向いてないし…忘れよう。何か言うと仕事を辞めて戻って来そうだ。


 跡継ぎ問題、とメモする。メモしないと絶対に忘れる。メモしてもかなりの確率でメモをしたことを忘れるか、メモを無くすが、それはさておき。

 詩的才能があって、音楽的才能があって、単独でそこそこの魔物から逃げられて、口が固くて、口が達者で、目立たなくて、信用される……いるのか、そんなヤツ。

 むしろ、今から伯父が子供を作った方が早くないかなぁ。

 旅を続けるなら、ある程度までうちで預かれるだろう。身を守れるようになったら伯父に同行して学んでいけばいい。6年くらいなら、まだ伯父も引退しないし大丈夫だろう。今すぐ子供を作ればの話だが。

 覚えていたら、デーデ便で情報のお礼を伝える時に提案しておこう。伯父に子供がいないとか、うちの兄弟に相手がいるのが一人もいないとか、この家系もそろそろ終わりじゃないかと思う。それとも勇者の家系補正でなんとかなっちゃうものなんだろうか。そんな呪いも否定できない。

 ストーカー級のシスコン兄が、配偶者と子供を連れて王都に帰ってくるとか……なんでだろう。想像すらできない。

 ストーカーを続けられて迷惑する未来なら……想像するだけで悪寒がする。マジありそう。さすがに20年以上の経験はそう簡単には消せないな。

 前世は排除してきたのに、現世は首が据わる前からだから、逃げようがなかった。ってか、どんだけシスコン。

 首が据わる前と言えば、あの頃の妹はかわいかったなぁ。原始反射の把握反射だとわかっていても、真っ赤な顔をして泣きながらも私の指を握って離さないその姿に心を奪われたわ。離してくれないから、おしめの交換もできなかったけどね。弟の時はよく兄に邪魔をされてそんなに近寄れなかったのが、残念。きっとその頃の弟も同じようにかわいかったにちがいない。

 二人とも今もかわいい。


 …それで旅行か。

 商業ギルドには連絡したけど、冒険者ギルドで仮免証をもらってくるのを忘れていたな。機会があったら依頼も受けるかもしれないし、護衛を雇うことになった時にはこちらの実力証明になる。仮免は5級までだから、『そこそこ自衛できます』レベルしか伝えられないが。弟や兄だと10級以上の実力がありそうだけど、本業が違うからやっぱり5級だと思う。仮免の5級は一人前の冒険者にギリギリなったところから災害級の魔物を討伐できるような強者までいろいろだ。

 弟はその辺にいる騎士や冒険者には負けないだろうし、かなり強い魔物も一人で倒してしまうだろう。兄は…もう人外判定してよくないだろうか。ストーカーしていたのに、いつ鍛えていたんだろうか。騎士団一つくらいなら楽々倒せるとか意味不明。カスレの領主も貴重な戦力として、しっかり捕まえておいて欲しい。ってか、カスレから出航とかちょっと止めて欲しい。妹は久しぶりの兄に喜んでいるが、私はこの間、会ったばかりだ。

 えっと……1年くらい前?

 歳をとると体感時間が…そうだ。歳だから行けないとかでどうだろうか?

 人生50年なら20代は、もう、はしゃぎ回る年齢じゃない。そろそろ落ち着いて……結婚か。無いな。相手がいないし、何より面倒だ。




『マリちゃん。何作ってるの?』


 あれ、いつの間に勇者が来てたんだ。殺意でもあればすぐにわかるのに、普通に入って来られると思考の海にいるとわからない。

 海か。コイツと船に乗らないといけないのか。現世では船に乗ったことがないからわからないな。酔わないといいんだけど。


『よく巾着作ってるよね』

「端布の処分だが、なぜか売れるんだ」


 勇者の問いに応えた。リール商会からもらう端布で空き時間にちまちま作るものだが、今回の旅行が長いことが判明しているのでストックが必要だ。どうせ得物ができるまでの間は出発できない。と言うか、出発しない。

 今回の旅でいいことはこちらの都合に合わせてくれることだ。以前は問答無用で出発日が決定された。


『意外と家庭的なんだよね。そういうとこがギャップ萌えっていうか…』

「燃え尽きろ」


 家庭的なんじゃなくて、あくまで仕事だ。

 送還の方法を誰か教えてくれないかな。コイツが還ったら、異世界召喚でも、異世界転生でも魔法でも信じるから。


 ……無理かな。非科学的だし

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