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冒険者ギルド。そこはファンタジー小説の中では最も有名な場所であることは言うまでもない。


と、言い切ってはみたが、本当だろうか。…多分違うだろう。統計を取ったヤツなど居ないと思う。半端なヤツが取った統計など信じないが。


まぁ、そんなことはどうでもいい。



いつもの長いスカートを履いた町娘スタイルとは違い、冒険者らしい格好をしている。普通に男性の服装ってだけだが。

髪は首の後ろでひとつに結んでいる。ポニーテールにはしない。振り向いた時に自分の顔に尻尾が強襲するのは勘弁願いたい。アレ意外と痛いんだよ。

いつも不思議に思うんだが、この格好をすると髪の赤が目立つ気がする。だからと言っていつもより3倍速いということはもちろんない。そもそも、速いから赤く塗って識別しているのであって、赤いから速いわけではないと思う。この辺りの原因と結果の関係性については、理系ほどうるさいと言われていた。

レッドバ○ンはスーパーロボット。じゃなくて、撃墜王な男爵と一緒で目立ちたがりな可能性もある。目立つだけで余計な支出が抑えられるなら、考慮の余地はあるだろう。戦争をしないのが一番支出が少ないという真理がもの寂しい。



この冒険者ギルドで『赤』とはウチの兄弟を示す言葉だ。つまり『赤い疾風』とは私のことらしい。仮免所持者にわざわざにあだ名は要らないと思うんだが、悪しき前例があったから仕方ないのかもしれない。


『赤の守護者』または『赤い厄災』『赤い殺戮者』と呼ばれた男は今は王都には居ない。コイツのせいで要らんあだ名を付けられたんだと思うと、腹が立つ。



『久しぶりだな。赤の娘っこ』

受付を済ませて、鍛錬場に向かう廊下で初老の男に声をかけられた。尊敬しているし、嫌いではないが、相手をすると注目を集めるのでめんどい。


「色々ありまして」

軽く頭を下げた後で、なるべく素っ気ない感じで返した。


『熊を倒したり、王家にケンカを売ったりかな』


うーん。よくわからんが、マジずいぶん来てなかったのか。仮免は自動更新だし、身体を鍛えるのはウチで事足りるから、すっかりご無沙汰でした。


「熊?王家?」

小首を傾げると男はニヤリと笑った。


『相変わらずだな。過去は振り返らないか』

いや、要らん記憶は消去するだけだ。なぜだか、周囲が勝手に色々思い込んでいる雰囲気がある。


『こんにちは。マスター。疾風の』

鍛錬場の入口でとある冒険者に出会った。ここで一、二を争う冒険者だとずいぶん前に自己紹介された。いつも依頼で飛び回っている印象があるが、意外とギルド内で出会うことも多い。

私が赤毛を気にしていることを考慮して『赤い疾風』とは呼ばず、『疾風』と略してくれている。『来た?』

『疾風のマリー来たの?』

彼の仲間が鍛錬場から顔を覗かせた。暇なんか。ギルドで一番のパーティ(自称)なのに暇なんだろうか。

とりあえず、にっこりと笑いかける。先輩だし、上級のパーティとケンカしてもいいことない。


『マリー久しぶり』

『前回マリーが顔を出した時は遠くの仕事請け負ってて残念だったよ』


メインギルドへの登録は本名である必要があるが、仮免の方は通称で構わない。だから、冒険者ギルドでは『マリー』で登録している。

私は女性の中では普通の身長だが、こうも背が高くてがっしりとした男性に囲まれると縮んだ気がする。初老のギルマスも元、いや、まだ現役かな、の冒険者だし、鍛錬場から出てきたのも超がつく一流の冒険者たちである。ちなみに、お互いを私にそう紹介したが、興味がないので確認したことはない。ギルマスとも仲がいいので、あながち嘘ではないかもしれない。

頭とか撫でられると子供になった気分だ。十二分に大人なんだけど、今日ここにいる冒険者たちは私がギルドに出入りする前から活躍してたから、お子様扱いなのかもしれない。


『かわいい』

『うちのパーティに色を添えないかい?』

『むさ苦しい野郎共は見飽きたぜ』


「おじさんたち、暇なの?」

当然、名前なんか覚えていない。顔を覚えただけでも誉めて欲しい。


『暇じゃないよ』

『マリーのために時間作ったに決まってるじゃん』

『マリーが来るって連絡があったから仕事を超特急で終わらした』

『王都に戻ってくるのに裏技使ったよ』

鍛錬場から出てきたのは、このギルドで五指に入るパーティのメンバー(自称。ウザいので以下、略)だけだ。一般的には顔を合わす暇もないほどと言われる人達が揃いも揃って、仮免の町娘をからかうとは……今は依頼なくて暇なんだな。そういう時期があるとは聞いている。仮免者には関係ない。依頼を受ける必要はないし、単独で受けられる依頼も簡単なものばかりだ。指名依頼された場合のみ、どんなレベルの依頼も受けることは可能だが、指名依頼も断るのも容易い。所詮はメインの仕事ではない。私は依頼票を見たこともない。


「暇なんだね」

断言する。異論は認めない。


『マリー。その冷たさも魅力だけどね』

1人がため息をついた。

Mか、お前。そういえば、コイツは前衛で時々ケガしてるよな。


「そんなことより、遊ぼうよ。時間がもったいない」

仮免で使用できるのは1回につき通常1時間だ。1ヶ月の使用回数も決まっている。繰越しはない。


『大丈夫。貸し切りだよ』

『今日はラストまで』

『マリーは俺たちのゲストだから好きなだけ使って大丈夫』

『久しぶりにマリーと手合わせしたかったから奮発したよ』

受付ではそんな話は聞かなかったが、上級者に許される貸し切りになっているらしい。料金は高いらしいが、彼らがいつも言ってる通りに稼いでいて、この人数でワリカンするなら大丈夫だろう。


「妹が帰る時間までなら」

今日の夕飯の支度は母に頼んである。

『夕飯奢るから、むしろ妹さん呼んで』

『ギルドの食堂も貸し切り』

「ええ~っ。母のとこの方がおいしいのに」

売り上げも増える。冒険者の飲み会なら利益率がいい酒の出る可能性が高い。

『俺、出前頼んだぞ』

『それ、出張サービスに変更した』

ってか、普通は料理より酒の方が利益率高いから、出前じゃ割に合わん。ウチは他の店より料理の利益率も高いけどな。出張なら酒も持ち込める。しかも、持ち込んだ酒は飲まなくても持って帰る必要はない。全てお買い上げって契約にしてある。


『出張料理がなくなったらギルド食堂のになるけどな』

『その頃には、味がわかる状態にないから大丈夫』

その声に男達がゲラゲラと笑った。

逃げ道は塞がれているらしい。今日は妹が寝るまで帰れないだろう。最悪、父か弟が連れて帰って、私は会場に放置パターン。

ってか、母からこの話聞いてないんだけどぉ。

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