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さて、叔父の許可を得ているとはいえ、弟が仕事を休み過ぎるのはマズいと思う。つまりは早々にこの事態を治めるべきである。

でも、面倒くさい。

暴走した牛を放てば、外出禁止令は解ける。王都の被害が甚大で王族がこちらに構う暇が無くなるという意味で。けど、妹の大好きな学校や友達に迷惑がかかる。できれば、それは避けたい。嫌われたくないもん。


イヤなことに気付いた。


22才で『もん』はやっぱりナシだろうか。25才男性の勇者よりマシだと思うんだけど、五十歩百歩だと言われたら………妹限定でだが……ショックで立ち直れなくなる。

勇者に言われても気にしない。

ちなみに、ここでの同義語は《千歩万歩》、五十歩百歩なら倍半分で、千歩万歩なら桁が違う。

万歩って健康に気を使ってるのかなぁ。一歩を0.8mと仮定して、50歩なら40m、百歩なら80m、千歩は800m、万歩は8kmか。8kmを基準とすると50歩と百歩はマジに誤差範囲なんじゃん。ってか80m逃げてどうする気だ。何から逃げるかに因るか。



今日のスープは勇者から貰った干し肉を使った野菜たっぷりの………違った。今日の夕食は干し肉を使った野菜たっぷりのスープである。

夕食がスープってのは本当はほぼ固定なんだけど、一応な。


もやしの生産は順調とは言えないが、そこそこ食べられる量ができている。そこそこが重要。

奇異な事をして目立ってしまうより、平凡一番。せっかく平凡な容姿に生まれついたんだから、平凡な人生を歩んでいくのが一番さ。

神官みたいに美丈夫だと大変そうだ。勇者はまぁ普通にイケメン。普通に整った……手の届く範囲な感じのする……食への執着がそれを打ち消して余りある残念さを醸し出している。

と、評価してみるが、一番残念なのは私の人物評価の才能だ。人の顔や名前がなかなか覚えられないくらいだから、わかると思う。どんなに顔が良くても興味が湧かない。例外を除けば私にとって役に立つか、邪魔になるかの判断しかない。

例外は弟妹だ。弟には時に厳しく、時に甘く接することができる。妹はもう魂のレベルで可愛くて仕方なくて甘やかすしかできない。妹が頭がよくて判断できてるから、助かっている。妹がアホだったら我が儘で傲慢な性格になるだろう。それでも溺愛する自信がある。

この家族性の偏愛は呪いのレベルじゃないだろうか。兄弟同士の殺し合いや戦闘狂ゆえの滅亡より、異常なまでの弟妹愛があってウチの家系よく続いて来れたな。

まぁ、いい。呪いだろうと祝福だろうと気の迷いだろうと、妹の居ない世界に生まれるよりマシだ。

吟遊詩人をやってる伯父も弟である父が可愛すぎて、道を踏み外したんじゃないかと思う。


などと考えながらもう一つの鍋を磨いていた。薪で直接加熱するために煤が付くからすぐに真っ黒になる。たまに磨いてピカピカにするんだ。

待てよ。黒いままの方が熱吸収がいいんじゃないだろうか。でも、熱伝導率が下がるのも微妙だな。

庶民の家では一つの鍋を壊れるまで使うのが一般的だ。つまりは毎食スープとパンって感じだ。煮込むおかずが温かいまま複数並ぶことはない。

ウチは父が台所用品の店を経営してるだけあって、煮込みができる鍋がなんと2つもある。フライパンみたいな薄い鍋もある。

前世では、やかんはあったが鍋は無かったので、ものすごく増えた計算になる。鍋が無くてどうしてたのかって、中食と外食だ。だから本当は電子レンジだけでもギリギリ足りるんだ。カップ麺も食べないし、お湯を沸かすのはひとえにリンデンティーを飲むためだ。

たまにレトルトを温めるのにも使っていた。やかんをだ。注ぎ口の付いた鍋と認識すれば何の問題もない。

そんな前世から考えると毎日スープを作る生活とは、調理の腕も上がったもんだ。それもこれも、可愛い妹のため。



『マリちゃん。最近、王都内が不穏な感じだから気をつけてね。外出してないから大丈夫だと思うけど』

「どんな感じ?」

空気読めない勇者が気付くほど、不穏か。

『うーん、王様への不満がよく聞かれるようになったかなぁ。あと物が減ってきた?冬だからかなぁ、食べ物が市場に並ぶ量が少ない感じ』

あ、うん。そろそろだね。

『でさぁ、さっきっからいい匂いがするんだけど、久しぶりに夕食を…』

「帰れ」

勇者の言葉を遮った。

『…食べさせて…』

『あ、勇者様。いつも妹にお見舞いの品をありがとうございます。王都が不穏な感じなら暗くなる前にお帰りになって下さい。じゃ』

階段下にいた弟が勇者を身体で追いやるように私と勇者の間に入り、話しながら玄関から追い出した。



『やっぱり、暴れちゃダメ?』

「最終手段でしょ。いざという時には期待してるわ」

『ブランシュに手をあげるとか、殴り返してもいい範囲だと思う』

「で、ブランシュに怒られるの?」

『それは困る』

妹のために動くのに妹に嫌われたら元も子もない。私も弟もそこが悩ましくて困っている。実力行使して、この国から脱出という手が使えたらなんぼも楽なことか。

妹が報復を望んでいるかどうかは気にするところではない。基本ウチの家族は自分勝手なんだ。

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