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武器屋に行ったら、投げナイフもできてたけど、何より折りたたみ式の棒のメンテナンスが終わっていた。
これ持ち運び便利なんだけど、一度使ったら点検と修理が必要だ。だから帰って即座に出しに行った。
普通の棒は堅い木で作るんだけど、折りたたみ式のは中に鉄芯が入ってる。伸ばした時にこれを折り目とズラして全体を真っ直ぐに保つ。
木材をくり抜いて芯を埋め込むために木が薄くなって割れやすくなるんだ。
魔法での非破壊検査と目視でヒビや歪みをチェックして、必要ならパーツ交換になるんだ。パーツの予備が無い上に制作が特別になるもんだから、修理期間も修理代もハンパない。
樫の棒に正確に深さ30cmの正円の穴を開けるために最初ボール盤を開発した。棒状にしてから穴を開けるのは難しく、大きな塊に穴を開けてから棒にする方法も試したが、やっぱりうまくいなかった。
困り果てて試作品を持って武器屋に相談したところ、そういう加工が得意な職人に任す形になった。
ボール盤はそのまま放置したが、機械制作をしたリース商会が何やら使っているらしい。詳しいことは知らない。だいたい手動のボール盤って……正確には足で駆動、とりあえず人力……固いものに不向きじゃないか。何考えてたんだろ、あの頃の私。子供だったで済ますにはアホ過ぎる。
ちなみに、正円であるにはわけがある。一度モノは試しと四角い穴にしてみたが、見事に角のところから破損した。負荷の集中する形状はムリだったという当たり前の結論が出た瞬間だ。
今は夏用の折りたたみ式を持ち歩いているので、修理に出せていた。
春秋用、夏用、冬用の3本があるのは、気温による鉄芯の体積変化があるためである。強度を出すためには芯との間にできるだけ隙間がないのが望ましい。
スムーズな動きと相反するその要求に応えた職人技に惚れ惚れし法外とも思える言い値を躊躇いもせずに払ったのは未だに後悔してない。職人もそれに応えて更なる改良をしてきてくれる。
職人さんに感謝感激雨あられって、単に私が役立たずってだけか。
〈リース商会の隠し賢者〉……賢者って単に知識だけで実務に乏しいともとれるな。まぁ、理論派と言えば聞こえはいいが、割と不器用だし、その通りかも。
勇者の脳筋を笑えないが、悔しいので今度会ったらからかっておこう。
二度と会わないのが理想だけどな。




