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烈火のごとく怒っている赤牛と無言で固まっている護衛二人組を笑顔で送り出した。
お茶が運ばれてきた。リンデンだ。香りのいい高級品だ。
指示出したのは、赤牛だな。私の好みは把握してるもんな。もしかしたら、個人的に所有していたものかもしれない。来る予定がなくとも私の為ならそのくらいの出費はなんとも思わないのがアイツだ。
『とりあえずお茶でもゆっくり飲んで落ち着いてから』
落ち着く必要があるのはそちら様。私はのんびりソファーに座ってます。
騎士団長のクマさんも座って頂けると幸いです…………ってか、ガタイいいんだから立ってられるとスゴい迫力なんだけど。さっきの影響か表情もあれだし、圧迫面接かコレ。次は無理難題ですね、わかります。
まあ、わざわざ呼ぶってことはたぶん無理難題には違いない。
「前置きはいいです。ご用件を単刀直入に」
笑顔、笑顔で。面倒くさいのが予感されても言われる前に切れちゃいけないよね、社会人としては。
『では………カスレに永住して…』
「やです」
無理難題すぎるわ!
『そこを何とか』
「ムリ!」
『ムリを承知で』
しつこいっ!
「せっかく王都から兄を追い出したのに、私がこっちに住んだら意味ないでしょ」
『ルネの本気が必要なんだよ』
身を乗り出して懇願してきてもムリなものはムリ。
「あの人が本気出したら、仕事しないで一日中私に張り付いてます!」
『…やっぱり?』
「…ええ」
『ここ何ヶ月か、すげー真面目に治安維持に躍起になってて、これはイケるって思ったんだけど』
「シスコン過ぎてダメ人間ですから、離れて暮らすのが一番なんです」
『………いや…ルネも一応、騎士だし……マリアンヌ嬢を守るためなら……きっと……治安維持を…』
「私の周囲だけね」
キッパリ。期待持たせたら負け。
ってか、妹が待ってるんだから早く王都に帰るんだ。
「それに兄が活躍しない方が、娘さんが『パパかっこいい』とかハートマーク付きで言ってくれますよ」
自分でも悪い笑顔になってると思う。でも、可愛い妹のもとに帰るためならいくらでも誘導してあげよう。




