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『マリアンヌ。暑くなってきたからお願い』

「はぁい」

従姉の頼みに二つ返事で応える。簡単でいいお小遣い稼ぎだし。

いつものように用意されてる液体にいくつかの粉末を計量してサラサラと入れてよくかき混ぜた。


『マリちゃん、何作ってるの?』

「うーん、わかりやすく言うと、HP微小回復、MP微小回復の回復薬用の水かな」

『微小回復ってそんなの売れるの?』

『それだけなら売れないわよ。これはマリアンヌ特製の秘薬』

従姉がいたずらっぽくウインクした。

『…秘薬。マリちゃんってスゴい薬師なのか』

「ちゃうちゃう」

粉末が溶けたのを確認して次の樽に粉末を投入する。


『これは低級回復薬の10倍の値段で売れるの』

『えっ!超低級なのに?』

従姉が勇者の相手をしている間に用意されていた5つの樽に所定の粉末を溶かし終えた。

「これ薬師さんに回してオッケー」

『助かるわ。これはマリアンヌ以外に調合させないで機密にしてあるから』

「この辺で消費する分はカスレで作った方が効率いいからクロード従兄(にい)にやらせちゃおうよ」

『確かにこっちにいるしね。検討してみるわ』

「その場合マージンは半分でいいよ」

『キツっ』

「頭脳労働が一番効率的」

『仕方ないわね。マリアンヌには王都で作って貰わなきゃいけないし』


適当な水で同じ溶液を作って勇者に手渡した。

「はい」

勇者が手元のカップをじっと見て動かない。私が出したものをすぐに口にしなかったのは初めてだ。

『……害は無いよね』

「超低級回復薬の元だから大丈夫」

勇者は一口飲んで眉をひそめた。

『マズいんだけど、なんか飲んだことのある感じ』

「スポーツドリンクだもん」

笑いながら答えた。

「調べても超低級回復薬だけど、暑い時の回復は抜群♪で売ってます」

『…鬼』

「回復薬に仕立て上げてくれる薬師さんたちに感謝♪」


カスレの近くで大々的に塩を作るようになったから材料費が下がったな。今までは岩塩だったけどそれなりに塩が高かったから、自家製塩で少しは下げられるかもね。

簡単だけど、ひと夏分の調合になると大変な量になるから面倒。秘薬扱いになったのも効果を信じられなかった人がいっぱいいたからで、さらには治療師との軋轢を生まないためにも量を絞らなきゃなんないから。


実はリース商会の孤児院では回復薬成分を含まない所謂スポーツドリンクを大量生産して子供を守ってるのは秘密さ。あ、こっちはそこそこ味を追求して改良を続けているらしい。


市販している回復薬は薬っぽい味、子供向けは飲みやすい味と使い分けてる……らしい。孤児院は自家消費だし同じものだと気づいた人は表立っては居ない。

孤児院の自家消費には関わってないから年間どのくらい作られているのかも不明だ。


自分の守備範囲外は関知しない。ムリだから。勇者みたいに世界を救うとか、世界を変えるとか有り得ない。自分でわかる範囲を自分にそこそこ快適なようにするだけだ。


だって人間だもの。


できることに限りがあるんだから、ムリしない。

始まったものは止めらんない。人に丸投げできないものには手を出しちゃいけない。

人間の寿命なんて大したことない。まして活動できる期間なんて短いし、馬車がメインなこの世界では活動範囲も限りなく狭い。今回王都から出てカスレまで来たのも例外的なことで、王都で一生を過ごすもんだと思っていた…………早く王都に帰りたい。王都に第2騎士団所属の三号が残ってる状態で妹を残してこんな遠くにいるなんて。


あ、妹で思い出したけど、明日 赤牛が休みじゃん。

二度と会わないように王都から追い出したのに従姉兄たちにはめられた。

ああ、勇者早く討伐を終了しろ。王都へ帰るぞ!

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