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田舎の因習で一生座敷牢だった忌子、人外魔境日本に転生する ~倒した妖魔を次々に仮面にして最強になる~  作者: 手羽先すずめ


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1/3

転生

 二畳半。それが俺に与えられた世界の全てだった。


 横になると簡単に壁に足が付く、手も満足に伸ばせねぇ。

 明かりなんてもんはなくて、日がな一日ずっと暗い。光を見られるのは日に一度、食事が運ばれてくる時だけで、それも残飯みてぇな酷ぇ味だ。

 いつも吐き気ごと無理矢理飲み込んでる。


 でも、それはやることが出来るだけまだマシなほうだ。


 人間ってのは人生の三分の一は寝てるらしい。つまり残りの三分の二は起きてなきゃいけないってことだ。この座敷牢で、檻の中で、なにもすることがない状態で、十六時間もただ時間が過ぎていくのを耐えなきゃならない。


 その点、寝てる時はいい。時間は一瞬で過ぎるし、夢も見られる。

 昔、一度だけ外の世界を見た時の夢だ。


 青い空と白い雲、咲いてた花。


 それが見たくて起きている間はずっと眠気がくるのを待ってる。

 待って待って待って待って、ようやく眠れる。

 そして起きる度に思うんだ、なんで俺が先に生まれちまったんだろうって。


 双子は忌子って奴らしい。


 同じ顔の奴が二人生まれたら片方は殺すか一生閉じ込めておくんだと。

 で、そいつは大抵の場合弟のほうになる。

 俺は兄貴よりも先に生まれたばっかりに、なにもかもを奪われて、なにもさせてもらえなくなった。


「あーあ」


 暗闇をずっと見ていると、今目を開けているんだか閉じてるんだかわからなくなる。起きてるんだか寝てるんだか、死んでんだか生きてんだか。なーんにもわからなくなるんだ。

 自分の名前が稟護りんごだってことも、時々思い出せなくなる。


「全員、死なねーかな」


 神様ってのは、どうやらいるらしい。

 家が燃えた。

 雷でも落ちたのか、火の不始末か、どうだっていいけど、どこか遠くから悲鳴が聞こえてくる。

 火事だ、火事だってな。

 傑作だったね。産まれてこの方、今日くらい痛快な日はなかった。

 これでやっと全部が終わる。何もかもを道連れにして。


「ありがとな、神様」


 檻が燃える。壁が燃える。天井が燃える。

 そのど真ん中で寝転んで、ゆらゆら揺れてる炎を死ぬまで眺めてた。

 大声で笑い転げながら。自分が燃えても、ずっとずっと。


§


「あ?」


 気付いたら外にいた。

 小汚い格好をしていて、今いる場所もどっこいどっこいのゴミ溜めだ。

 臭ぇし汚ぇし、建物もいつ倒れても可笑しくねぇくらいボロボロだった。

 なのに、見上げた空だけは綺麗だったんだ。


「おぉ、久々にみた」


 青い空、白い雲。

 あとは花がありゃ完璧なんだが、それは期待できそうにねぇな。


「つーか……俺、死んだよな?」


 自分が焼かれる感覚が、今でも鮮明に思い出せる。

 痛かったけど、それ以上に愉快だったのを忘れてない。

 なら、なんで俺は無傷で、こんな知らないところにいるんだ?


「お、硝子」


 振り返ると、細い路地の半ばに割れた硝子。

 一つ破片を拾い上げたら自分の顔が映った。

 あのクソ兄貴と同じ顔だ。

 あいつ、ちゃんと焼け死んだかな。


「ふーむ。つまりどういうことだ?」


 なーんにもわからん。


「まぁいいか」


 考えてもわかんねぇことは考えても無駄だ。

 折角こうして外に出られたんだ、満喫しないと。

 とりあえず花を探そう、花。花が見てぇ。


「花はどっちだ?」


 硝子の破片を捨てて、狭い路地から出て大通りに。

 俺以外に人間はいないみてぇだ。

 代わりなのかどうかは知らないが、でっけぇ鼠がいる。


「鼠ってのはこんなにデカくなんのか?」


 鼠が手乗りサイズなのは俺でも知ってることだが、目の前の鼠は大型犬くらいだ。

 こっちを睨み付けて唸ってやがる。


「さっきの硝子、捨てなきゃよかったな」


 とかなんとか呟きつつ、周囲をちらっと見てみる。


「お、いいもの発見。鉄パイプ様だ」


 ちょっと錆びてるが、頑丈そうだ。


「そう言えば腹が減ってたんだ。お前、俺の昼飯な!」


 俺の言ってることが、まさかわかるとは思ってねぇが、鼠が咆える。

 鼠ってあんな鳴き声なんだ。喉を絞ったみたいな雑巾声だ。


「うるせぇんだよ、飯がしゃべるな!」


 握り締めた鉄パイプに力を込め、咆える鼠を力任せにぶん殴ってやった。

 骨が砕けたような鈍い音が鳴って、手元にビリビリの震動だ。デカい鼠は血を吐いて倒れたが、まだ息がある。


「デカかろうが所詮は鼠なんだよなぁ! 人間様にゃあ敵わねぇんだよ!」


 起き上がる前に鉄パイプを振り下ろした。

 何度も何度も、何度も何度も何度もだ。

 そうすりゃすぐに動かなくなって、足下が紅いぐちゃぐちゃで一杯になった。


「赤色を見るのも久しぶりだな。さて、と」


 路地から捨てた硝子を拾って来て鼠の腹を裂く。


「うわ、くっせ! 内臓なんて食わねぇよ、ボケ!」


 毛の生えた薄汚い皮を無理矢理引き剥いで、ようやくまともな食える部分が出てくる。


「肉だ肉だ! ――うーん、味はイマイチ」


 ま、それでもあのゲロマズな飯よりずっと上等だ。


「あの」


 夢中になって食っていると声がした。

 知らない女だ。汚れた白いワンピースを来てる。歳は十台半ばってとこ。同い年くらいか? 何日も食ってないのか、体は随分と細くて華奢だ。マッチ棒かもやしみてぇだな。


「なんか用?」

「私にもそれを分けてほしい」

「えぇ?」


 嫌そうな顔をすると、その女は手から火を出した。


「料理、できるよ。焼くだけ、だけど」

「……オッケー!」


 手品かなにか知らねぇけど、肉が焼けるなら細かいことはどうだっていいや。


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