パメラ・ゴードンスミスの場合17
「それにしても、丁度、よいところに来てくれました。こちらの箱を持ち帰ってください」
目の下に隈のある笑顔でそう言ったトットハム卿は、端に寄せられた机に無造作に置かれていた浅い箱を持ち上げた。中には数十枚の書類が入っている。
「トットハム卿、その箱は・・・?」
「ただの箱です。レオン殿下の部屋から回された紙ゴミを入れるゴミ箱ですよ」
「ですが、既に入っている書類は?」
「呼び水です。ここに紙ゴミを入れる、という見本です」
「・・・」
数十枚の書類は呼び水の紙ゴミらしい。
パメラの目は半眼になった。箱には宰相補佐室にある箱同様に“未分類”と書かれていた。宰相補佐室にある箱では、各部署から上がってきた書類がこれにあたる。
別名の付いたゴミ箱を持っていけ、と言われて、パメラは胡乱な気持ちになった。
「そんな表情しないで、持って帰って、部屋の入口付近に置いておいてください。置く為の机は後で侍従に運ばせます」
「専用の机まで用意するんですか?」
「ゴードンスミス嬢には女官も必要ですから、女官用の机も運ばせるついでです」
「まあ。女官ですか? いいんですか?」
「王族として公務に携わっているのですから、これまで、女官を付けていなかったことが異常なのです。仕事量が多くて泊まり込むのなら、女官を付けるのも当然です」
女官は秘書のような存在だ。侍女は身の回りの世話をするが、女官は公務の段取りを付けたり、細かい礼法などの指導したり、仕事面で頼りになる秘書兼相談役である。
「ですが、」
家に帰ることが嫌で泊まり込むことに決めたので、パメラは理由が違う、と言いかけた。
「王族の婚約者なんて、週に一度、登城すれば良い程度なのに、夕食にも戻れない時点でおかしかったんです。まだ結婚もしていないのに、連日、登城して熟さなければならない仕事なんて、渡せるはずがないでしょうが」
「・・・! 今になって、どうして・・・?」
「今だからです。レオン殿下の元執務室を使うのも、今だからできることなんです」
「それはどういう意味なんですか?」
意味ありげに言うトットハム卿に、パメラは訊いたが、彼は微笑みを深くしただけだった。




