聖女「救世宣言」
「――もう一度言ってくれ」
「あなたの師匠が捕まったから、何があろうとも死んでもらう」
「ふぅ~」
昨日の今日で少しは反省したかと思えば、今度は下手な因縁を付けてきやがったぞこの聖女?
「師匠が捕まったって……あの人がそう簡単に捕まるかよ」
あり得ないけど、もう一人の方か?
だが、こいつがあっちの師匠を救いに行くわけがない。行くとしたら、自分でトドメを刺すためだろうから行かない方が良いだろうし……。
いや、死んで来いって言ってんだから神の所に行かせるための口実に決まってるか。
「残念だけど、今回は冗談ではないわ。そして、冗談じゃないからこそ無理やりにでも行ってもらう」
そう言って、聖女は何かを手に……。
「ってこらあああ! なんでその後ろにある禍々しい凶器の数は!!」
刀剣から撲殺用の鈍器、拷問器具までありとあらゆる凶器が樽に刺さってるんですけど!
「つべこべ言わず、さっさと死ね!!」
「いやああああ!!」
うおおおおお……! や、やべえ、掠った。
「おいっ、聖女だろ!? 剣ならまだわかるが、チョイスするのがモーニングスターってどういうことだ!?」
「聖女が持つに相応しい武器なんてこの世にはないわ。だから、私が持てばすべて相応しくなる」
……イカレてる。
「いや、相応しい云々についてはかなり相応しく見えるよ」
そのトゲとかかなり似合ってる。
「……そろそろ話を進めましょう」
「師匠!?」
「……やっとまともな話し合いができそうだ」
「……で? 師匠はどうしたんですか?」
「だから、私が言ったでしょう。捕まったって」
「それがわからないって言ってんだよ。そもそも話をする前に襲いかかって来ただろ?」
「ああ……そうだっけ?」
「そうだっけって……」
あんた、そりゃないよ。
「論より証拠。見てもらった方が早いわね」
奥へと消えたが、すぐに二人になって戻って来た。
ただし、小柄な師匠を抱える形で。
「師匠……? 寝てるんですか?」
「……違うわ。捕まったの」
「いや、その捕まったっていうのが……」
見た感じでは寝ているだけにしか見えないんだが。
「昨日、あんたが断ってから私達なりに神に接触できないか試してみたの」
「……それで俺の代わりに師匠が魔法を?」
「いいえ。自爆魔法は使ってないわ」
そりゃそうか。自爆魔法を使ってたら、肉体がこんなに綺麗な状態で残っているわけないか。
いや、魔法を使ったら、綺麗になるんだから問題ないのか。
「まあ、自爆魔法は危ないからね」
「それを俺にやれって言うのは頭がおかしいからな?」
「あんたなら別にいいわよ」
「信頼されているからと解釈しておくよ」
「それで、この子は魔法を解除することで向こうに行ってもらったわ」
「魔法って、師匠達が使っていた生命魔法?」
無茶するなぁ。
「そうよ」
「まあ、私もかなり無茶だとは思ってたけど……。師匠ってそういうことに関しては思いっ切りがいいから」
「まあ、復讐のためだけに神に喧嘩を売って世界を破壊しようとしたぐらいだからな」
「そしたら今度は師匠までもが帰ってこなかったと? いっちゃなんだけど、魔法の解除が失敗したってことはないのか?」
「もちろんそれも試してあるわ。だけど、戻ってこなかった。あるいは神を見つけ出すのに時間がかかっているのかもしれないけれど、一度繋がりが切れた瞬間があったのよ。だから、誰かが神を捕まえあなたの師匠を捕まえたと考えているわ」
「そういうものか」
「で、今度はあんたに行ってもらうことになる」
「――わかった。行くよ」
「あら、今度はすんなりと」
「そりゃあ、師匠の危機だからな。弟子が動くのは当然だろ?」
「そういうことにしておいてあげるわ」
「いや、真面目に言ってるからな?」
照れ隠しに取られる方が厄介だ。
「言っておくけど、今回は師匠だけじゃなくて世界も救うことになるわ。まさに聖女である私からの救世宣言よ!!」
「――くれぐれも気を付けて」
「わかってます。あなたもあの聖女様が暴走しないように歯止め役お願いしますよ?」
「ふふっ、頑張ってみるわ。だけど、神をも捕らえる相手よ。十分気を付けないとね」
「神を捕らえるか……」
そんなことをするメリット。
挙げ出したらキリがないんだろうな……。
神を手に入れることが出来れば世界を手にすることが出来るのと同義だ。ただ、神の下に行けるような奴だったら、地上で出来ることはある程度可能だろう。
それでも足りなくなった。人間の欲望の深さはどこまで行っても収まるところはないってことか。そう考えると、出来ることしか言わない聖女の我儘は可愛いもんだ。頻度以外は。
「じゃあ、行ってくる」
「ちゃんと帰って来なさいよ。早目に帰らないとあんたに可愛いフリフリのドレスを着せちゃうからね」
「それは暇な時にやってるだろ」
「今までのよりも女子女子してるやつよ」
「嫌だから、さっさと戻るよ」
「頑張んなさい」




