破壊者「・・・がら」
「…………」
目を開けた時、懐かしいようなそれでいて全く知らない場所に来たような不思議な感覚になった。
辺りは白い雲のような物体が浮かび、それでいて黒い世界。明るいのに暗いなんとも言い難い場所。
そこが神のいる場所なのだと言われてもピンと来ないだろう。
「……死ぬ感覚?」
死ぬと言われても漠然としか理解できない。
そもそも自分は本来は生きていない存在であり、世界的に見て生者とはとても言えない。生物ですらないのかもしれない。
「だけど、ここで合ってる気がする」
「――これは、仮になんですが……」
聖女が提案した神の下へ行く方法はある意味で無策にも近い内容だった。
「もしも、神の所へ行く方法があるとすればそれは死ぬことだと思います」
だからこそ聖女は弟子に一回死んでくれなどと申し出たのだ。それは間違っていないだろう。
「では、あなたを送る方法も同様になると思います」
「……死ぬの?」
死……意味はわかっていても想像できないことだった。
「それが可能ならばというところですがね」
「でも、ただ死ぬだけでは意味がないわよ」
そうだ。死んだところで戻って来れなければ意味がない。
その点、自爆魔法はある意味優れている。神自身がその魔法の存在に気付いていなかった侘びとしてそれを使っての死や損壊は回復するようにしているからだ。
「わかっています。自爆魔法の場合は死んだと同時に再生されるのを、無理やりにでも行ってもらうつもりでした」
それはそれで酷い。
「ただし、そんな真似をさせるわけにもいかないので……」
「そこで出て来るのが仮定の話ね」
「はい。私の仮定というよりはお二人の……主に師匠の話を聞いた上で可能ならば提案してみたいというのが本心です」
「いいわ。聞きましょう」
「ありがとうございます。まず、注目したのはお二人の死……その概念についてです」
「死の概念?」
「そうです。単刀直入にお聞きしますが、お二人は死んだらどうなるのですか?」
「「死んだら?」」
「言い方を変えてみましょう。まず根本的な質問なのですが、師匠たちは怪我などをした場合どうなりますか?」
「怪我、怪我ねぇ……」
「あっ!」
「……そういうことね」
「ええ。わかっていただけてよかったです」
「一応怪我をすればあなた達と同様に痛みを感じるわよ。それが私の魔法。生命魔法はまさに生きることをする魔法になるわ」
「つまりです。生きているのならば、死ぬのではないかということ」
「……もしかして、魔法を解除することが死ぬことになるのではないかということね?」
「そうなんですよ。ただ、これってかなり危険な賭けでしょう?」
「そうねぇ……私も魔法を使ってから解除したことっていうのはないのよね」
「……だとしたら、可能性は十分あります」
「ただ、それが死を意味するのだとしてどこまで消えるか……。魂や精神だけが仮死状態になって神の下へ行くのか」
「それとも、肉体もすべて消えてしまうのか……」
「肉体まで消えてしまう場合、戻すことは不可能ね。初めの時は使い手が死んで間もない時だったからすぐに残り香のようなモノをかき集められたけど、今度はその子の魔法としての概念が消えてしまうかもしれないから」
「かと言って、それを試すためだけに新たに命を作り出すというのも」
「さすがに不謹慎よね」
「大丈夫。きっとそれで上手くいく」
信じてみなければ始まらない。
なら、信じないと。
「……あなたがそう言うならやってみましょうか」
「ありがとうございます。これで弟子も守れますね?」
「ふふん」
そう、弟子のために私はやる!
「……これが神?」
しばらく歩くと人影みたいなものを見つけた。
「なんか、私達と似てる」
魔法で命を吹き込まれた私達。
だから、厳密には人間じゃない。
案山子って名付けられた最初の師匠さんも言ってたけど、私達はやっぱり人間じゃない。
目の前のこれも人間のような形をしているけど、人間っぽくない。
「それに……」
まるで抜け殻だ。
近付いても、触っても反応をしない。
それどころか、物としての存在感はあっても生物が持っているような気配を感じない。
「神だから……じゃない」
本当に根本的な何かが抜け落ちたよう感覚だ。
「だったら、本物はどこに?」
「――神を探しに来たのか?」
「誰っ!?」
「誰とは心外だ。だが、ここで見つかるわけにはいかん。少なくともまだな」
「…………」
「そう警戒するな。神には会わせてやる。そして、すぐに元に戻る」
「なっ、ちょっ」
空間がまるで私を取り込もうと……!
「さあ、少しお眠り――」
「きゃっ!?」
「師匠!? 師匠、大丈夫ですか!?」
「え、ええ……それよりもあの子はどうなってる?」
「えっ? べ、別に反応はありませんけど……」
「ちょっと見せて!」
「し、師匠……? どうされたんですか?」
「やっぱり。……どうやらあなたの勘は的中していたようね」
「……何かあったんですね」
「ええ。この子の精神との繋がりを絶たれた。つまり、捕まったのよ」
「一体、何が起きているの?」
天を見上げてもその答えは返って来ない。
ただ、いつもと変わらぬ日常のはずなのに、そうでないような足元が崩れて行くようなそんな感覚になった。




