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聖女「おつかい」

「――ちょっと、死んで来てくれない?」

「はっ?」

 ちょっとこの聖女。とうとう聖女と呼ばれること自体が疑問になって来たぞ。


「どういう意味だ?」

 意味があっても言っていいことじゃないぞ。人に死んでくれなんて。


「実は……最近、神の奴が応答しないのよ」

「は???」

 もうわけわからん。

「ほら、私って神と交信できるじゃない?」

「それがお前の存在理由だろう」

 唯一と言っていいて長所じゃないか。何をいまさら。


「あんまりごちゃごちゃ言ってると、単純に神の下へ送るわよ」

「シンプルな殺人予告はやめろ」

 普通に怖いわ!


「……どうも最近、神が交信しないらしいわ」

「そもそも神の声が聞こえたことがないからどうとも思わんが、それがどうした?」

 神なんだから、忙しいことだってあるだろう。

 というよりもそんなに地上の一部地域限定の神様なんていやだわ。


「まあね、あんたとの時もそうだったけど一般的にはあっちが用件がある時にだけ声が聞こえるっていうのが神の声ね」

「一般的ってことはお前は違うんだろ?」

「私は天才だからね」

「そういうのはいい」

「つまり、私は私の声も神に届けられるの」

 神も迷惑なクレーマーに直通手段を与えたもんだ。

 こういう奴に対してだけは門戸を固く閉ざしておけよ。


「……ここからは私の勘なんだけどね、もしかしたら何かあったのかもしれないわ」

「何かって……何?」

「何かは何かよ」

「…………」

「……どうしたの?」

「つまりは、勘だけで俺に死んで来いと?」

「そうよ」


「ふっ、ふざっけんなああああ!!」


「ちょっとうるさいわよ。耳が痛くなるじゃない」

「うるっせぇえええ!! こっちは頭が痛いわ!」

 むしろお前が痛めるべきなのは良心だ!!


「いいじゃない。元々は私が交渉してあげたからこそ使いやすくなった魔法よ?」

「そんなに言うなら、お前が習得しろ!」

「それは駄目よ。いい? 天才には下々の者を導く使命があるの。そのためには才能を伸ばし続ける必要があるわ。私は天才でも一点に秀でたタイプ。残念ながら、無駄に幅広くやるのは面倒なのよ」

 最後までぼかせ!

 思いっ切り面倒臭いっていう本音が出てるだろうが!


 それに、せっかく面倒な修業をしてまで物騒な魔法を使わなくてもよくなったのに……。


「ちょっと魔法を使ってもらえばいいわ」

「嫌だ!」

「……わかったわ」

「へっ?」

 そんなあっさり。


「何よ?」

「いや、そうも素直だと逆に不気味だなと」

「言ったでしょ。私だってあくまで根拠は勘なのよ。さすがにそれだけで命を賭けろっていうつもりはないわ」


「……だったら、なんで押し切ろうとしたんだよ」

「素直に引き受けてくれたら、楽だなーって」

「をい」

「冗談よ。ただ、覚えておいて。ここで放置したことできっと何か大きなことが起きるわ」

「物騒な予言だな」


「私もこんな嫌な感じは初めてよ。出来れば当たって欲しくはないわね」

 ……こんな弱気な姿は初めてだな。

 かと言って、いきなり命を賭けるのは無理だが。




「――どこまで本気だったの?」

「結構マジですよ。調査してもらうのが一番手っ取り早いと思いましたし、だけど勘だからさすがにそれだけで無理をさせるのもって思っただけですよ」

「……そう。ただ神がこちらからの更新に応答しないのは気になるのわね」

「そうなんですよ。あれだけ迷惑をかけておいていざこっちに用がある時は無視するとかおかしいでしょ?」

「ふふっ、あなたらしいわね」

 神がこれを聞いたらどれだけ嫌な顔をするか。

 迷惑はたしかにかけているのは間違いないのだが、それ以上の面倒事を押し付けられているというのに。


「……だったら、私が行こうか?」

「あらあら。いいんですか?」

「うん。最近は修業させることもなくなったし」

「そうですよね。あとは自分でどうにかする段階。かと言ってあなたに無理をお願いするのは気が引けるんですが……」

「構わない。私なら大体のことはどうとでもなる」

「たしかに。あなたほど信頼に足る人物はいませんね……」

 ただ、なんだろう。いい考えのはずなんだけど、これを頼んだら何かとんでもないことが起きそうな気がする。


「――わかりました。それではお願いします」

 だから何?

 私にとって世界の刺激は楽しいこと! やってもみないで臆病風に吹かれるなんて私らしくないじゃない!


「でも、無理はしないでくださいね? あなたに何かあったら師匠にも怒られちゃいそうですし」

「わかってる。私も弟子を持ってるから」

「頼りない弟子ですけどね」


「となると問題は神の所へ行く方法ね」


「そうですね~。いつでも話せるから直接会う必要性って感じたことなかったですし……」

 だから、あいつがサクッと行ってくれたら楽だったんだけど。


「方法はある」

「えっ!?」

「あらあら」


「単純に私が全力を出せばあいつは私を止めるために力を発揮する」

「そうですね。世界をも破壊する力。それがあなたの本性ですからね。なんだったらそこに私も力を貸せば確実でしょう」

「……それでも来なかったら、問題ですけど。その方法が一番確実みたいですね」


「それじゃあ、その方法でおつかいお願いしますね?」


 この日、世界は三度目の崩壊の危機を迎える。

 しかし、大地に亀裂が走り太陽を暗雲が飲み込み世界の終わりが見え始めた頃、不思議な力によってその破壊は収まった。

 世界に大きな傷跡だけを残して。

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