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???「これからだ」

最終章はじまります。

「――よぉ、来ると思ってたぜ」

「…………」

「どうした? 来るとは思っていたが、お前が何の用で来るかまでは知らないんだ。話してくれないと――」


「黙れ。気分が良い時に害虫の声なんぞ聞く気はない」


「ぐはっ……いきなりだな」

「お前に渡した時は気紛れだった。再現できるとも思っていなかったし、改造までするとは思ってなかった。自棄になっていたからと渡すべきではなかったのだ……」

「何が言いたいのかわからんな」

「喋るなと言っている」

「……人を殺しかけておいて言うセリフじゃねえな」


「だが、いいだろう。お前のおかげであの子に会うことが出来た。それだけは感謝してもいい。……本当に巡り合わせとは不思議なものだ」

「ケッ、やはりあいつらが面倒を持ってきていたのか」

「お前にとってはそうだな。お前が魔法を使ったところで別に干渉するつもりはなかったのは事実だ」

「あいつらが来た時から嫌な予感はしていた。だからこそ早く追い出そうとしていたんだがな……」

「所詮、お前は情に脆い人間でしかなかったということだ」


「まるで自分は人間ではないみたいな言い方じゃないか。確かに普通の人間かどうかは怪しいが、あの二人を見た後だと、ただの人間だと思えるがね」

「ふふっ、『二人』か。あれを人として数えるとはつくづく甘い男だ」

「その評価は死ぬ前でも屈辱だよ」

「人間、恥を抱えて死ぬものだ。死ぬ時に後悔しない者などいやしない」


「だが、お前の考えを聞いて楽に殺してやるべきだと思ったよ。そこは良いことじゃないか?」

「どうかな?」

「!? ……ほぅ。あの状態で動けるのか。長らく俗世とはかけ離れていたが、あれはなかなか稀有な才能だな。潰すのが惜しいよ」





「はぁ、はぁ」

 逃げたはいいものの、先程の攻撃は思ったよりも深手だった。

 このまま逃げ続けるのは難しい。だが、治療系の魔法は特に苦手だったので習得も出来ていない。


「……魔法で吹き飛ぶか?」

 思い浮かぶのは因縁深い自爆魔法。イカれた女の話では今は改良されていて死ぬどころか、ちゃんと復活するという話だが……。

「駄目だな」

 使っても傷は治らない。

 あくまで勘だが意味がないと思う。


「あれもかなり出鱈目な魔法だと思っていたが、上には上がいたか」

 魔法でも、そして才能においても。

「ああいうのが天才っていうのかね……」

 自分を決して天才なんぞと認めるつもりはないが、周りからは常にそういう評価を受けてきた。

 天才なんて自信に胡坐をかくいけ好かない連中だと思っていたからこそ、そう呼ばれることを嫌い世間を捨ててきたが……それはやはり正しかった。


「死ぬ前に俺が凡才だと教えに来てくれるとは……死神ってのは意外と親切らしい」


「そうだな。死はすべての者に平等だ」

「……お早い到着で」

「気にするな。天才は一点においてではなく、すべてにおいてずば抜けているからこそ天才なのだ」


「ははっ、もう笑うしかねえ」

「未熟さを嘆く必要はない。かくいう私もまた才能という壁には一度挫折を強いられたことがある」

「そいつは見てみたかったな」

「やめておけ。私ですら挫折しかけたのだ。壁を越えられぬ程度の者では精神が崩壊していただろうよ」

「ほんっとに天才ってのはいけ好かない連中だ」


「同感だよ。私と違い、永遠を約束された身でありながらそれを放棄するような愚か者。そいつが造り出したモノもまた愚かで傲慢な存在に成り果てていた」


「だから、最期まで何を言ってるかわからねえっての」

「気にするな」

 この言葉を最期に俺はこの世から、まさに世界そのものから消去された。





「傲慢な存在は神だけでいい」


「それにしても、神に無視された腹いせに出来損ないの魔法を世界中にばら撒いたが、使える者すら現れないとは……。大人しく世界を傍観しているだけに留めるつもりだったが、これは一度再構築をする必要がありそうだな」


「ただ、そのためには邪魔な存在がいる」


「神なんぞはどうとでもなるが、私の『情』が計画の妨げになりかねん」


「つくづく人間とは愚かな生き物だ」


「さて、一度神に再教育をしに行くとするか」


 天へ昇ることも、神を地に墜とすことも容易い。

 もはや人間としての枠は大きく逸脱した存在でありながら、人間であることに縋りついていいる。そんな矛盾を抱えながらも――――はいく。

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