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自爆霊「二度と来ない」

「二度と来んなよ」

「……それが弟子に欠ける言葉ですか?」

「一度出て言った以上、お前は弟子じゃない。そもそも弟子だと認めた覚えもない」


「はんっ、最後の最後まで陰険なヤツだったわ」

「招待されてもいないくせに勝手に居座ってたお前らを追い出さなかっただけでもマシだと思え」

「別にもてなしもしてないあんたに気を遣う必要はなかったと思うけどね? こっちはこっちで勝手に寛いでただけなわけだし?」

「……どこまでも厚顔な奴らだ」

 いや、ほんとにすいません。

 早いところこの二人は引き離した方が良さそうだ。


「……ダメ」

「師匠……?」

 そっと離れようとしてたら師匠に止められてしまった。

「お世話になったんだから、最後の挨拶ぐらいはちゃんとしないと」

「そうね。あなたも一応場所を貸してもらったんだから、お礼をいいなさい」


「え~~~!? そんなぁ!?」

「……いや、どんだけ嫌なんだよ」

「当たり前でしょ!? 私は、人に頭を下げることが大っ嫌いなの! それだけでも屈辱なのに、その相手がよりにもよって……!」


「堂々と言ってんじゃねえよ。そして、礼なんざいらねえからさっさと帰れ」


「断る!」

「なんでだよ……」

「師匠に言われたことよ! 一応やってやるわ!」

「おぉ……!」

 言われたから礼を言うのはどうかとも思うが、言えるだけでも偉いな。


「ただし」

「ただし?」

「あんたがどうしてもお礼を言ってくださいと言うならだけどね!」

「……(がくっ)」

 どうしてそうなるんだ。


「言うわけねえだろ」


「師匠~! 私は頑張ったのに、これじゃあだめです!!」

「……そ、そうね。頑張ったわね」

「そこ! 甘やかすな!」

 そんなことだから調子に乗るんだ。


「……ごめんなさい。でも、お世話になった。あなたがいなければあの魔法の使い方には辿りつけなかったと思う」

「……もういいから帰れ」


「言われなくても!!」


「――と思ったが、お前らこのまま帰すとまた来そうだな。俺はここを動くつもりがねえし、お前らのために住処を変えるのも御免こうむる。ってことでお前らには土産をやる」

 だから来るなと?

 いや、俺ら子供じゃねえんだから……。


「しょうがないわね。だったら、貰ってやるわ」

 この聖女はプライド高いくせに、がめついな。

「さあ、早く寄越すのよ!!」


「土産と言っても、物じゃねえ」

 言われなくてもわかる。

 ここには生活用品も必要最低限しか揃ってない。そこで物を出されても困るだけだ。

 下手をしたら、ぷっつんと来て俺に破壊を命じかねん。


「ただし、お前達が欲しがりそうな『モノ』というのは保証してやる」

「あら、大丈夫かしら? 私はこう見えてかなりお金持ちよ? 大抵の物なら自力で手に入れられるわ」

 金よりも持っているのは権力。

 たしかにこいつが望めば大抵の物を手に入れられる。


「やるのは情報。お前達が欲しがる、例の魔法を俺に教えた奴のことだ」





「まず、俺があの魔法を知ったのはかれこれ三十年以上昔の話。俺が酒場で飲んでいると一人の男が傍にやって来た」

「いや、あんた歳いくつだよ」

 三十年以上前に酒場で飲んでるってそんなに歳がいってるとは思わんかった。


「あの頃の俺はまあかなり優秀でな、それもあって調子に乗っていた」

「……調子に乗ってるのは今も変わらないでしょ」

 頼むから変に刺激しないでくれ。

 それにしても結構な時間を一緒に過ごした割りにこの人の過去を聞くのは初めてだな。


「そいつはかなりボロい本を出してこう言ったのさ、『本当に優秀だと言うならばここに書かれている魔法を使って見せろ』とな」

「俺は当然二つ返事で簡単なことだと言ってのけた。それまで理解できない魔法に出会ったことはなかったし、それほど難しいとは思わなかったからな」

「実際、時間はかかったが習得することは出来た」


「それでも使わなかったのは何故? 話を聞く限りでは喧嘩を売られたようなものなのに……」

「まあ、勘だな。使ったらヤバいと思ったからという一点に尽きる」

「本能で生きてるのね」


「だからこそ、こんな生活をしていても生きていられる」


「――それは置いといて、その本っていうのは今どこに?」

 全員で一斉に案山子を見つめる。

 案山子は懐から本……正確には紙を束ねた冊子のようなものを取り出した。

 辛うじて表紙と背表紙に厚紙を使って本の形をしているが、もはや紙束に他ならない。


「これが現物だ。ただ、当時からボロボロだったもので何度も読み返しているうちにほとんどの文字がかすれちまったがな」


「それだと本物なのかどうかの区別がつかないわね」

「まあな。今となってはケツを拭く紙にした方が良さそうな気がする。……それを今日まで持っていたのはある意味お前らに渡す運命だったのかもしれんな」

「……まあ、ありがたく貰いますけど」

 それだけ?


「まあ、そんな昔のことで情報と言われてもピンと来ないだろうが……本題はここからだ。俺が会った男だがな、今になって思うとあんたらに雰囲気が似ていたんだ」

「あんたら?」

「お前の可愛い師匠とそのお友達だよ」

 言われたのはつまりは……。


「私達と似たような? それは妙ですね。あなたも知っているでしょうが、私達はかなり特殊ですよ?」

「それに、あんたが会ったのは相当昔でしょう? そんな時の感覚を覚えてるもの? しかも、その時は酔ってたんでしょ?」

「……だから今となってはって言ってんだよ。本当を言うと確証はねえし、ほぼ忘れてたことだ。証拠も子の通りだしな」


「……嘘は言ってないと思う」

「えっ?」

「これ、なんだか懐かしい感じがするから」

 周りが価値の無いゴミだと言った紙の束を大事なもののように抱きしめる。


「だとしたら妙な話よね。本物なのだとしたらどうやって手に入れたか、そしてそれをどうして手放したか……」

「手に入れた経緯はわからんが、手放したのはもしかしたら手に負えなかったからかもな」


「……はぁ、わかったわ。本物として受け取っておいてあげる」

「おっ、少しは正直になったか」

「あんな姿を見せられちゃ、ね」

 たしかに、あんないたいけな姿を見せられた取り上げられないか。


「それじゃあ、今度こそ失礼します」

「ああ、今度こそ二度と来るなよ」


「ええ、二度と来ません」

 また来たら、今度こそ魔法大戦が勃発しかねないから。

 ただ、最後のお土産か。

 また変に大きな謎が残るモノを渡されてしまった。


 第二の人生は平穏がいいんだが……もう諦めた方がいいのか?

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