破壊者「・・・教えて」
「む~」
元師匠から魔法の使い方を教えてもらってから早数日。
俺は全く進歩していない。
それに思うところがあるのは現在の師匠で……。
「やっぱ、どっちも師匠って考えると呼びにくいな」
「あら、それならどちらかを名前で呼んであげたら?」
「……そうなると今の師匠は名前がないから向こうを呼ばなくちゃいけねえだろ?」
それは嫌なんだ。
「だったら、案山子とでも呼んであげたら?」
案山子?
「遠く、遠くの異国にあるという木製の人形よ。木の棒に枯れた植物を巻きつけたものとか……。木製の足ってところがピッタリでしょ?」
「……凄いバカにした表現のような気もするが」
どんだけ嫌いなんだ。
「俺はどっちでもいいぜ? 別に呼び方なんてどうでもいい。誰かに呼ばれたいわけでもないしな。というかさっさと帰れよ」
こっちはこっちで面倒臭そうにしてるし。
「それにしても昔からお前は進歩しねえな。成長が遅いというか覚えが悪いというか」
「あんたは無自覚な天才だからな」
俺は凡才なんだ。
一つの魔法を習得するのにもかなりの時間がかかる。
「しょうがねえ。手本を見せてやる」
「えっ!?」
どういう風の吹き回しだ!?
「勘違いするな。お前が覚えねえとこいつらいつまでも居座る気だろう」
あっ、さいですか。
「駄目」
「ん~おいおい駄々っ子の相手をしている暇はねえんだ」
「駄目。今の師匠は私。案山子なら大人しく突っ立ってて」
「それなら、ちゃっちゃっと教えてやんな。お前の教え方が悪いからこっちは迷惑してんだよ」
「……やる」
「あら~。あの子、結構頑固よ。これから頑張ってね?」
「……もう一回」
師匠の衝突からというもの、修業はかなり熱を帯びてきた。
「……もう一回」
「師匠、そろそろ場所変えません?」
熱が入るのはいいんだが、かなりのハードスケジュールのためここらの地形はどんどん崩れている。
俺が失敗していることが原因で、周辺の人が困るような事態になるのは避けたい。
それは師匠の心も傷つけることになってしまうから……。
「なかなか上手くいかないものね」
「そうね。かつて、この魔法を創り上げた天才も究極の破壊魔法という下地があってこそ。それをさらに改良した彼もまたその下地を生かしたから出来た事。……創る者とただそれを習う者では至るまでの道に差があるのは仕方がないことだわ」
「だけど、このままじゃいたずらに時間だけが過ぎて行きますね」
「そうねぇ。だったら本人に聞いてみる?」
「でも、彼女が納得するか……」
「大丈夫よ。私達が代わりに聞くだけなら問題ないでしょ?」
「それもそうですね」
「――というわけで私達が代わりに聞きに来てあげたわ」
「……なんでそんなに偉そうなんだ?」
別に何だっていいでしょうに。
「私達に教えれば少なくともあんたと一緒にいる時間は短くなるはずよ。言っておくけど、あの子はかなり頑固だから自分から聞きに来ることはないでしょうね」
「……ったく。この前も言ったが、俺としてはさっさと帰ってくれればどうでもいいんだ。お前らが納得しようがしまいが知ったことじゃない」
「――ねえねえ、修業は順調?」
「…………」
「見りゃわかるだろ?」
「そうよね。しばらく見てたけど、一切成果はなさそうよね」
わかってて聞くんじゃねえよ。
「でね、ヒントをあげよっか?」
「ヒント?」
「そう。私達が聞いておいたの。この前」
「それは……」
そうしてもらえると正直助かるが、果たして師匠がうんと言うかどうか。
「……わかった。教えて」
師匠!?
そんなあっさりと聞くなら、なんであの時断ったんですか!?
「う~ん、いいけどタダじゃあ、ダメ」
「何をすればいいの?」
「ふふふ、おねだりをしてくれればいいのよ」
「そうね。私も久しぶりに可愛らしいおねだりを聞きたいわ」
この二人は本当にドSだな。
正直俺も見てみたい。
「……お願い?」
こてんと首を傾げるポーズ。
「う~ん、可愛いけどもうちょっと!」
「……おねがい」
きゃるんとした女の子おねだり! これは効果ありか!?
「くううっ! 可愛いけど、私の方が可愛いんだからね!」
「おーねーがーいー!」
これは意外!
まさかの駄々っ子スタイルだーーー!
「却下!」
「お願いします」
うおっ、今度は意表をついてシンプルなお願い。
「「却下、可愛くない」」
そして、当然アウト。
「「お・ね・が・い♪」」
最終的には水着でお願いするというかなり強引であざとい手段を取る羽目になった。
まあ、いつだって水着回は唐突だし、俺は元男だから別に紐みたいな水着を着たって恥ずかしくもなんとも……嘘です。見栄を張りました。
かなり恥ずかしいし、屈辱です。
ただ、意外と冷静なのは俺の隣で俺よりも遥かに屈辱に満ちた雰囲気で震える聖女がいたからだ。
「ううっ、なんで、なんで私までっ!」
「ふふっ、一度見てみたかったのよね。こんなこともあろうかと用意しておいてよかったわ」
結局、最後に一人勝ちするのはいつだってこの人なんだ。
ちなみに、この時偶然通りかかった案山子は大笑いして聖女に吹き飛ばされたのだった。
「コツとしては、魔力を一気に貯めるよりは徐々に貯めること、それとそれを一気に出すことらしいわ」
「ただ、それだけだと今までの爆発と変わらないから、魔力を断絶する場所と防御する場所も必要ってことよ。そういう意味では破壊魔法と雰囲気が似ているじゃない? あれは世界を断絶させることが得意なのだから」
「むむ~」
師匠は空中にサッと円を描くとその円の中に火種となる魔力を注ぎ込む。
そうして、時を経た魔力は爆発するのだが、円を越えてくることはなく一定の方向性を与えることが出来ていた。
「……大体分かった。あとは練習」
「はいっ、師匠!」
「……ありがと」
照れくさそうに漏らしたその言葉が誰に向けられたものだったのか、俺達は聞こえないフリをするのだった。




