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聖女「あんたバカ?」

「…………」

「…………」

 二対の瞳が火花を散らし、だが互いにとても愉しそうな表情で睨み合う。

 一人はまあ標準的な美人。

 標準的なのあとに『美人』と付けるのは変な感じがするが、それは内面点が大きく減少させているとしておこう。

 もう一人、こちらの方はお世辞にもイケメンとは言えない。

 いや、お世辞で言うならば不細工と言っておくべきかもしれない。それほどまでに顔面が崩壊している。最初の評価とすると、内面点はさておいて外面点で大きく減だ。


「……こいつがあんたの師匠?」

「この嬢ちゃんが聖女様だって?」


「「こんなに頭がおかしいクズが?」」

 なんでそこが一致するんだと突っ込みたくなるが、いやそれは俺にもわかる。

 この二人は自分のことが好き過ぎるんだ。

 普通は見たくない欠点は自分で蓋をしてみないふりをするものなのに、二人は自分が好き過ぎて欠点すらも愛おしいと思っている。


「久しぶりに帰って来たかと思ったら、面白いおもちゃを引っ提げて来たじゃねえか」

「それに、帰って来たって言い方は止めてもらえません? 別にいたくていたわけじゃないんですから」

 それではまるでここが俺の家みたいじゃないか。

 こんな何もない山奥に用があっても来るわけないじゃないか。

 今日だって来たくなかったのに。


「しかも~おめえは女にもなってるし!? これは笑わずに済ますのが難しいな!!」

「……だからってセクハラはやめてください」

「んっ? せっかく成長を確かめてやろうとしてんのによ」

「いや、元男の胸を触ってもたのしくないでしょう」

「バッカ野郎!! おっぱいはどこについていようともおっぱいだ! お前の胸は女になった時点でおっぱいに昇格してんだよ!!」


「うっ……! なんて正論を……!」


「ただの馬鹿でしょう」


「それは間違いないんだが……」

 男としてはなぁ。


「それはそうとあんたがこいつに教えた魔法について知っていることを話してもらうわよ」

「知ってること? んなもん全部教えたっての。知りたきゃそこのアホに聞きな」

「……はぁ、未だに私にそんな態度を取る奴がいるなんてね」


「ねえねえ」

「!? 師匠いけません! そんな汚いものに触れてはっ!」

「誰が汚いだこのクソガキャアア……ん? 師匠?」

「そ。私が今の師匠」

「こんなチビッ子に……。お前、ロリコンなのか?」

 失敬な!


「チビッ子違う。こう見えてかなり年上」

「ん~?? いや、正しそうだな。どうもただのガキではなさそうだ」


「……へえ、見る目はそれなりにあるみたいね」

「これこれ、失礼ですよ」

「……ほぅ、あんたも人間じゃなさそうだ」

「あら、本当に鋭いんですね」

 あの教主まで驚かせるとは……!


「俺も一回死にかけたからな。それなりに感覚が研ぎ澄まされているんだよ」




「師匠が死にかけるなんて……」

 いっそ……。


「おい!」

「へヴぁい!?」

「……お前、『いっそのことそのまま死んどけば』みたいに思わなかったか?」

「いえいえいえいえ!!」

 思ってました!


「ぶふーっ!! 師匠思いのいいお弟子さんじゃない?」

「うっせ! このバカは昔から敬意ってもんをしらねえのさ!」

「そりゃそうでしょうよ。敬意を払うべき相手じゃなきゃ払わないでしょうよ」

「……はは、ははは」

 やっぱり、この二人は会わせちゃいけない火と油だったんだろう。


「死にかける……魔法を使った?」

「「「魔法?」」」


「そうさ。さすがだな。俺も魔法を使ったのさ。このバカに教えた魔法をな」

「なんっ!?」

 えっ、んじゃ死んだって……。


「師匠!? マジで死んだんですか!? バカなんですか!?」

「……お前にだけは言われたくねえ」

「たしかにね」

「……本当に面白い人ね」


「だから、足が義足だったんですね!」

「……それについては会った時に言えよ」

「あら、昔から義足だったわけじゃないの?」

「少なくとも俺が弟子だった時代は両足きちんとありましたよ」

 逆になんで今は両足なくなってんだ。

 あまりにも険悪だったからそのことについて聞きそびれたわ。


「……でも、使い方が違うよね?」

「「「えっ!?」」」


「すげえな。すぐにわかるのか」

「……わかる。んで、それがたぶん私達の目的」

 なんかこっちの師匠が密かに燃えている!?


「俺もビックリだぜ。まさかあんなクソみたいな魔法だったとは……バカに教える前に試さなくて正解だったわ」

「でも、それならどうしてやってみようなんて……」

「ん~お前が初めて使ったのっておそらく最近だろう?」

「ええ、そうですね」

 そう思えば、波乱の日々だった。


「その時かな、な~んかひょって感じたのさ」

「『ひょっ』?」

「背筋がこう寒くなるような感じでな。気持ちわりぃから色々試した。んで、最後がこれだと思った」


「ただ、それでもそのまま使うのはさすがにヤバいと思ったからな。改良してやったわ」

「改良? ……だとしたら、あなたは相当な才能の持ち主ね」

 事実、そうなのだろう。

 神に認められるほどの才能ある魔法使いが作った魔法。本物の劣化版としてだけど、それでも凄い才能がなければそんな真似は出来ないだろう。


「……負けない」

「ほぅ?」

「あなたよりも私が師匠だと教えてあげる」

「やってみな。俺は別にそんなもんになりたいと思わねえ。そもそも、こいつはもう出て行った。俺が教えることはない」


「やる。何よりもそれをやらないと私がいる意味がない……!」


「やる気になっちゃたわね。こうなれば納得するまでは帰れないか」

「元々そのつもりでしょ? せっかくだから、バカンスを楽しみましょう」

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