破壊者「行くよ」
「行くよ」
力強い言葉で俺達を引っ張る世界最強の破壊魔法。彼女の背中に背負われた身の丈ほどの大きなリュックサック。完全な旅支度。これから向かう先や同行者を考えなければ楽しいものかもしれない。
「当然だけど、私の荷物はあなたが持ちなさいよ」
「……あらあら、大変ね」
「あっ、師匠の分もよかったら」
「それは大丈夫よ。私の分は彼女が持ってくれるから。それに、私だって見た目以上に力持ちなのよ?」
「……これ、本当に大丈夫なのか?」
聖女とダンジョン管理協会のトップ二人を連れた旅だっていうのに、お供が俺と幼女一人。
見た目的な護衛では俺一人だぞ?
あいつらの正体を知っている奴からすれば襲ってくださいと言わんばかりの状況じゃないか。
確実に恨まれている二人の旅にしてはあまりにも警備が疎かだ。
こんな時にこそ騎士というのは使うべきなのではないか。
「大丈夫よ。むしろ私達を襲って来たら可哀想なことはあなたが一番よくわかってるでしょ? それに、正体を知ってる奴らが襲って来る方が不自然だわ」
見ず知らずの山賊やら盗賊に襲われる方がよっぽど確率が高いのだと笑い飛ばして見せる。
「そんなことを心配するよりもお師匠様でも見てたら?」
師匠を?
「正体はともかく、今の姿は小さな子供。張り切ったら、転んじゃうかもしれないわよ?」
「転んだぐらいでは大した怪我はしませんけど、確かにちょっと心配ですね……」
「……おい、そこで俺が悪いみたいな視線を向けるな」
「仕方ないでしょ? こうして旅しているのは誰のせいだと思っているの?」
しいて言うならその張り切っている破壊の権化だし、面白そうだからとついて来たのは自業自得だ。
「まったく、私に無駄な労働をさせるなんて……神でもしないわよ?」
「お前はもうちょっと神を敬え」
なんでこの中で一番敬うべき立場のこいつが一番見下してんだよ。
「疲れたら背負ってもらうわよ」
「なんでだよっ!?」
俺は普通の人間なんだ。人ひとり背負って旅なんて出来るか!
「ったく、だから俺達だけで行くって言ったのに……」
「「だって、面白そうだから」」
この師弟は世界的にも俺的にも最悪だ。
「ねえねえ」
「はい?」
今日もいつも通りに聖女の理不尽な命令を聞き、教主様にからかわれ、真面目な師匠に技を見てもらっていたところ、小さな師匠は何やら真剣な眼差しで袖を引っ張ってきた。
「どうしました? 何か至らないところが?」
技を見てもらっていると言っても、今まで特にこれと言って指導らしい指導をしてもらったことはない。
教主様から見れば、破壊魔法と俺の自爆魔法は似て非なる魔法であるらしい。
それは神が飛んでこなかったことからも明確なのだが、となると師匠に教えてもらえることはあまりないのかもしれない。
そんな師匠が深刻そうにしていたものだから、何か粗相があったかそれともやっと指導が始まるのかと思ったものだ。
「魔法、誰に習った?」
「……さあ、特訓特訓!」
いやあ、師匠は傍にいてくれるだけではかどるなぁ!
「ねえ?」
「それにもしても神もある程度マシなことをしてくれますよね!」
「聞いて」
「毎回毎回死んで戻ってを繰り返してたら、堪らないからって魔法を使ったら戻るようにしてくれたんですからね!」
師匠には悪いが感謝してもしきれないぐらいだ。
「おーい」
「その理由が、毎回毎回出迎えるのが嫌だっていうのには呆れますけどね! もっとちゃんと働けってんですよ!」
「……」
「あっ、師匠! なんだったらもう一回神に攻撃しちゃいます?」
「……あなたにしてもいい?」
「へっ!? はぎゃあああああ!!」
かなり、かな~り弱目とはいえ、世界を破壊する魔法を受けた俺は悲鳴を上げて倒れる。
「自業自得よ。さっきから、無駄に話を逸らして」
「そんなに話したくないことなのかしら? 私も気になるんだけれど?」
「いや、話したくないというか……」
話題に上げるのどころか考えるのすら嫌というべきなんだが。
「あんまり主人が伝えたの覚えてない。どうして知ってるのか気になる」
「……そうね。私もあなたについてはあの方が亡くなってからしか会話してません。それに実体というより私の力で肉体を得るまでの記憶なんて曖昧でしょうからね」
「そう。でも、話を聞けばもう少しちゃんと指導が出来る」
あちゃ。指導方法については本当に悩んでいたんだな。
だけど、それがわかってもあまり教えたくない。いや、絶対に教えたくない! 俺の精神衛生のためにも!
「でしたら(ごにょごにょ)」
「……そんなのでいいの?」
「ええ。間違いなく話してくれるはずです」
なんだなんだ秘密の相談か?
だが、いくら師匠に甘いとは言っても俺も嫌なことは嫌と……。
「ねっ、お・ね・が・い?」
足に縋りついての超上目使い。
しかもこれが美少女とくれば……ねえ?
「わっかりました!!」
男なんてちょろいもんだよ。
「……ちょっとだけわかるわ」
「師匠!?」
「そうです。師匠がいました」
「……普通って言えば普通だけど」
「自爆魔法の師匠っていうのは奇妙な話ですね。そのお師匠様は」
「ああ、やめてください。あいつは様付けなんてするほど偉くないんで」
嫌悪感丸出しに否定すれば、少し驚いたようだが要求は呑んでくれた。まあ、言い方を変えるだけで実害がないからだろうが……初めて要求を押し通せたのがこれっていうのは納得できない。
「その師匠は魔法を使ったことがあるの?」
「いや、ないでしょう」
これは神も俺以外の前例を知らない――正確には前例を認識してなかったことからも明らかだ。
「それなのに、どうやって教えるのよ」
「……まあ、才能だけはあったみたいで」
かなり古い、それこそこの人達が生まれたぐらいの文献を発見してそれを解読。試行錯誤の末に身に着けたと言ってた。
まあ、使ったらヤバそうだから自分で使うつもりはないって言ってたけどな。
「俺としてはどうヤバいのか教えてもらえないし、俺に向いてて威力の高い魔法を教えてもらいたかったんで詳しくは聞かなかったんですよ」
聞いたのは使えば確実に敵も自分も死ぬということだけだった。
だから追い詰められた時の切り札としては十分だと思ったわけだ。
「それに性格は最悪です。ハッキリ言って、いくら才能があろうともあいつに会いに行くのはごめんですね」
ましてや今は女になってしまっている。
この状態で会いに行けばどんな目に合されることやら……考えただけでゾッとする。
「話を聞く限りは面白そうだけど?」
それは同類だろうしな。
「言っておくが、お前も危ないと思うぞ?」
それ以上に会わせたら相乗効果で世界が危ないんじゃないか? せっかく命拾いしたばかりなのに、また世界にトドメを刺そうとしたら、今度はあの神が落ちてきそうだ。
「……行く」
「あら? 行くってどこへ?」
「その師匠のところ」
「えっ!? や、やめません?」
「絶対に行く!」
「……というか場所はわかるの?」
この時、せめて場所がわからないと言っておけば……。悔やんでも悔やみきれない。
「まあ、一応は。どうせ昔の場所から動いてないと思いますから」
「それじゃあ、皆で会いに行きましょうか」
「みんな??」
「そう、あなたの縁者なら私も挨拶しておくべきでしょう? 現雇用主としては」
本音は面白そうってところか。
「いや、俺は遠慮したいんだが……」
「あなたが案内しないと詳しい道がわからないじゃない」
はい、正論ですねー。
「主人の文献。新しい魔法!」
「それにあなたの大切なお師匠様はもう乗り気よ? あれは止めても行くわね。だったら、一緒に行った方が良いんじゃない?」
クソッ、俺は会いたくなんてないっていうのに……!
「大丈夫。いざとなったら、吹き飛ばせばいいわ。今のあなたなら負けないでしょう? ついでに溜まった鬱憤でもぶちまけなさい」
「だ~もうっ、わかったよ!」
こうなりゃヤケクソだ! その代り、会ったら絶対に一発ぶちかましてやる!
「ふふっ、最近は順調すぎて退屈してたからちょうどいいわ」
「しょうのない子ね。まあ、私もいい加減おバカさん達の相手には疲れたところですし、良い息抜きになるでしょう」
「師匠と旅するのは子供の時以来ですね」
「そうね。懐かしいわ」
こうして俺達は旅に出た。
俺の人生最大の汚点と呼べるあいつに会うための旅に……。
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