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自爆霊「これは転性!?」

二章開始です。

「ふんふんふ~ん♪」


「……最近、聖女様ご機嫌だよな?」

「そうだな。あの人が来てからずっとだよ」

「その無茶を言われなくなったんだからいいとしようじゃないか」

 傍若無人な振る舞いをしていた聖女がダンジョン管理教会の教主と世界の危機をから半月。教会内部にダンジョンを創るなどこのところ輪をかけて無理難題を押し付けられていた兵士からすればありがたいことに機嫌の良い聖女様。

 ただ、彼らが聖女に振り回されなくなった反面、被害を受けている人物が新たに現れただけである。


「それにしてもあの人は一体どこの誰なんだ?」




「が~!! いい加減にしろよあのバカ女!!」

 俺は苛立ちを隠さずに叫び声を上げる。

 初めこそ、こんなことを言ったら教会の人間に何をされるかわからないと思っていたが不満をいくら言っても皆同情的な視線を向けるだけ。そうだ。ここにいるのはほぼ全員があいつの被害者なんだ。


「毎度毎度、都合よく使ってくれやがって!!」

 毎度毎度言うことを聞いている(見栄)のをいいことに、あいつの命令はエスカレートするばかり!

 このままでは殺されてしまう! 過労死だ! 労働委員会を立ち上げるべきなのだ!!


「……って言っても、今の俺じゃあ」

 帰る場所も行く場所もない。

 そもそも今の俺を知っている人間があいつしかいない。


「……せっかく、新しい人生を手に入れたのに!!」

「……そろそろいい?」

「はっ!? 師匠!!」

「……ん~、違うよ?」

「いや、魔法を教えてもらってるんで師匠で良いと思いますよ?」

「そんな大したことは……」

 ああ。師匠は俺の心を癒してくれる。ささくれ立った心が一気にほんわかした落ち着きを取り戻すようだ。……あいつとは大違いだな。


「じゃあ、あれ壊してきて」

「はいっ!」

 ただ、心は癒しても師匠は身体までは労わってくれない。

 結局あの女に言われた仕事を師匠がやるように言えば俺はやるのだ。だが、やるしかない。これは特訓でもあるのだから。これを乗り越えた時、俺は一回りも二回りも大きくなっているに違いない。そうに決まっている!


「んじゃ、いっちょ壊してきますか!」

「ん。壊す時にはちゃんと意識してね?」

「わかってますって! そう何度も死にたくはありませんから!」




「――最近、機嫌が良いという噂が何もしてなくても私の所にまで届いて来ますよ」

 今となっては驚愕と共に知れ渡った師弟関係――ダンジョン管理教会教主と聖女の会合という名の茶会は組織の関係性を現すように穏やかに行われていた。

 ダンジョン管理教会はあの騒動を持って、目的を果たしたのかその名を改めダンジョン管理協会という一組織へと代わり、教主も呼び名を会長と改めた。やっていることは今までと変わらない。ただダンジョンが聖女の下に集められているので、ある意味ではギルドの上役のような形になっている。


「ご謙遜を。師匠ならば噂が立っていなくてもその情報を手に入れられるはずです」

 聖女が機嫌が良い。その情報は確かであり、一因としてかつて別れた師匠との関係修復がなったことも挙げられている。現に大した用事がなくてもまるで親子や友人のように頻繁に顔を会わせているのだから。


「それでもあなたが考えている以上に私の力は衰えましたよ」

 神ともう一人しか証人がいないほど長く生きてきた魔法の言葉は知っていれば謙遜としか取れない。

 ただ、これは謙遜ではない。

 組織が改名しただけではなく形態が代わった。組織の長としての力は自然と落ちる。


「まあ、あなたが生きている間ぐらいは大人しくしておきますよ。次代に力を貸すかはそのもの次第というところでしょうか」

「さすがにスケールが違いますね」

「まあ、神から譲歩も引き出せましたし暴れてスッキリもしました。世界のために少しは働くのも悪くないと思いますよ」


「それはそうと、彼についてはあれでよかったのですか?」

「いいに決まってますよ。存外本人も喜んでるんじゃないですか?」


「喜んでるわけあるか!!」


「あら? はしたない。扉を破って入って来なくても鍵はしてませんよ?」

「うるさい! 聞こえるように好き勝手言いやがって!」

「聞こえるようにだなんて人聞きの悪い。師匠と私がいて聞き耳を立てるような輩はいませんよ」

 命知らずな真似は誰もしたくないに決まっている。


「それよりも誰が好き好んでこんな姿になんてなるか!!」

「そう? 可愛いわよ」


「女になってどうしろというんだ!?」


 生命魔法の力で魂の抜けた肉体を操っていた破壊魔法は騒動の後で身体を返却した。

 ただ、問題が一つ。

 魂と肉体は本来離れない。今回のようなイレギュラーの場合を除けば魂と肉体が異なるなんてことはあり得ないので確認は取れなかったが、魂の方が肉体を引き摺る。破壊魔法の性別が女であったため、変化が生じていた。

 それが肉体の女体化。


 副作用というか恩恵で継ぎ接ぎだらけだった傷が消えたのは良いことだったが、それは女体化して身体が縮んだ分の不要になった肉が傷を隠しただけになる。


「いいじゃない。おかげで生まれ変わった第二の人生を大手を振って歩けるんだから。しかも、今を時めく聖女の側近としてよ!」

「それが一番嫌なんだよおお!」

 待遇は生前よりも遥かに良いことは間違いない。だけど、負担は以前の数倍を軽く超えている。

 それを喜べるわけがない。


「喜びなさいよ! 私のおかげでこんな可愛らしい師匠まで手に入れたのよ!?」

 この聖女、何故か師匠という存在にかなりの幻想を抱いているような。


「……頑張る」

 神を説得、というか神の失敗を許す代わりとして負担のない肉体を作り出す分の力を得た教主によって作り出された破壊魔法の肉体はこの中では一番幼くなっていた。

 これは教主の趣味が反映されていることは間違いない。教主もまた幼くして別れた弟子に引き摺られているのではないだろうか。


「……はぁ」

「「「癒されるわぁ」」」

 結局、ここにいるのは人も魔法もダメなのか?

サブタイトルを自爆霊から変更するか悩んでいます。タイトルにも使っているので別にいいかなと思いつつ・・・。

タグにTS・女体化は追加しておきます。

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