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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
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8.後天的超能力―1

「まぁ、そりゃそっか」

 言って、霧島雅はふーんと言いながら、そして、

「ま、いいわ。いくらでも力を増やしてください。私は、『今は』零落希美さえ殺せればいいから」

 霧島雅の『見た』過去。親が殺されたのを彼女は見た。燃え盛る自宅を見た。その中にいた影が、燃え盛る両親の影の前に立つ、炎を操る影を見た記憶。超能力の存在を知ってから、その影が超能力者のモノだ、と思ってきた。

 そのために、過去を見る力を欲した。が、ジェネシスに入り、零落希美に白羽の矢が立った。そして、彼女を殺す事が霧島雅の目標になった。なっていた。






「お前さんの力でもどうしようもないのか? 零落希紀ってのは」

 垣根は問う。垣根は幹部格時代の海塚を知っている。その強さを知っている。超能力の相性で力関係が大きく前後するのは分かっているが、その上で、訊いた。

 それに対して、海塚は悩むような表情。

「それが、実際、俺は零落の力には勝てないと思っていたんだが、この前、実際に対面した時は、どうしてなのか、零落希紀は俺の力を見て引いたんだ。もしかすると、俺の超能力は零落希紀には有効なのかもな。それでも零落希紀が何の超能力を保持しているのか分かりはしないが」

「そうか。なら、チャンスはあるわけだ」

「そうだな」

 答えて、海塚は悩んだ。やはり、幹部格の数の欠点についてだった。だが、それがどうしようもない事も分かっていた。





    40





 閃光という超能力は、最強の超能力、に分類される程強力な超能力である。それは、間違いない。

 現に、

「ッ!! 見切れな、」

 一人、若い男。ジェネシス幹部の男の体が真っ二つに引き裂かれた。そして、衝撃で下半身から切り離された上半身が激しく吹き飛んだ。

 ベルトラ。超反応という、反射神経を極限まで極め、そして、その反射神経に合わせて動けるように肉体強化までされる超能力。

 だが、しかし、光の速度での移動には敵わない。

 ベルトラは、目を見開いて最後の最後まで、驚いていた。言葉は既に出なかった。

 自身の真下で光の閃光の軌跡が続々と増えてゆく。ベルトラが念を押して連れてきていた部下達もが、一瞬にして肉塊にされて行く光景が見えていた。そして、

「ッ」

 ミエル。雷神を打倒した巨漢。いくら肉が厚かろうが、防御力を誇る巨躯だろうが、そんなモノ、光の速さで移動する光郷には無駄だ。無意味だ。そんな壁、薄っぺらい以外でない。

 分厚い体が、吹き飛んだ。

 光郷が動きを止めたのは、次、どっちに向かって飛ぶか、という選択をするための一瞬のみ。結果、光郷はジェネシス幹部格二名、その部下十数名を、たった九秒という恐ろしい程の速度で片付けてしまったのだった。

 舞台となった町はずれの廃倉庫の中は、無残な事になっていた。ここは、一時ジェネシス幹部格の人間が集会所として使用していた場所だが、光郷はそれを知りはしない。数秒すると、上空に吹き飛んで浮いていたベルトラとミエルの上半身が、落ちてきた。辺りに散らばった樽や木材の上に落ちてぶつかって、下半身が落ちている場所からは離れた位置に落ちて既に無残な姿に落ちていた部下達のバラバラ死体の上に乗った。

 光郷はその倉庫の中心に立ち、辺りを見回した。死体の山、というよりは肉塊の山、という状態だった。

(毎度の事だが、回収班はこれを綺麗に片付けるんですよね……ご苦労なことです)

 はぁ、と嘆息した光郷。

 光郷の力は圧倒的だった。その圧倒的力はジェネシス幹部格の連中にも警戒され始めていた。既に、キリサキ、レコン、ミエルにベルトラ、と殺された幹部格の半分を彼が殺している。

 故に、今回、ベルトラはミエルと一緒に相対した。だが、無駄だった。光郷の超能力は、数なんて関係ない。光の速度で移動する人間大の大きさの物体。それが、モノにぶつかって失墜なんて、あり得ない。それに、移動中の攻撃はほとんどが効かないと考えて間違いない。

 つまり、最強。

 だが、超能力には相性が存在する。

「出てこい」

 光郷が、不意に言った。倉庫の中に響く大音声で叫んだ。

 その声に引かれる様に、倉庫の入り口から、一人の男が、ゆっくりと歩いて入ってきた。

「気付いてたとはなぁ。まぁ、別にいいけどよぉ」

 金髪を逆立てた短めの髪に、右目の下に謎の模様を描いたタトゥーが目立つ。ジェネシス幹部格の男。飯島を殺した張本人。イザム、である。

「見覚えのある顔だ」

 ゆっくりと歩いてくるイザムを見て、光郷はそう呟く様に言った。

「そりゃそうだろ。あと煽るが、お前らん所の炎人間、殺したの俺だから」

 イザムは光郷から八メートル程度離れた位置で足を止めた。嘲るイザムの態度に、光郷の表情が曇った。

 炎人間と言われ、光郷は一瞬脳裏に垣根の事を思い浮かべたが、すぐに違うと気付く。

(飯島を殺したのは、この男か……!!)

 警戒が強まった。だが、それ以前に、怒りで震えた。

 今すぐ、一瞬でこの男、イザムを殺してやろうと思った。そして、すぐに実行した。

 だが、光郷が彼に向って突っ込むその瞬間、光郷が見たのは、イザムの不気味な笑みだった。どこか自信に満ち溢れた、光郷の事は把握していて、それでも尚、勝てると思っているような、そんな不気味な笑みだった。

 イザムは動かなかった。

 イザムの両脇を、光郷の体が、通り過ぎた。

 一瞬だった。何をされたか、全く理解出来なかった。普段通りであれば、光郷に突っ込まれたその瞬間、イザムの体は真っ二つにされ、吹き飛んで散らばるはずなのだが、どうしてか、今回それは、全く逆の結末を迎えてしまった。

 光郷の体が散らばって、悲惨した。最後に、真っ二つに切断された眼鏡が、どこか遠くで落ちる音がした。

 一瞬だった。超能力の相性が悪かった。たったそれだけだった。それだけで、四人もジェネシス幹部格を殺してきた光郷が、バラバラの肉塊へとされてしまった。

「ふぅ……。触れなきゃ殺せない超能力なら、俺には勝てねぇよ。バーカ。ま、様子見て俺が勝てないような相手だったら俺もこの場は引いてたがな」

 そう吐き捨てる様に言ってイザムが振り返ると、そこに、一つの影。

「つまらないな。俺がぶつかりたかったんだけど」

 アイト。若い黒髪短髪の、真面目そうな男だった。

 彼は、『閃光』である。閃光として、閃光とぶつかりたいと思っていたのだろう。だが、ここはイザムの方が確実だ、と踏んでイザムがアイトを差し置いて出てきたのだ。

 光郷という一人の男に対して、ここまで予防線を張っていたのだ。幹部格四人。相当な壁である。連中が殺人競争を止めてまで、殺さなければならない、と判断した程の実力を、光郷が持っていたのだ。

 結果、光郷は殺された。これは、ジェネシス幹部格にとって大きな一歩だった。

「しかたねぇだろ。俺がやった方が確実なのは見て分かってたんだからよぉ」

「そうだな。まぁ、ここは譲って正解だと思ってるさ」

 アイトはそう言って踵を返してそのまま倉庫から出ていった。イザムはこの場に残り、周りを見回した。肉塊だらけの周りを。

(殺されすぎだろ……。ベルトラとミエルもやられちまった。これで俺らは残り八人。相手は……、三人、か。内一人は千里眼、非戦闘要員。それに千里眼は確かイニスが狙ってたな。戦闘要員の敵は残り二人。ってこたぁ、もはや誰が誰を殺したなんてどうでも良くなってきたな。なんにせよ、油断はできないな。まだ、相手には液体窒素とやらがいるらしいからな。セツナがあれだけ警戒しろなんて言うくらいだ。間違いなく強ぇはずだ)

 イザムは嘆息して、この場を離れた。味方の死は彼にとって、本当にどうでも良かった。

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