8.後天的超能力
8.後天的超能力
七月頭。やっとこの頃、殺された幹部格や飯島の後の事情が終わった。それでもまだ、NPC日本本部はジェネシス幹部格との抗争は終える事が出来ていない。長谷琴も退院こそできたが、まだ傷は完治していない。
海塚は頭を抱えたかった。幹部格を二人失った。手負いなのは相手も同様だが、もとより幹部格の数はNPC日本本部の方が少ない。まだまだ、幹部格候補となる超能力者はいるが、最も幹部格に近いと思われる郁坂恭介はまだメイリア・アーキの下で修業中であり、時点の春風桃はまだ、足りない。他にもまだいるが、これだ、という素材はやはり、郁坂恭介と春風桃以外になかった。
幹部格は残り四人、それと同等の動きができるのが、海塚。NPC日本本部には、ジェネシスで言う所の零落希紀のような存在はいない。
が、戦力外の戦力は、存在する。それが、地下に眠る三人の暴走した超能力者だ。海塚は零落希美と一緒に働いていたのだ。その実力は知っている。そして、自身と同等の力を持った超重力の存在。そして、想像を具現化出来る実現化の存在。今は動けない彼らだが、動けるようになれば、使える。そう海塚は思っていた。
だが、使える当てなんてなかった。海塚の場合、この件に関しては恭介の強奪も当てにできない。強奪してしまえば、その時点で超能力者でなくなってしまうのだから。
いや、違う。期待はやはり、恭介に向けられていた。
仮に、恭介が触れずとも強奪を発動できるようになった場合、不死鳥も、超重力も、実現化も、全て、恭介が使えるようになるのだ。
やはり、恭介の潜在的能力はバケモノ級だと言える。
だがやはり、当てにしている場合ではない。郁坂恭介が帰ってくるまでまだ二か月近くある。それに、恭介がどこまで成長して帰ってくるかなんてわからない。途中経過を聞こうとメイリアに連絡を取った事もあったが、まかせなさーい、という一言で足蹴にされてしまっていた。
つまり、今、現状ある戦力でジェネシス幹部格との対応をしなければならない。普段通りの任務には班を送る。幸いにも班の数は足りていた。
だが、隊長、隊員クラスの人間に、ジェネシス幹部格の相手をさせるわけにはいかない。実際に飯島が殺された。
幹部格の動きを、考えねばならないと思った。
中でも液体窒素、零落希華だ。彼女の力は間違いなく、現NPC日本本部内で最強である。背後からであろうが、認識外であろうが、敵意を持って攻撃してきた相手は全て、その時点で殺される。最強の戦闘用超能力である。
彼女をぶつければ、相手がジェネシス幹部格と言えど、ただでは済まないはずだ。それに、零落希紀に唯一ぶつける事の出来る幹部格は、彼女だけだ。零落希紀が海塚にぶつかってこない場合は、零落希華をぶつけなければならない。
「がははははは。次の幹部格は決まったのか? 海塚」
海塚のオフィスに垣根がづかづかと入ってきた。海塚は疎ましそうに視線をやるが、そう思っているわけではない。
「決まらないな。今のNPC日本本部に、そこまでの力を持った者がいるか」
はぁ、と海塚は頭を抱えた。分かっているくせに、と呟いた。
「恭介はどうだ?」
「二か月先まで帰ってこないぞ」
「春風ちゃん」
「まだ、少し実力が足りないな。熟練度もだ」
「……じゃあ、やっぱり、アレだな」
「アレ……?」
垣根の発言に海塚が眉を潜める。何だ、と聞くと、垣根は少し悩むように、答えた。
「応援。ジェネシス幹部格との戦いの間だけでも、他の支部から幹部格を借りるしかねぇでしょ」
「それは当然だ。だが、ジェネシス幹部格がどこに出現するかはわからん。現に『北海道の方で一人、ジェネシス幹部格と思われる敵に三人の幹部が殺されている』。確かに東京を中心に出現してはいるが、他の支部も油断はできない状態だ」
「だったら海外からか」
「海外からの応援は期待できないぞ」
「やはり、『戦力にならないか』」
「あぁ、そうだ。それに、連中が暴れれば被害が出るのはこちらかもしれない」
「そうだな。……、だとしたら、どうしたもんかねぇ。敵はまだ一○人いる」
「その通りだ。対してこちら側は私含めて幹部格は五人。一人二人以上を相手にする事になるし、それに、零落希紀とやらの存在も気になっている」
「零落希紀……やはり、零落ちゃんとの関係が?」
「あぁ、三女だ」
「そうか」
垣根は大した反応は見せなかったが、零落一族を知っている。超能力一族を知っている。その驚異的な力を持っていたとしても、零落一族だと言えば驚かない。驚く理由がない。
だが、その相手が本当に脅威なのだ、と知っている。
垣根はNPC日本本部に長いが、零落の力には勝てないと知っている。垣根は炎系統の超能力者だが、不死鳥には勝てないと分かっている。
それ程の差がある。零落一族の超能力は暴走の危険を持っていながら、ぎりぎりのところまで熟練されている。今まで、数例しか確認されていなかった、超能力の自動発動だって容易く可能にする。
零落一族。
「霧島雅。お前に新しい超能力を与える」
セツナは自身のオフィスにて、霧島雅にそう告げた。霧島雅は訝る。
「何? 別にほしくないんですけど」
霧島雅は目的のために、過去を見る力を欲していた。だが、存在しなかったがため、『零落希美』を殺すための『力』を得た。今、霧島雅は自身の力を、最強、だと思っていた。それはあまりに無知だったが、セツナ達彼女の周りの人間は真実を伝えや、知識を与えやしなかった。確かに、霧島雅は戦闘という面で強い力を持っていたからだ。
そんなことより、とセツナは『自分のために』動く。
「いいや、お前の力じゃまだ、零落希美には勝てない」
「?」
その言葉に霧島雅の表情が歪んだ。僅かに苛立った。が、堪えて、言い返す。
「……そもそも、零落希美とは戦えないんじゃ? 今は」
「その問題は『なんとか出来る』。問題は、その先だ」
セツナは――知っている。
「零落希美――零落一族は、その超能力の熟練度が高い事で有名だ」
「一族? 超能力の一族ってあるの?」
零落一族を、だ。
「そうだ。お前なんかもよく知っているだろう。郁坂恭介のあの郁坂一族は他人の超能力に干渉するタイプの超能力を使う一族だ。そして、熟練度が恐ろしく高い零落一族。他にも、情報があるだけで超能力一族ってのはまだまだいそうだ」
咳払いの後、話を戻す。
「とにかく、今の君の力では足りない。君には『私よりも強くなって』もらわなければならない」
セツナには目的があった。郁坂恭介や神威兄妹の対処をイザムに譲ったのも、その目的の存在があったからだ。
セツナは零落一族を知っている。つまり、零落希紀の存在を知っている。どうして、神威業火がその存在を自分達に伝えないのかは、すぐに分かった。自分達よりも、零落希紀が強い力を持っているからだ。その強い力が、どう使われるかなんて知りたくもなかった。
セツナは神威業火の零落希紀の扱いを探った。ほとんど情報はなかったが、身内程度の人間しか把握していないという事は、理解した。
セツナの目的は、零落希紀を暗殺し、神威業火に幹部格の力を認めさせる事である。
そのために、人工超能力の許容を大きく持つ霧島雅に、白羽の矢が立てられたのである。
セツナは霧島雅を育て、零落希紀との対抗馬にしようとしている。それに、零落希紀を倒せれば、零落希美を倒すだけの実力を持っているという事にもなる。
この時点では、win-winである。
「幹部格リーダーのあんたより強くなっていいの?」
霧島雅が嘲るように笑う。
セツナは頷く。
「構わん。もとより私よりも強い人間はいる。それに、我々幹部格の中には複合超能力者はいない。一つの超能力に熟練した状態だ。超能力の相性で強さも変わるさ」




