7.幹部格―12
通話を終えて、垣根は車を出す。
そのままNPC日本本部へと向かった。海塚達とはそこで合流する。
この先、忙しくなりそうだった。仁藤は身よりとの関係を持っていないし、桜木もそれに当てはまるが、それでも、死んでしまえば、やらなければならない事も出てくる。
NPCのメンバーが悲しむだろう、と垣根は誰にも言いこそしないが、思っていた。垣根だって、悲しかった。幹部格として、泣いたりなんてできなかったが、それでも、泣きたいくらいには悲しかった。仲間が減ったのだ。仕事上、それは当然あり得る事なのだが、それでも、死に慣れようが、身内の死には情が湧いてしまう。まだ、慣れない。一度の攻撃で数千の軍勢を燃やし尽くす程の力を持った垣根でも、まだ、慣れない。
車を走らせながら、垣根は考える。
(仁藤と桜木が死んだ。残る幹部格は俺、液体窒素、千里眼に閃光、か。長谷ちゃんは負傷中、あと一か月弱は動けない。それに、もとより戦闘向けじゃない。光郷と、零落ちゃんが負けるヴィジョンは見えないが……、最悪の場合も考えておかないといけないな。当然、俺の事も含めてだが。対するジェネシス幹部格は残り一○人。セツナっていけすかねぇ野郎がリーダーだって事くらいしかわかってねぇ状態だ。警戒は最大限にしておかなきゃならねぇ)
そして、垣根はこのタイミングの良さも感じる、
(強奪――郁坂恭介がこの場にいなかったのは、良かったのかもな。連中は、きっと、恐らく、恭介の強奪も狙ったはずだ。それに――神威兄妹も、だ。今は亜義斗の治療のために表に出していないから良いが、もし、前線に出していたら、狙われていたはずだ。零落希紀とかいう存在もあるしな。……郁坂恭介が、戻ってくるまでに、全てを片付ける事が望ましいが、……勝てるかどうかすら怪しいところだ。一体この先、どうなるというのか)
垣根は、幹部格の中でも、地位の高い男だった。流がまだNPC日本本部に存在したころ、流が幹部格の中で一番に頼りにしていた男が、垣根だった。
垣根は、NPCに思い入れの強い男だった。その超能力の様に、熱い男だった。裏切りなんて、絶対にしない男だった。そもそも、幹部格から裏切り者など出るはずがない。その信頼は固く結ばれている。単なる実力集団というわけではない。それに、琴には恭介という存在がいる、零落希華には零落希美という存在がいる。垣根には今まで築いてきた信頼がある。光郷は堅物だが、幹部格を信頼している。
崩れるはずがない。だが、二人、殺されてしまった。崩されてしまってきていた。
(海塚は、幹部格の補充は考えているのか? いきなり人員を増やすタイミングではないが、相手はまだ一○人はいるし、零落希紀の存在もある。人手があるのは助かる。だが、……次、幹部格に上がるのは、誰だろうな)
考えてみる。
(飯塚がそれなりの候補だったようだが、炎系超能力だと俺と被るしな、それに、もう飯塚はいない。――やっぱり、最有力は恭介、か。うん、そうだな。あいつの力は未知数だ。それに、何より、郁坂家の長男で、流さんの血を強く受け継いでいる。メイリアの訓練を終えて、余程成長していなかった、なんてなければ、即幹部格の可能性もあるな。――他には……春風ちゃんか。あの子の氷の……水か。水の超能力の熟練度は恐ろしく高い。後僅かでも成長すれば十分幹部格に慣れる実力者だ。体術スキルも問題ない。ってことは、今の長谷ちゃんの班は、崩されてそれぞれが幹部格として動く、なんて事にもなりかねないな。すげぇな)
垣根は恭介、桃の二人に期待を置いていた。恭介は当然、その血筋と現在の力、そして桃は、その超能力の熟練度の高さに関心を置かれていた。垣根が思うのだ。この二人は幹部格に上がれると。それはつまり、幹部格の『古株』が、幹部格と同等の力だと認めているという事である。
39
「やっぱり、超能力ですよ! 超能力!」
霧島深月は山中の中に隠されていた何かの組織のモノとみられるアジトの中で全てが燃やし尽くされたその場をライトで照らして確認しながら、そう言った。どことなく嬉しそうな声に一緒に来ていた彼女の直属の上司、煤島礼二課長はうんざりするような表情を見せて答えた。
「バカな事を言っているな」
そう言いながら、煤島もライトで照らして辺りを見回していた。
煤島はここに来た理由に疑いを抱いていた。
(どうにもおかしい)
煤島は、ここがとあるヤクザの作った新しい組の事務所だと聞いた。だが、そんなはずがない。そもそもこんな場所に作るはずがない。そして、ここまで燃えつくされる理由がない。
まるで、火炎放射器で長時間焼かれ続けられたかのような光景が広がっていた。当然電気はつかず、山中に隠されるように作られたこのアジトはライトなしではすぐ目の前も見えないような状態だった。
ライトで照らしてあたりを確認しても、全てが炭と化していて、何が何なのか、判別もできないような状態だった。
ヤクザ同士の抗争でも、ここまではならない。四課の男、煤島はそれを知っている。分かっている。RPG一発ぶっぱなしたところで、ここまではならない。
案外、超能力という線もありなのかもな、と超能力の存在を知らない煤島でも思った。
だが、霧島深月は確信していた。
霧島深月もまた、ここがヤクザの事務所だなんて思っていない。彼女は、超能力を知っている。つまり、すぐに気付く。ここは、超能力者関係の組織のアジトなのだ、と。
(はは……、やっぱり、おかしいよ。警察《私達》が形式のためだけに動かされてる。ここが、ヤクザの事務所なはずなんてないのに。大事になったから一応調査はしましたって事にしたいんでしょうね……。一体、私の知らないところで何が起きているっていうのかしらね)
霧島深月は笑った。以外にも身近な所に隠れている超能力の存在を感じ取っていた。
霧島深月は周りに言っていなかった。あの日の出来事を。どうせ誰にも信じられやしない。だから、あの日の出来事は胸の内に秘めておき、そして、自身だけで『調査』を進めていた。超能力に関しての調査だ。
霧島深月は、あの日出会った三人をまだ、追っていた。恭介、桃、琴の三人だ。だがまだ、名前すら把握できていない。こうやって、少しでも超能力の存在が残るところを回って、少しずつでも情報が増やせれば、答えに近づけるような気がしていた。
そして、超能力をいう存在を知った霧島深月は、ある『疑惑』を抱いていた。それは、過去について。霧島深月と『実妹である霧島雅』の過去についての、疑惑。
(ずっと、信じる事が出来なかったけど、お姉ちゃん。やっと気付けたかもしれないんだ。雅、真実がわかったら、その時……)




