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NO,THANK YOU!!  作者: 伍代ダイチ
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7.幹部格―6

「鈴菜ちゃんはでも、これから大変だぜー」

 能天気に桜木が言う。彼は彼女を見る側の人間だ。彼の手加減次第でそれは変わる話なのだが。

「でも、頑張りますよ。NPCの人に救われてから、私はこの超能力を正しい方法で活用するって決めましたから。覚悟は出来てます」

 そう言って桜木に微笑む鈴菜。なんだかんだ、不安も抱きつつ、先、未来を楽しみにしている彼女であった。

「ところでさ、まだ確認してなかったけど、鈴菜ちゃんのその無制限透視って、どれくらい熟練されてるのかな?」

 訊かれた鈴菜は少し考える様に唸ったと思うと、応えた。

「まだまだ私は未熟ですよ。能力そのものは透視のそれで、見ようと思ったモノをはっきりと見えるんですけど、距離はまだ一○メートル前後までしかわからないんですよね」

「そうか、ま、これからだな」

 がはは、と桜木が笑うと腹部が揺れた。

 ふと、思い立った様に、桜木が提案する。

「そうだ、ちょっと、あの壁の向こうに何があるか見てみてくれよ。正確さが知りたいしなぁ」

 何気ない提案だった。だが、それが、

「いいですよ――ッ!!」

 突如として、鈴菜が上体を大きく逸らした。その、鈴菜の顔が合った場所で、何か空を切る様な音がした。

 鈴菜は即座にバックステップをして、桜木の後ろ三歩分の距離まで下がった。そして、叫ぶ。

「桜木さん! 『何か』います!」

 言われて、桜木はすぐに敵だと気付いた。即座に、体中に稲妻をまとった。そして、構えた。

(姿が見えない……透明人間ってか? それとも認識に齟齬を起こすタイプの存在か……? いや、鈴菜ちゃんの透視で見たんだ。きっと、透明人間の方だ)

 桜木の身体からバチバチと青白い閃光が跳び、そして、それは道の両脇の家や壁に触れない程度のところまで伸びて、稲妻の壁を作っていた。鈴菜を守るための咄嗟の策だった。

 敵は前方にいる。それが、桜木の持つただ唯一の情報だったからだ。

「鈴菜ちゃん。敵の居場所は分かるか?」

 これだけは、どうしようもない。超能力は様々あり、それぞれにそれぞれの特性があり、良い点悪い点がある。桜木には、透明人間が見えない。見える様にする術はあるが、場所が悪い。

 ここは住宅街だ。辺りは既に暗く、人も見当たらないが、それでも、大暴れは出来ない。

「……見えてます。桜木さんの前方、三メートルくらいのところで笑ってます」

「笑ってる?」

「はい。笑ってます」

 言われて、桜木は前方三メートルの位置を睨む。が、やはりその姿は見えない。やはり、透明人間。そして、すぐに思った。敵は、やはり、ジェネシス幹部格の人間なのだろうな、と。

「ジェネシスだろ。どうした。近づいてこいよ」

 桜木が煽る。だが、前進は桜木の放つ稲妻によって許されない状況である。

 敵がどうでるか、桜木はそれを伺っていた。

 だが、どうしてなのか、

「ッ!! 敵が振り返って、そのまま歩いていきます!」

「はぁ?」

 思わず桜木も間抜けな声を出して驚いてしまった。敵は、遁走したと言う。暫くして鈴菜が「いなくなりました」と続いて、桜木は稲妻を消滅させた。ずっとバチバチと鳴っていた場は、静まり帰った。

 不満げな表情のまま、桜木は問う。

「本当に、去ったのか……?」

 予想外の事態に桜木の疑いは味方相手に晴れていない。

 だが、鈴菜は頷く。

「本当です。そのまま歩いて何処かに行きました。今見てみても、私の見える範囲内には見当たりません」

「そうか……」

 一体何しに来たんだ、と桜木はぼやく。鈴菜も不満げな表情で眉を潜めていた。二人共、敵が去った意味は理解出来ていなかった。





「っ、くっそ。あぁもう! まさか私の透透明化を見破る超能力者が一緒だなんて思わなかった。あーもう」

 何処かの大型の倉庫。夜闇の中に溶け込むそこに、四人の影があった。そうやってぼやいていたのが、二○代程の女だった。化粧の濃い、目つきが鋭いギャルの様な容姿の女性。彼女の名はイニス。ジェネシス幹部、透明化の超能力を保持する、いわば透明人間である。

「ぎゃははは。お前、気づかれたら何もできねぇのな」

 無造作に置かれた樽の上に腰掛けてイニスを笑うのは、イザム。

「まぁ、それでも、相手に気づかれないで攻撃したら勝ちってガキが考えた様な設定を実行出来るんだから、すごい超能力には変わりないわよ」

 と、彼女をフォローしたのはキーナだった。

 だが、イザムに乗る人間もいる。

「だがしくじったには変わりねぇだろうが。大体相手はNPC日本本部の雷神だろう。『俺が行くべきだった』」

 そういうのは、積み上げられた木座に寄りかかり、それをミシミシを体重で鳴らしている肥えた坊主頭の男だった。彼の名はミエル。体重一二六kg。身長一七八cm。彼の超能力は、『雷神』である。彼は、ジェネシス幹部格の雷神だ。

 目には眼を。歯には歯を。雷神には雷神を、という事なのだろう。

「うるっさい! あの女さえいなければ、私は既に雷神を殺してたっての!」

 ふん、とイニスがそっぽを向いた。

 ジェネシス幹部格の人間は、今、NPC日本本部幹部格を殺すためだけに、動いている。NPC日本本部の幹部格の人間は六人しかいない。対してジェネシス幹部格は生き残っているだけで一二人いる。誰が誰を殺すか、競いあっていた。全員が、そのゲームに乗っていた。

 そのゲームの最中、ミメイ、ミコ、キリサキと殺されて、ジェネシス幹部格はNPC日本本部の幹部格に殺し甲斐を感じていた。

「さぁて、イニスが失敗したところで、まず誰が、先手を取れると思う。お前等?」

 イザムが三人を見て訊く。先手を取る、とはつまり、誰が一番最初に、NPC日本本部の幹部格を殺すか、という事である。

 イザムはこういう話になると、自分に絶対的な自身を持って手を上げるタイプの人間だが、今回は違う。場が、違う。ジェネシス幹部格はそれぞれが、それぞれの力量を知っている。全員が一つの超能力に恐ろしい程にまで特化している事を知っている。故に、単純な疑問。

 それにまず応えたのは、ミエルだった。

「自分だって言えないのが悔しい話だが、俺が思うに、やっぱりセツナだろう。『動けば』、だが」

 ミエルのその言葉にキーナが頷いた。

「そうね。なんだかんだ、セツナがリーダーとしてやっぱり一番強い。超能力も戦闘に向いているし」

 そんな会話の流れを切ったのはイニスだった。

「えー。私は私か、マイトかエミリアだと思うなぁ」

「また三人も上げるか」

 イザムがやれやれと呆れた。が、イニスがしっかりと返した。

「マイトとイザムは既に三人殺してるじゃん。マイトの超能力があったから、イザムの攻撃が通用したんでしょ。なんだっけ、飯塚とか言ったっけ。NPCの雑魚。それに、エミリアは正面から戦ったら私達の中じゃまず勝てないしね。セツナでも。それに不意打ち専門の私で三人」

 キーナが一理あるわね、と言って頷いた。イニスの発言は身勝手なそれの様に聞こえたが、確かに、筋は取っているようで、全員が納得した様な表情をしていた。

 そんな話を無理矢理変えたのはまたしてもイニス。

「よーっし、まぁ、雷神は雷神に任せるわ。私は見破られたのがなんか悔しいし、『千里眼』、狙おうかなー」

 立ち上がって、両手を上にあげて背伸びをするイニス。

「オイオイオイ。千里眼は戦闘要員じぇねぇっての」

 イザムが呆れた様に言う。が、しかし、

「いーの。ま、今はキリサキの攻撃で負傷して入院中って話だしね、復帰してから勝負を挑むよ。透明化を見破れる体術の達人と、不意打ちを得意とする透明人間の戦い! どう? おもしろそうじゃないかな?」

 勝手にしな、とキーナが嘆息した。ミエルは雷神をあてがわれた事で不満がないのか、何も言わずに太い腕を無理矢理組んで俯いていた。

「何にせよ、他の連中に取られりゃ終わりだけどな」

 そう言って立ち上がったイザムは、不気味に笑んで言う。

「俺は、幹部格もそうだが、NPC日本本部の頭、海塚伊吹、それに寝返った神威兄妹、それに、郁坂恭介。この三人を殺せれば良いからな。セツナにも俺が死ぬか連中を殺し損ねるまで、動かないでくれって言ってある」

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